体臭成分ができる過程に注目すると、菌を殺す以外の抑え方も見えてきます。2014年の研究では、培養した皮膚関連細菌が乳酸からジアセチルを作る過程を調べ、二つの素材が異なる代謝の変化を通じて、その生成を抑えることを示しました。
主役は、体臭を構成する成分の一つであるジアセチルです。研究は人の肌へ製品を塗る試験ではなく、菌と汗に含まれる成分を組み合わせた実験から、生成と抑制の仕組みを探っています。
どの菌が、どの汗成分から作るのか
研究者は、皮膚に見られるブドウ球菌属やコリネバクテリウム属の9菌株を調べました。一定の培地に菌と原料になる成分を加え、36℃の酸素がある条件で培養し、ジアセチルなどを機器分析で測定しています。
まずピルビン酸を与えた比較では、黄色ブドウ球菌のStaphylococcus aureusと表皮ブドウ球菌のS. epidermidisが多くのジアセチルを作りました。S. hominisでは少量が検出され、ほかの試験菌株では、この条件で検出限界を超える生成はありませんでした。
次に、生成の多かった2菌種について、乳酸、ピルビン酸、数種類のアミノ酸を同じ濃度で比較しました。最も多くのジアセチルができた原料はL-乳酸でした。汗の成分が菌の代謝を経て匂い成分になる、その具体的な組み合わせを絞り込んだ結果です。
156素材から、異なる二つの候補へ
研究者は植物抽出物や化粧品原料など156素材を調べ、カンゾウの一種Glycyrrhiza glabraの根の抽出物(GGR)と、EPC-K1を詳しく検討しました。EPC-K1は、ビタミンEの一種であるα-トコフェロールと、ビタミンCであるアスコルビン酸を、リン酸を介して結び付けた化合物です。
6時間の培養試験では、GGRを3.0mg/mL加えるとジアセチル生成が大きく抑えられ、EPC-K1を7.2µM加えた条件では生成が検出されなくなりました。同時に生きた菌を数えると、これらの条件で殺菌作用は見られませんでした。
ただし、菌の増え方への影響は二つで異なります。後の時間経過を追う実験では、GGRは菌の増殖を抑えました。一方、EPC-K1では増殖がほぼ維持されました。「殺菌しない」と「菌の働きに影響しない」は区別が必要で、まさにその働きの違いが今回の中心課題です。
カンゾウ抽出物は、乳酸を利用する入口を抑える
詳しい仕組みの解析には、試験条件でジアセチルの生成が多かったS. aureusを用いました。炭素に目印を付けた乳酸を与え、細胞の外と中の物質が、0、3、5、7時間でどう変わるかを追跡しています。細胞内では77種類の代謝物を測りました。
対照の菌は7時間で乳酸の約90%を使いましたが、GGRがあると乳酸の利用が抑えられ、ピルビン酸もできにくくなりました。目印の付いた炭素が細胞内の代謝物へ移る量も少なくなっていました。
これらは、GGRが菌による乳酸の利用を抑え、その先にあるジアセチル生成を減らすという説明を支持します。菌は死なずに増殖が抑えられた状態でした。抽出物の中のどの分子が主に働くか、どの酵素や遺伝子の変化が直接の原因かは、さらに調べる課題として残っています。
EPC-K1は、菌の中の物質の流れを変える
EPC-K1の場合は、乳酸の利用が続き、7時間でおよそ半分が消費されました。それでもジアセチルは検出されず、菌の増殖は大きく変わりませんでした。原料をほとんど使わせないGGRとは、異なるパターンです。
菌の中では、エネルギー代謝の一部であるクエン酸回路のコハク酸などが蓄積しました。一方、脂肪酸を作る際に使われるマロニルCoAは減少しました。著者は、乳酸から来た炭素の流れが、ジアセチルを作る経路からほかの代謝へ配分されると考えています。
この説明を確かめるため、コハク酸の代謝に関わる酵素を抑えるHQNOという別の物質も比較しました。しかしHQNOはEPC-K1と同じ変化を再現せず、ジアセチル生成を完全には抑えませんでした。コハク酸の代謝だけを止めれば説明できる、という単純な仕組みではなかったのです。
匂い成分だけでなく、菌の脂肪酸にも変化
脂肪酸の測定も重要な結果です。EPC-K1を加えた菌では、乾燥菌体の重さ当たりの脂肪酸量が、対照の41.8から28.5nmol/mgへ約32%減少しました。脂肪酸の組成も変わり、枝分かれ構造を持つ脂肪酸の割合が82.2%から67.3%へ下がりました。
この結果は、EPC-K1が脂肪酸の合成にも影響し、菌内の複数の代謝のバランスを変えるという見方につながります。生菌数やエネルギー状態の指標が大きく低下しない中で、匂い成分を作る流れが抑えられた点が特徴です。直接の阻害部位を完全に特定した研究ではありませんが、生成量だけを測るより詳しく仕組みに近づいています。
まとめ
今回の培養条件では、S. aureusとS. epidermidisが、調べた原料の中で乳酸から多くのジアセチルを作りました。GGRとEPC-K1は殺菌作用が見られない条件でその生成を抑え、詳しい解析では、GGRは乳酸利用と増殖を抑える一方、EPC-K1は増殖をほぼ保ちながらクエン酸回路や脂肪酸合成に関わる代謝を変えていました。
体臭成分の対策を考える際、菌の数だけでなく「菌が何を材料に、何を作っているか」に注目する意義を示しています。人の皮膚での効果の大きさや持続、安全性を評価するには、今回の培養実験とは別の検証が必要です。
研究費はマンダムが提供し、著者3人全員が研究当時同社所属でした。GGRとEPC-K1に関連する特許出願も開示されています。論文は、雇用主としての同社は研究設計・データ取得・公表判断に関与しなかったと記しています。
参考文献
Hara T, Matsui H, Shimizu H. (2014). Suppression of Microbial Metabolic Pathways Inhibits the Generation of the Human Body Odor Component Diacetyl by Staphylococcus spp. PLOS ONE, 9(11), e111833. 原著論文・公開全文


