キウイの香りを思い浮かべると、甘い果実や青い草のような印象が浮かぶかもしれません。その中に、ユーカリやミントを思わせる成分も含まれています。
2020年の研究は、その一つ「1,8-シネオール」が香りに加える特徴を人の鼻で確かめ、さらに、それを果実の中で作る酵素と遺伝子まで追いました。香りの違いを感じ取るところから、植物がその香りを生み出す仕組みへつなげた研究です。
成分を測るだけでなく、鼻で意味のある違いを確かめる
Zengらが目指したのは、キウイの特徴的な香りに寄与する成分を官能評価で選び、その生合成の遺伝的・生化学的な根拠を明らかにすることでした。将来、香りを考慮した品種育成に役立つ指標を得ることも視野に入れています。
対象にしたのは、黄肉品種「Hort16A」の特徴に関わると考えられていた1,8-シネオールと、硫黄を含むジメチルスルフィド(DMS)です。官能評価で両者の役割を確かめた後、研究の中心をシネオールの合成の仕組みに絞って進めました。
四つの成分で作った香りに、一つずつ加える
官能試験では、果実そのものを食べる代わりに、キウイでよく見られる四つの香気成分を混ぜたモデルを使いました。果実様の酪酸エチルと酪酸メチル、青葉様のヘキサナールと(E)-2-ヘキセナールです。この基本の香りに、シネオールまたはDMSを加えて比べました。
ニュージーランドで募集した51人が、瓶に入れた二つの香りを嗅いで、同じか違うかを答えました。基本の香りとシネオール入りを区別できた割合は73%、DMS入りでは96%でした。同じ基本の香りを二つ出した条件では、78%が同じと答えています。
別の45人は、14種類の言葉から当てはまる香りを複数選びました。シネオールを加えると、ユーカリ、ミント、松、花のようだという回答が増えました。例えばユーカリの記述は基本の香りで2%、シネオール入りで25%、花の記述は16%から31%へ増えています。これらは回答を統計モデルで整理した推定値です。
DMSを加えたときは、ブラックカラントの記述が増えました。同じ果実らしい土台の上でも、少量の成分が香りの方向を変えていたのです。
ただし、シネオール入りが最も「キウイらしい」と選ばれたわけではありません。その記述は基本の香りで63%、DMS入りで67%に対し、シネオール入りでは37%でした。ここで確認できたのは特定の香調への寄与で、量を増やせば好まれることや、実際の果実がおいしくなることは、別に評価する必要があります。
87個体から、シネオール量に関わる場所を探す
次に研究チームは、熟した果実にシネオールを多く含む「Hort22D」を母親とする交配集団を調べました。87個体の遺伝的な違いと、熟した果実の揮発成分を照合したところ、シネオール量と関連する染色体領域が二つ見つかりました。
そのうち29番染色体に対応する領域には、テルペン合成酵素の遺伝子候補が集まっていました。テルペン合成酵素は、共通の材料から、植物のさまざまな香気成分を作る酵素です。配列が似ていても作るものが同じとは限らないため、候補を取り出して働きを試しました。
「Red5」の果実や葉から得た四つの遺伝子は、AcTPS1a~AcTPS1dと名付けられました。この中でシネオールを作る中心的な候補になったのがAcTPS1bです。
精製酵素、葉、そして果実で働きを確かめる
研究チームは、細菌に作らせて精製した酵素と、植物の葉で一時的に遺伝子を働かせる実験を組み合わせました。AcTPS1bが作る酵素は、ゲラニル二リン酸という材料から、シネオールを含む複数のテルペンを作りました。その構成は、Red5やHort22Dの果実に見られるテルペンの構成とよく似ていました。
さらに、キウイ属の別種Actinidia erianthaの果肉でAcTPS1bを一時的に働かせると、対照では見られなかったシネオールのピークが現れました。この実験では、材料の供給を助けるDXSと、導入した遺伝子の発現を保つためのp19も一緒に導入し、対照にも同じ補助条件を設けています。
酵素単体の反応と植物の中での反応が一致したことで、AcTPS1bがキウイでシネオールを作る遺伝子であるという結論が強まりました。
近い遺伝子でも、作る香りや働く場所が違う
ほかの候補にも、それぞれ異なる働きがありました。AcTPS1aでは主にサビネン、AcTPS1cでは主にゲラニオールが作られ、AcTPS1dを植物の葉で働かせた条件ではスプリンゲン類が検出されました。AcTPS1aは、別の材料から炭素数の多いセスキテルペンを作る能力も持っていました。
細胞内の位置を調べると、AcTPS1a~1cは主に葉緑体へ、AcTPS1dは主に細胞質へ向かいました。遺伝子が働く組織にも違いがあり、AcTPS1dは葉や芽で、AcTPS1aと1bは果実を含む組織で発現していました。似た遺伝子が集まる領域の中で、作る成分、使える材料、働く場所が分かれていることが分かったのです。
特にAcTPS1aと1bは、603個のアミノ酸のうち15個しか違わないのに、主な生成物が異なりました。既知の酵素構造を手本にしたモデルでは、反応部位のアミノ酸の違いが候補として浮かびました。この構造上の説明は、他植物の先行研究とモデルに基づくもので、今回その一か所を置き換えて確かめた実験とは区別されます。
作れるかだけでなく、どれだけ遺伝子が働くか
果実の成長や追熟を追うと、シネオール量は品種、時期、果肉か果皮かによって変わりました。調べたRed5とHort22Dでは、果肉中の量は成長途中に高く、その後低下しました。Red5の果皮は、同じ時期の果肉よりおおむね2~3倍高い値でした。
交配集団から選んだ12系統では、AcTPS1bの発現量が多いほど、熟した果実のシネオール量も多く、両者の関係はR²=0.90でした。酵素を作る能力の有無だけでなく、遺伝子がどれだけ働くかが、成分量の違いを生む重要な要因だと考えられます。
一方、もう一つの関連領域にある原因遺伝子は確定していません。成分量には複数の調節が関わる可能性があり、今回の12系統の関係を、あらゆる品種にそのまま当てはめることはできません。
まとめ
キウイのモデル香では、1,8-シネオールがユーカリ・ミント・花などの印象を増やし、DMSがブラックカラントの印象を増やしました。さらに遺伝解析、精製酵素、植物での実験を重ね、AcTPS1bがシネオールを作る主要な遺伝子であることが示されました。
近縁の遺伝子は異なるテルペンを作り、発現する場所や時期も分かれていました。人が感じる香りの違いを出発点に、成分、酵素、遺伝子へとつなぐ方法が、香りを考えた品種育成の手がかりになります。
研究はニュージーランドの事業・イノベーション・雇用省とPFRの内部資金で支援され、内部資金にはキウイ品種やロイヤルティー収入に由来するものが含まれます。中国の研究制度等による渡航支援も記載されています。著者らは利益相反なしと申告しています。
参考文献
Zeng Y, et al. Sensory-Directed Genetic and Biochemical Characterization of Volatile Terpene Production in Kiwifruit. Plant Physiology. 2020;183(1):51–66. doi:10.1104/pp.20.00186. 公開原著全文.


