女性らしい・男性らしい匂いは、分子で決まる?

女性らしい・男性らしい匂いは、分子で決まる? 香りの科学

ある香りを「女性らしい」、別の香りを「男性らしい」と感じる。その印象は、匂いを作る分子だけで決まるのでしょうか。香水のイメージを考えるときにも気になる問いですが、まず人の体の匂いではどうなのかを、二つの成分から調べた研究があります。

2025年11月に発表されたCamille Ferdenziらの研究では、スイスの博物館で集めた2,716人の回答を分析しました。対象は、男女で分泌される前駆物質の量や比率に違いがあると報告されてきた、汗の匂いに関わる二つの分子です。そこに性別の印象がはっきり刻まれている、という単純な結果にはなりませんでした。

研究は評価者の性別や年齢による知覚の違いも調べています。ここでは主に、二つの成分が女性的・男性的に感じられるかという結果を紹介します。

「女性だけ」「男性だけ」の成分ではない

調べたのは、MSHとHMHAという略称で呼ばれる二つの成分です。MSHは硫黄や玉ねぎを思わせる匂い、HMHAはチーズや油脂が変化したような匂いに関わります。

研究の出発点には、それぞれの成分のもとになる物質が、脇からどれくらい分泌されるかを調べた先行研究がありました。女性では相対的にMSHのもとになる物質が多く、男性ではHMHA側の比率が高いと報告されていたのです。ただし、個人差が大きく、男女の分布もかなり重なっていました。

そこで今回の研究者たちは、「MSHを嗅ぐと、HMHAより女性らしいと感じるのか」を直接尋ねました。片方が女性だけ、もう片方が男性だけにあるという前提ではありません。成分の量に集団間の違いがあることと、それを嗅いだ人が性別の印象として受け取ることは、別に確かめる必要があります。

博物館の二つの瓶を、順番を変えて嗅ぐ

実験はローザンヌの博物館で、2019〜2020年に行われた嗅覚の展示の一部として実施されました。解析に使ったのは、提示順を無作為化した期間の回答から、匂いが分からなかった人などを除いた、6〜90歳の2,716人分です。

二つの成分をそれぞれ別の綿布に吹きつけ、ガラス瓶に入れました。参加者は瓶を開けて匂いを嗅ぎ、画面上で「とても男性的」から「とても女性的」まで、0〜10の尺度で答えています。判断への自信、好ましさ、強さ、なじみがあるか、汗らしい匂いかも尋ねました。

ここで測っているのは、参加者が感じた匂いの印象です。誰かの実際の体臭を嗅いで、その人の性別を当てる課題ではありません。また、使った濃度は意識して嗅ぎ取れるように選ばれており、自然な体臭中の濃度より高かった可能性があります。

違いは見つかったが、とても小さかった

女性の参加者では、MSHをHMHAよりも少し女性的に評価する傾向が見られました。一方、男性の参加者では、二つの成分の間にそのような違いは見られませんでした。

ただし、見つかった差はごく小さく、回答には大きな個人差がありました。評価者の性別によって二つの成分の評価差が変わる程度を表す効果量は、絶対値で約0.12です。これは「12%の人が当てた」という意味ではなく、違いの大きさを比較するための統計上の指標です。

人数が多い研究では、小さな傾向も捉えやすくなります。だからこそ、差が検出されたことだけでなく、その差がどれほど大きいかが大切です。今回の結果は、この二つを誰もがはっきり「女性の匂い」「男性の匂い」に分けて感じる、という見方を支持しませんでした。

快く感じるほど、女性的に評価する関連

性別の印象と関わっていたのは、成分の種類だけではありません。匂いを好ましく感じた人ほど、同じ匂いを女性的に評価する傾向がありました。解析上、この関連の効果量は約0.24で、これも大きなものではありませんが、先ほどの性別と成分の組み合わせによる違いより大きい値でした。

汗らしい匂いだと答えた場合には、男性的に評価する傾向も見られました。匂いにつける「らしさ」は、快さや汗のイメージとも結びついていたのです。

ただし、好ましさを人為的に変えてから性別の印象を測った実験ではありません。「快くすると女性的に感じるようになる」という因果関係や、その関連が生まれる理由までは分かりません。育ってきた環境や経験がどれほど関わるかも、この結果だけでは決められません。

異性を引きつける成分だと言える?

研究チームは、この二つが配偶相手の好みに関わる可能性も考えていました。もしその役割があるなら、女性に多いとされる側を男性が特に好み、男性に多いとされる側を女性が特に好む、といった反応が期待されます。しかし、今回はそのような成分ごとの好みの男女差は確認されませんでした。

この研究から、MSHやHMHAを「異性を引きつけるフェロモン」と呼ぶ根拠は得られていません。一方、匂いが人の魅力や関係に一切関わらないと証明したわけでもありません。調べたのは二つの単独成分で、実際の体臭にある複雑な混合物や、その混合比を比べた研究ではないためです。

また、博物館の来館者が自発的に参加した調査です。幅広い年齢を含む利点はありますが、周囲の人から受ける影響などを実験室ほど細かくそろえることはできません。香水を使った実験でもないので、市販の香水の「女性向け」「男性向け」という分類を直接検証した結果として読むことはできません。

まとめ

女性の評価者では、二つの汗の成分の間に、性別の印象の小さな違いが見られました。しかし、その受け取り方は人によって大きく異なり、匂いの快さや汗らしさとも結びついていました。分子の名前や、男女どちらに多いとされるかだけで、感じる「らしさ」を決めるのは難しいようです。

香りに女性らしさや男性らしさを感じたとき、その印象の中には、匂いそのものへの好みも重なっているかもしれません。何を感じているのかを少し分けて考えると、成分と印象の関係を、より丁寧に捉えられます。

参考文献

著者:Camille Ferdenzi, Géraldine Coppin, Christophe Bousquet, Sylvain Delplanque
論文名:The perception of gender in two allegedly sex-specific body odor compounds MSH and HMHA
掲載誌:Scientific Reports 15, 42447(2025年)
公開日:2025年11月27日
DOI:10.1038/s41598-025-26457-4
原著全文:出版社の論文ページ
原著ライセンス:CC BY 4.0