楽しい気分の汗は、人の反応を変える? 香水を重ねた実験

楽しい気分の汗は、人の反応を変える? 香水を重ねた実験 香りの科学

楽しい気分のときに出た体のにおいは、別の人の反応にも関わるのでしょうか。2022年の研究では、楽しい気分を誘導した男性の汗を嗅いだ女性は、中立的な気分のときの汗を嗅いだ女性より、物の使い道を多く、幅広く挙げました。別の生理測定では心拍数がより低下し、香水を加えても、その反応を明確に変える効果は見られませんでした。

研究には二つの問いがあります。前向きな感情に関連する情報が体臭を通じて伝わるか。そして香水を重ねると、その反応が変わるかです。

楽しい時間と中立的な時間の汗を集める

汗の提供者は男性21人でした。1日差で、楽しい気分を誘導する条件と、中立的な条件で30分の映像を見ました。実施順は無作為化しましたが、楽しい条件では3人で一緒に視聴し、事前に贈り物も受け取り、中立条件では1人で視聴しました。したがって、映像だけでなく、人と過ごす状況も異なります。

脇に付けたガーゼから汗を採取し、そのうち自己評定で気分の誘導に十分反応した8人の試料を採用しました。受け手への提示には、4人分を混ぜた試料を使っています。これは、すべての人が同じような「幸福のにおい」を出すと確認した設計ではなく、条件の違いがはっきりした提供者を選んだ実験です。

受け手は女性64人で、若い欧州系の異性愛者、非喫煙者、ホルモン避妊法の使用者という条件で募集されました。16人は生理測定と行動課題の両方、48人は行動課題のみを行いました。一部のデータは技術的な問題で失われています。

心拍数は、楽しい条件の汗でより低下した

生理測定では、楽しい条件・中立条件の汗を、それぞれ香水あり・なしで提示し、香水だけの刺激も加えました。香水は予備評価で好まれた市販香水の香料を希釈したもので、汗の試料に2滴加えています。人の肌に塗って比較した試験ではありません。

装置から鼻へ5秒間提示し、次の刺激まで60秒の無臭時間を置いて、各刺激を3回ずつ測定しました。心拍数は提示前後の10秒間を比較。楽しい条件の汗では平均約0.96拍/分低下し、中立条件では約0.05拍/分の低下で、この条件差は有意でした。

香水の追加による心拍への効果は明確ではなく、皮膚電気反応にも汗条件や香水による有意な変化はありませんでした。一方、香水付きでは、においを吸い込む量が増え、吸う時間も長くなりました。体の反応は、測る指標によって違っていました。

香水を重ねると、汗条件の強度差が感じ取られた

この16人の言葉による評価では、香水を加えると快さ、強度、親しみが高くなりました。幸福感・心地よい状態をどれほどもたらすかという評定も上がる傾向でしたが、p=0.062で有意差には届いていません。

楽しい条件の汗と中立条件の汗を比べると、前者の方が親しみは高く評価されました。また、強度では汗条件と香水の組み合わせによる違いがあり、香水を加えた場合に楽しい条件の汗がより強く感じられました。香水なしでは、その強度差は明確ではありませんでした。

著者らは、香水が汗の特徴を隠すだけでなく、違いを感じ取りやすくする場合もあると解釈しています。ただし、楽しい条件の汗そのものが、より快い、あるいはより幸福な気分にするという評定差はありませんでした。「幸福が伝わった」という解釈は、主に生理と行動の間接的な指標に基づいています。

使い道の発想は増えたが、独創性まで一様に上がったわけではない

行動課題では、楽しい条件の汗、中立条件の汗、革のにおい、きれいな空気のいずれかを無作為に割り当てました。課題中は30秒ごとに5秒間提示しています。この部分では香水の追加を試していません。

中心となる比較は、楽しい条件と中立条件の汗を嗅ぐ各16人でした。れんが、鉛筆、靴など6つの物について、普通とは違う使い道を2分ずつ考える課題では、楽しい条件の汗の群が、より多くの回答と、より幅広いカテゴリーの使い道を挙げました。回答の独創性や、どれだけ詳しく説明したかには明確な差がありませんでした。

もう一つは、箱、画びょう、ろうそくなどを使って、ろうが机や床に落ちないよう壁にろうそくを固定する問題です。制限時間内に解けたのは楽しい条件で7人、中立条件で9人で、成功率に有意差はありませんでした。解けた人だけを比べると、楽しい条件の方が短時間で解答しました。

これらの行動比較は、前もって予想した「楽しい条件で成績が上がる」方向の片側検定です。特に解答時間の結果は成功者だけの比較なので、誰でも問題を解きやすくなるという意味にはなりません。行動課題後の快さや幸福感などの評定にも、二つの汗条件の差はありませんでした。

感情の伝達という解釈を、どう受け止めるか

著者らは、心拍の低下と発想課題の成績を合わせ、前向きな感情が体臭を通じて受け手へ伝わった可能性を支持する結果だと結論づけています。同時に、それが間接的な証拠であることも認めています。

感情に特有の成分は同定しておらず、心拍低下や発想の増加だけが幸福を表すわけでもありません。試料は少数の選ばれた男性に由来し、受け手も限定された女性群です。参加者には刺激条件を知らせていませんが、実施は単盲検でした。

香水についても、調べたのは1種類・1条件での生理反応と評定です。創造性の変化が香水を重ねても保たれるか、普段の対人場面で同じことが起こるかは、次の検証課題になります。

まとめ

楽しい気分を誘導した男性の汗は、中立条件の汗に比べ、女性の心拍をより低下させ、物の使い道の数とカテゴリーを増やしました。一方、独創性、問題を解ける割合、本人が感じた幸福感には明確な上昇がありませんでした。

香水を加えると快さや吸い込み方が変わり、汗条件間の強度差も現れましたが、心拍への追加効果は明確ではありませんでした。体臭と香水の組み合わせを、生理、言葉、行動の複数の面から調べることで、感情の伝達について新しい手掛かりを得た研究です。

研究は資生堂とANRTの博士課程助成により支援され、Firmenichによる香料提供が記載されています。研究当時、複数の著者は資生堂に所属していました。著者らは利益相反なしと申告し、データ収集と統計解析はLyon Neuroscience Research Centerの著者が主導したと記載しています。

参考文献

Ortegón SR, et al. And I’m feeling good: effect of emotional sweat and perfume on others’ physiology, verbal responses, and creativity. Chemical Senses. 2022;47:bjac012. doi:10.1093/chemse/bjac012