「くさい」だけでは伝わらない。体の匂いを表す25の言葉

「くさい」だけでは伝わらない。体の匂いを表す25の言葉 香りの科学

体の匂いを言葉にしようとすると、「くさい」「汗っぽい」「いい匂い」あたりで止まってしまうことはないでしょうか。でも、同じ「くさい」でも、酸っぱさを感じる匂いと、玉ねぎを思わせる匂いとでは、伝えたい印象が違います。

2025年、イエナ大学のAntonie L. Bierlingらの国際研究チームは、17か国・地域で使われる体の匂いの表現を集め、よく使われる25語のリストに整理しました。目指したのは、匂いへの好みだけでなく、「どんな匂いか」を研究で共有できるようにすることです。

嗅いで答える前に、記憶の中の言葉を集める

最初の調査に参加したのは、18〜83歳の2,607人です。ドイツ語、英語、中国語、ヒンディー語、ビスラマ語など13言語で、健康なとき、病気のとき、ストレスを感じているとき、運動後の体の匂いや、脇、口、足などの匂いを自由に表現してもらいました。

この段階では、実際の匂いを嗅いでもらっていません。参加者がそれまでの経験から思い浮かべた言葉を、オンラインで集めています。同じ体臭試料を多数の国へ送り、状態をそろえて嗅いでもらうことが難しかったためです。

集まった表現は延べ60,275件。研究者は、つづりの違いや語形の違いをそろえ、一つの回答に複数の表現があれば分けて整理しました。そこで得られた表現の種類は7,489に上ります。匂いを表す言葉が少ないと感じても、大勢の経験を集めると、かなり豊かな語彙が現れたのです。

25語は、世界共通の「正解」ではなく比較の道具

研究チームは各言語で頻繁に使われた表現を英語に訳し、元の言語への訳し戻しも使って意味を確かめました。そのうえで、ある国でよく使われ、ほかの複数の国でも使われていることを条件に、25語へ絞っています。この語彙集をBody Odor Words、略してBOWと名づけました。

含まれるのは、汗っぽい、酸っぱい、甘い、チーズのような、玉ねぎのような、といった匂いの特徴を表す言葉です。それに加えて、強い、心地よい、清潔な印象など、強さや評価に関わる言葉もあります。すべてが同じ種類の尺度ではなく、人が匂いを説明するときに実際に使う表現をまとめたリストです。

体の匂いを表す25語の英日一覧

原著の25語を、よく使われた順に並べました。日本語は意味を伝えるための訳です。

英語日本語
sweaty汗っぽい
sour酸っぱい
stinkyくさい
unpleasant不快な
strong強い
freshさわやかな
neutralどちらともいえない
pungent鼻をつくような
salty塩気を感じる
sweet甘い
pleasant心地よい
intense強烈な
clean清潔な印象の
mustyかびくさい
cheesyチーズのような
smellyにおいがきつい
dirty不潔な印象の
foul悪臭のする
urine尿のような
disgusting嫌悪感を覚える
warm温かみのある
acidic酸を思わせる
rotten腐ったような
onion玉ねぎのような
odourlessにおいのない

出典:Bierlingら(2025)図3(CC BY 4.0)。英語リストに日本語訳を追加。

25語がカバーしたのは、最初の調査で集まった表現の44.7%でした。半分弱を共通の言葉で扱える一方、そこに収まらない表現も多く残ります。「匂いは25種類しかない」という分類でも、25語だけを使えば誰にでも完全に伝わるという宣言でもありません。

体の状態を思い浮かべると、選ぶ言葉も変わった

記憶に基づく回答を比べると、健康なときの匂いには「さわやかな」という意味のfresh、運動後やストレス時の匂いには「汗っぽい」という意味のsweatyが、25語の中で最も多く使われました。足の匂いでは、チーズを思わせる表現が特徴的に使われています。

つまり、「どれくらい嫌か」だけを尋ねるより、言葉の組み合わせを見ることで、思い浮かべた匂いの違いを細かく捉えられました。同じ強さ、同じ好ましさの評価になったとしても、その中身まで同じとは限らないわけです。

ただし、この部分は病気の人やストレスを受けた人の匂いを実際に嗅ぎ分ける試験ではありません。回答には経験だけでなく、その状態についてのイメージも入り得ます。「酸っぱいと感じたら病気」といった判定には使えません。

実際の匂いにも、その言葉は使えるか

そこで研究チームは、別の155人が実際の体臭を嗅いで書いた表現とも照合しました。こちらはドイツ語で行われた検証です。健康な61人から脇の汗を採取し、複数人分を混ぜたものと個人別のものを合わせた25試料を使いました。

自由に書かれた延べ5,338件の表現のうち、42.8%がBOWの言葉に対応していました。25語中22語が実際に使われ、心地よい、汗っぽい、どちらともいえない、といった表現がよく現れました。記憶から集めた語彙にも、実際の匂いを説明するための手がかりがあったといえます。

一方で、実物を嗅いだときには「かすかな」など、25語に入らなかった表現もよく使われました。共通のリストが役立つ場面と、自由な言葉を残したほうがよい場面の、両方が見えてきます。

日本語で匂いを話すときに考えたいこと

今回の13言語に日本語は含まれていません。参加者も、それぞれの国の人口構成を代表するように抽出されたわけではなく、研究協力者のつながりを通じて集められています。実物の匂いを用いた検証も、すべての言語で実施されたわけではありません。

そのため、英語の25語を日本語に置き換えれば、同じように使えるとまでは分かりません。それでも、匂いを言葉にするときに、「好きかどうか」と「何を思わせるか」を分けて考える発想は参考になります。たとえば「苦手な匂い」だけで終えず、「酸っぱさがある」「食べ物のチーズに少し似ている」と補うと、自分が何に反応したのかを具体的に見直せます。

こうした身近な使い方の効果を、この研究が試したわけではありません。研究の成果はまず、ばらばらだった体の匂いの表現に、比較できる共通の足場を作ったことにあります。

まとめ

体の匂いは、「くさい」「いい匂い」だけでは捉えきれません。多くの人の言葉を集めると、匂いの特徴を表す共通の語彙が見えてきて、その一部は実際に嗅いだときの説明にも使われていました。好みの評価に、匂いの質を表す言葉を重ねることで、同じ評価の内側にある違いを扱いやすくなります。

共通の言葉を持つことは、一人ひとりの感じ方を同じにすることではありません。まず言葉をそろえ、そこから何が重なり、何が違うのかを確かめる。25語のリストは、そのための出発点になりそうです。

参考文献

著者:Antonie L. Bierlingほか
論文名:A standardized lexicon of body odor words crafted from 17 countries
掲載誌:Scientific Data 12, 325(2025年)
DOI:10.1038/s41597-025-04630-8
原著全文:出版社PDF
原著ライセンス:CC BY 4.0