自分の香水を楽しむことと、周囲の空間にも香りがあってほしいことは、同じでしょうか。ドイツの成人1102人への調査では、無香料製品を好む人の62.2%が、自分を魅力的に感じるために香り付き製品を使うと答えていました。香りへの好みは、単純な賛成・反対の二つに分かれていませんでした。
2020年に発表されたこの論文の主目的は、香り付き製品で不調を感じるという自己申告と、製品の選択、情報の利用、香りのある場所の回避がどう結び付くかを調べることです。無香料の空間や方針への支持、生活・仕事への影響も扱っています。
「敏感な人」と「無香料が好きな人」は、重なるが同じではない
研究は2019年に行ったドイツ語のオンライン調査を分析しました。対象は18〜65歳で、年齢、性別、地域について代表性を持つように抽出され、回答完了率は83%でした。香り付き製品の使用、本人が関連付けた体調への影響、公共空間や職場での経験、無香料への希望などを尋ねています。
論文では、香り付き製品への接触で一つ以上の健康上の悪影響を経験したと答えた219人、全体の19.9%を「香りに敏感な人」と定義しました。これは調査上の自己申告による分類で、診察で確定した病名ではありません。
一方、無香料の製品があればそちらを好む人は458人、41.6%でした。敏感だと答えた人の62.6%は無香料製品を好みましたが、無香料を好む人のうち敏感だと答えたのは29.9%です。二つの集団には重なりがあり、互いに独立した比較群でも、同じ集団でもありません。
自分を魅力的に感じるための使用と、他人への好みは別だった
全体の72.5%が、香水やデオドラントなどを、自分を魅力的に感じるために使うと回答しました。敏感だと答えた人でも54.8%、無香料製品を好む人でも62.2%が、この使い方をしていました。
これに対し、香り付きの身だしなみ製品を使う他人を、使わない人より魅力的だと思う回答は全体の45.4%でした。また別の質問で、香水などを付けた人のそばにいることを魅力的だとしたのは44.8%です。この二つは似ていますが、尋ねている対象が異なります。
著者は、香りの種類や濃度の好み、自分で選べること、製品の使い分けなどが関わる可能性を挙げています。たとえば空間や洗剤は無香料がよくても、自分用の香水は使いたいという考え方なら、必ずしも矛盾しません。理由そのものを詳しく聞き取った調査ではないため、回答の背景は推測として扱っています。
香りを理由に、行けない場所や使いにくい設備がある
敏感だと答えた人の51.1%は、不調につながる香り付き製品に接することを避けるため、行けなかった場所があると回答しました。敏感だと答えなかった人でも9.7%に同様の経験がありました。
店舗などで芳香剤のにおいがすると、できるだけ早く出たいという回答は、敏感な群で48.4%、それ以外で5.7%。公共のトイレを使えない、または使いたくないと感じた経験は43.8%対9.1%でした。香り付き石けんのため手洗いを避けた経験も尋ねています。
これらは、実際にどれだけの香料へ曝露したかを測った記録ではなく、本人の経験の回答です。それでも、香りのある環境が、利用できる場所や日常の選択に関わっていると感じる人がいることを示しています。
成分情報を読むことと、製品を使うことは一直線につながらない
香料について知るために製品の表示を読むという回答は、全体で28.3%、敏感な群で44.7%でした。特定の香料成分に関する情報が購入判断に影響するという回答は、全体で31.8%、敏感な群で54.3%です。
有害な大気汚染物質を放出すると知った場合、その香り付き製品を使わないと答えたのは、全体の48.2%でした。これは仮定の質問への意思表示で、その後の購入や使用を観察した結果ではありません。
著者は、情報を伝えるだけで行動が自動的に変わるという考え方には限界があると論じています。好み、生活習慣、魅力的に感じたい気持ち、情報への信頼など、複数の事情を踏まえた対話が必要だという解釈です。広告や心理的な不一致の影響にも言及していますが、それらの原因を実験で切り分けた研究ではありません。
無香料への希望は、製品と場所で異なる
洗濯後の衣類は香りが残らない方がよいと答えた人は36.5%で、香りを好む人は48.1%でした。一方、空気に香りを付けないホテルを好む人は58.4%、飛行機では57.0%でした。香りを好むかどうかは、何に、どこで使うかによって変わります。
無香料の方針への支持も一様ではありません。医療施設や医療従事者に対しては46.4%、職場では33.2%、トイレの芳香剤禁止では21.6%でした。敏感な群ではそれぞれ63.9%、54.3%、45.7%と高くなりましたが、全員が支持したわけではありません。職場の方針などでは「わからない」という回答も多くありました。
生活への影響と、著者の提言
過去1年に、職場の香り付き製品に関連する不調、仕事を休むことや失職を経験したという回答は、全体で5.5%、敏感な群で22.4%でした。論文は自己申告の収入減、医療費などから経済的負担も推計しています。
ただし、年間費用は抄録・本文・表では145億ユーロ、見出し・結論・補足計算では148億ユーロと記載が食い違います。補足では成人の回答割合を子どもなども含むドイツの総人口へ広げて計算しており、推計対象にも注意が必要です。調査回答からの推計であり、香料が原因だと個別に検証した経済損失ではありません。厳密な社会的費用としてそのまま採用するには注意が必要です。
著者は、こうした不便や希望を踏まえ、無香料の公共空間や製品の選択肢、使用量の低減、成分情報の改善などを提言しています。これは調査から導いた政策上の意見で、各対策の効果を比較した試験結果ではありません。
調査は一時点の自己申告で、成分量の測定や医療診断を伴いません。質問の選択肢や香りに注目する構成が回答を導いた可能性も、原著は認めています。調査対象に含まれない子どもや高齢者、日本の生活環境へ割合をそのまま移すこともできません。
まとめ
香りで不調を感じるという自己申告がある人でも、自分を魅力的に感じるために香り付き製品を使う人は半数を超えていました。一方、無香料を好む人は敏感な群だけに限られず、空間や製品、方針によって希望が変わりました。
この研究が示したのは、香りの好み、体調に関する経験、情報の利用、場所を選べるかという問題が、複雑に重なっていることです。自分の香りを楽しむ気持ちだけから、周囲も同じ香りを望んでいると推測しないこと。その背景を具体的に尋ねる大切さが読み取れます。著者は、情報提供だけに頼らず、無香料の選択肢や公共空間のあり方も検討すべきだと提言しています。
著者はこの研究作業自体への資金提供は受けていないとし、調査には大学の裁量的研究資金が使われたと記載しています。利益相反はないと申告しています。
参考文献
Klaschka U. Between attraction and avoidance: from perfume application to fragrance-free policies. Environmental Sciences Europe. 2020;32:98. doi:10.1186/s12302-020-00377-8


