部屋に入ったときにはよく分かった香りが、しばらくすると気にならなくなる。ディフューザーを使っていて、そんな経験はないでしょうか。もう少し香りを足したくなりますが、出す量だけでなく、出す間隔にも目を向けてみると、違う手がかりが見えてきます。
2024年8月、東洋大学のNarae Choiらは、スイートオレンジ精油を間欠的に噴霧する実験を発表しました。調べたのは、香りをどのように感じるか、学習する場所の香りとして受け入れられるか、そして課題の成績に違いが出るかです。
5分と10分、何を変えた実験?
参加したのは、18〜28歳の健康な大学生21人です。大阪大学に設置した小さな実験用の空間に一人ずつ入り、精油を細かく噴霧するネブライザー式ディフューザーの条件を変えて、香りを評価しました。
条件は四つ。5分周期で5秒噴霧する条件、10分周期で7秒噴霧する条件、10分周期で10秒噴霧する条件、そして香りの濃度を比較的一定に保つため、約1分周期で短く噴霧する比較条件です。「10分間隔」といっても、10分間ずっと噴霧していたわけではありません。最初の噴霧だけは、濃度を早く立ち上げるために長めにしています。
10分周期の二つは、単に休止時間を延ばしただけの比較でもありません。7秒噴霧は、5分周期の条件と濃度のピークをそろえる狙い。10秒噴霧は、平均濃度をそろえる狙いでした。なお、ここでの濃度は、噴霧量や換気量などから計算した値です。空気中の精油成分を実測した値ではありません。
香りの変化は、誰にでも同じようには届かない
最初の実験では、各条件で32分間、30秒ごとに香りの強さや好みなどを答えてもらいました。間隔を空けた条件では、平均すると噴霧のあとに強く感じ、次の噴霧までに弱く感じる変化が見られました。一方、濃度を比較的一定に保った条件では、最初の約5分で感じる強さが下がり、その後は落ち着いていました。
ただし、一人ひとりを見ると反応はさまざまです。噴霧の周期に沿って強弱を感じる人もいれば、あまり変わらない人や、周期と結びつかない変化を答える人もいました。5分周期では変化を捉えにくかった人の一部が、10分周期では捉えやすくなる様子も見られています。
香りの好みは、5分周期では噴霧を繰り返すにつれて下がる傾向がありました。10分周期の二つでは、そのような傾向は見られませんでした。細かく香りを出し直せば、いつも心地よく感じられるとは限らないようです。
「ここで勉強したい」と「成績が上がる」は別
参加者には、この香りの中で講義室、自習室、自宅で勉強することを想像して、受け入れられるかも答えてもらいました。自習室を想定した評価では、10分周期で10秒噴霧する条件と、約1分周期の比較条件が、5分周期より高く評価され、統計的に有意な差がありました。実際の教室で試した結果でも、すべての場所で10分周期が優れていたという結果でもありません。
次の実験では、同じ21人が香りのない条件と、10分周期で10秒噴霧する条件の両方を、別の日に体験しました。文字の中から指定されたものを探す注意課題、文章の校正、古文の問題に、それぞれ20分ずつ取り組んでいます。
香りのある環境は、好みや快さでは香りのない環境より高く評価されました。しかし、集中している感じ、眠気、疲れ、意欲などには有意な差がなく、採点した注意課題と校正の成績も、全参加者の平均では有意な差がありませんでした。古文の問題は採点対象にしていません。
香りを好ましく感じたことと、課題がうまくできたことは、分けて受け取る必要があります。この実験から「オレンジの香りを10分おきに出せば集中力が上がる」とは言えません。一方、人数も限られるため、あらゆる条件で効果がないと決める結果でもありません。
家のディフューザーに、そのまま設定を移せる?
実験用の空間は、長さ約3メートル、幅約1.3メートル、高さ約2メートル。活性炭フィルターを通した空気を毎時90立方メートル送り、二つの送風機で香りを広げていました。部屋の広さや換気、機器の噴霧量が違えば、同じ時間設定でも香りの残り方は変わります。
使った香りもスイートオレンジ精油一種類です。ほかの精油や香水、スティックを挿して使うルームフレグランスまで、同じ間隔が向いているとは分かりません。この研究は、家庭での最適なタイマー設定や、安全な使用量を決めたものではありません。
暮らしに持ち帰れるのは、香りが弱く感じられたときに、量を増やす以外の見方もあるということです。機器の説明書に沿った範囲で、ずっと出し続ける必要があるかを考える。自分には控えめでも、同じ部屋の人はどう感じているか確かめる。これは研究で検証済みの手順ではなく、日常で心地よさを探すための工夫です。
まとめ
部屋の香りを楽しむとき、いつもはっきり感じ続けることだけを目標にしなくてもよさそうです。今回の研究では、香りを出す間隔によって、変化の感じ方や好ましさが違っていました。同時に、その感じ方には個人差があり、心地よさが課題の成績向上に直結したわけではありません。
著者らが目指したのは、心地よさを保ちながら、必要以上に香料へさらされない環境を作ることです。次の噴霧前にも香りを感じる参加者が多かったことは、感じ方の維持と香料を出し続けることを分けて、間隔や投入量を考える手がかりになります。ただし、空気中の成分量や健康影響を測って、安全性を確かめた研究ではありません。
参考文献
著者:Narae Choi, Toshio Yamanaka, Akihisa Takemura, Tomohiro Kobayashi, Masato Hirano
論文名:Intermittent essential oil diffusion in learning spaces: Exploring olfactory responses and cognitive effects
掲載誌:Building and Environment, 264 (2024), 111918
オンライン公開日:2024年8月6日
DOI:10.1016/j.buildenv.2024.111918
原著:出版社の論文ページ
研究資金:ダイキン工業。著者は同社からの資金支援を利益相反欄に開示しています。
原著ライセンス:CC BY-NC-ND 4.0。本記事は研究の事実をもとに独自に執筆した解説で、原著の翻訳転載ではありません。原著の図表は使用していません。


