イチゴとカラメルの香りを混ぜると、パイナップルになる?

イチゴとカラメルの香りを混ぜると、パイナップルになる? 香りの科学

イチゴを思わせる香りと、カラメルを思わせる香り。それぞれを混ぜたら、甘いイチゴのお菓子のようになるのでしょうか。ある組み合わせでは、単独で嗅いだときよりも「パイナップルらしい」と感じられることが報告されています。

使ったのは果物やカラメルそのものではなく、特徴の異なる香料です。Barkatらが2012年に発表した研究では、二つ、または三つの成分から作った香りを調べ、混合後のパイナップルらしさが、成分の組み合わせと、嗅ぐ人の経験によって変わることを示しました。

香りを一つにまとめて感じるのは、どんなとき?

コーヒーの香りを嗅ぐとき、私たちは数多くの成分を一つずつ数えずに、「コーヒーだ」と受け止めます。一方、まとまった香りの中に、焦げた感じや異臭を見つけることもあります。全体を一つの香りとして感じることと、個々の特徴を取り出すこと。その両方が、普段の嗅覚にはあります。

研究者が知りたかったのは、わずか二、三成分でも、全体がまとまって単独の成分より特定の香りらしくなるのか、そして香りを分析する訓練を受けた人でも同じように感じるのか、という点でした。

そこで「どの成分が入っているか」を当てさせる代わりに、全体としてどれくらいパイナップルの香りに似ているかを評価してもらいました。成分探しへ注意を向けすぎず、混合した香りのまとまりを調べるためです。

イチゴ系とカラメル系の二成分を組み合わせる

中心となる二つの香料は、イソ酪酸エチルとエチルマルトールです。イソ酪酸エチルはイチゴを思わせる果実系、エチルマルトールはカラメル系の香りとして、この一連の研究で扱われています。

研究では、この二つを決められた濃度と割合で混ぜ、さらにアリルαイオノンを加えた三成分の混合も用意しました。

比較のために、別の果実系成分であるカプロン酸エチルと、カラメル系のフラネオールを組み合わせた混合も作りました。果実系とカラメル系なら、どの香料を選んでも同じようにパイナップルらしさが増すのかを比べられます。

こうした三つの混合物と、材料となる五つの単独成分、パイナップル様の香りの比較用試料二つを合わせ、計10種類を評価しました。

未訓練の20人では、混ぜた香りの方がパイナップルらしかった

最初の実験に参加したのは、嗅覚や官能評価について特別な訓練を受けていない学生20人です。番号を付けた試験管の中に、試料を含ませた紙を入れ、匂いを嗅いでもらいました。

まず10種類を、パイナップルらしい順に並べます。その後で順番を入れ替え、一つずつ「まったくパイナップルらしくない」から「非常にパイナップルらしい」までの9段階で評価しました。目の前の果実と比べるのではなく、それぞれが覚えているパイナップルの香りが基準です。

結果は、イソ酪酸エチルとエチルマルトールの二成分混合、そしてアリルαイオノンを含む三成分混合のどちらも、各成分を単独で嗅いだときよりパイナップルらしいと評価されました。順位を付ける方法でも、点数を付ける方法でも、同じ方向の結果が得られています。

二成分の混合では、イチゴ系の果実香とカラメル系の香りを合わせることで、パイナップルという別の果実への似かよりが強まりました。ただし、混合物は9段階評価でおおむね5〜6程度です。本物と区別できないほどそっくり、という結果ではありません。

別の「果実系+カラメル系」では、同じことが起きなかった

カプロン酸エチルとフラネオールの組み合わせでは、結果が異なりました。混合物のパイナップルらしさは、フラネオール単独より高くなりましたが、カプロン酸エチル単独よりは低くなったのです。二つを混ぜても、両方の成分を上回る評価にはなりませんでした。

この比較は、香りの名前だけで配合後の印象を予想する難しさを示します。「果実系」と「カラメル系」という大きなくくりは同じでも、使う分子が違えば、全体としての感じ方も変わります。

単独の香りと混合後の働きが違う例は、バニラに青い香りを足すと、ラム酒らしくなる?でも紹介しています。そちらでは、バニラ香と3-オクテン-2-オンなど、今回とは異なる材料の組み合わせを調べています。

ワインの訓練を受けた人は、単独成分の評価が違った

次に同じ試料を評価したのは、ワインのテイスティングや香りの言葉での表現を学んでいる、醸造学の学生32人です。全員が職業として働く調香師というわけではなく、ここでいう専門的な経験は、ワインの官能評価に関するものです。

このグループでは、イソ酪酸エチルを含む二成分・三成分の混合物と、イソ酪酸エチル単独のパイナップルらしさに、有意差が認められませんでした。未訓練のグループで見られた「混ぜると、どの成分よりもパイナップルらしくなる」という結果が、ここでは得られなかったのです。

重要なのは、訓練を受けた人が混合物をパイナップルらしく感じなくなった、という話ではないことです。二つの混合物は、このグループでもおおむね5〜6程度と評価されていました。大きな違いは、イソ酪酸エチル単独の評価にあります。未訓練群の平均は3.5、訓練群は5.0で、訓練群の方が単独でもパイナップルらしいと感じていました。

著者らは、ワインの訓練ではイソ酪酸エチルが果実香の例として使われることに注目しています。この香りをよく知っていることで、単独成分と混合物の共通点を捉えやすくなった可能性があります。パイナップルの香りについて、頭の中に持つ基準が違っていたことも考えられます。

ただし、同じ人を訓練前後で比べた実験ではありません。もともと経験の違う二つの集団を比較しているので、訓練だけが評価の違いを生んだと断定することはできません。

まったく新しい香りが生まれた、と言える?

この研究では、単独の成分にも、弱いながらパイナップルらしさがありました。そのため著者らは、材料の特徴が完全に消えて別の匂いへ変わるというより、一部の特徴を残しながら、全体としてパイナップルらしさが強まる「不完全な融合」として考察しています。

パイナップルを思わせる複数の特徴がそろったため、よりそれらしく感じられた、という説明も残ります。今回の評価だけで、鼻や脳のどの場所で変化が起きたか、材料の香りを混合物の中でどこまで識別できたかまで、直接分かったわけではありません。

また、調べたのは決められた濃度と割合の試料です。イチゴの実とカラメルを混ぜた料理、市販のイチゴ香料とカラメル香料、割合を変えた配合にも、そのまま同じ結果が当てはまるとは限りません。

まとめ

イソ酪酸エチルとエチルマルトールを所定の条件で混ぜると、未訓練の参加者は、どちらかを単独で嗅いだときよりもパイナップルらしいと評価しました。三成分の混合でも同じ傾向が見られましたが、別の果実系成分とカラメル系成分の組み合わせでは、両成分を上回る変化は起こりませんでした。

さらに、ワインの官能評価を学ぶ参加者では、単独成分にもパイナップルらしさを感じやすく、混合物との差が小さくなりました。香りのまとまりを理解するには、何をどの割合で混ぜるかに加え、嗅ぐ人がどのような香りを知り、何を基準に比べているかも大切になります。身近な果実を思わせるこの実験は、少ない成分でも全体の印象が変わることと、その変化が誰にでも一様ではないことを示しています。

参考文献

Barkat, S., Le Berre, E., Coureaud, G., Sicard, G., & Thomas-Danguin, T.(2012). Perceptual Blending in Odor Mixtures Depends on the Nature of Odorants and Human Olfactory Expertise. Chemical Senses, 37(2), 159–166. DOI: 10.1093/chemse/bjr086 / 原著全文。

香料のイチゴ様・カラメル様の記述:Agence nationale de la recherche. MULTIMIX: A MULTIdisciplinary approach to decipher the first step of aroma MIXture perception. 研究代表者によるプロジェクト概要(2026年10月12日閲覧)。