オレンジ精油の検査を、速く省資源にできる?

オレンジ精油の検査を、速く省資源にできる? 香りの科学

精油の品質を確かめるには、成分を調べる分析が欠かせません。ただし、検査を繰り返すにも、時間、電力、ガスが必要です。必要な情報を保ちながら、もっと速く、少ない資源で調べられないでしょうか。

Gaia Bechisらが2023年に発表した研究は、スイートオレンジとビターオレンジの精油を例に、品質検査の方法を改良しました。成分の量の比率に加え、鏡に映したような形の違いを持つ分子の比率を読み取り、その分析を高速化する研究です。

同じ成分名でも、鏡像の形がある

スイートオレンジとビターオレンジの果皮精油は、どちらもリモネンを多く含み、成分の顔ぶれがよく似ています。通常の成分一覧と割合だけでは、区別が難しい場合があります。

そこで役立つのが、鏡像異性体です。左手と右手のように、鏡に映すと対応するのに、そのまま重ねてもぴったり一致しない分子の組があります。こうした立体的な違いを「キラル」と呼び、二つの形をR、Sなどの記号で区別します。

たとえばリナロールは、ビターオレンジ精油ではR型が多く、スイートオレンジ精油ではS型が多いという傾向が、先行する組成研究で知られています。リナロールが何%入っているかに加え、その中でR型とS型がどのくらいずつかを調べると、手がかりが増えるわけです。

鏡像の違いは、においの質や強さに関わる場合もあります。ただし、今回の研究自体が、人に精油を嗅いでもらって好みや香りの良し悪しを評価したわけではありません。目的は、分析法としての品質管理を改善することです。

分子の形を区別できる細い管を使う

研究で使ったのは、鏡像異性体を分けられるガスクロマトグラフィー質量分析です。試料を気体にして、内側に特別な材料を塗った細い管、カラムを通します。成分によって通り抜ける速さが違うため、順に分けて検出できます。

通常の方法では一緒に現れやすい鏡像の組も、その材料との接し方の違いによって分離します。研究者らは、既知の標準物質や装置内を通る時間の情報を使い、どちらの形かを確認しました。

まず真正なスイートオレンジとビターオレンジの参照精油を一つずつ使い、長さ25 mのカラムによる従来条件を基準にしました。この分析には、1回あたり87分かかりました。

速くすればよい、だけではない

高速化では、温度の上げ方を調整し、さらにカラムを短く、細くしました。けれども温度を速く上げすぎると、分けたい成分が重なってしまいます。実際、ある条件では酢酸リナリルの鏡像の組が分離できず、別の条件ではリナロールとほかの成分が重なりました。

研究者らは、重要な成分を区別できる範囲で条件を調整しました。その結果、従来と同じ25 mのカラムでは31分、15 mのカラムでは22分、さらに細い10 mのカラムでは16分まで短縮できました。参照試料の鏡像比率は、各方法で同様に求められました。

最終的に市販試料の分析へ採用したのは、最速の10 mではなく、15 mの方法でした。10 mの細い管は高い圧力が必要で、入れられる試料量にも制約があります。リモネンのように非常に多い成分で装置を圧迫せず、微量成分も見失わないようにするには、日常の検査で扱いやすい条件との釣り合いが重要だったためです。

22分の方法は、電力とガスも少なく済んだ

電力計で測った1分析あたりの使用量は、従来法の1.4 kWhから、採用した15 mの方法では0.3 kWhに減りました。試料を運ぶためのヘリウムも、1分析あたり約2 Lから約0.4 Lへ減っています。

研究者らは、分析法の環境面を評価する「AGREE」という指標も使いました。試料の扱い、分析に必要なエネルギー、使う物質、処理できる試料数など、12の観点をもとに0から1で評価し、1に近いほど良好とするものです。

この値は、従来法の0.57から15 m法の0.70へ改善しました。精油の品質を70点と採点したものでも、環境負荷が一定割合で減ったことを直接表すものでもありません。分析方法どうしを、複数の観点から比べるための指標です。

一方、指標では拾いきれない変化もありました。ヘリウムの使用量は減ったのに、廃棄物に関する項目の点数は改善しませんでした。この項目では200 mLを超える量に同じ低い評価を与えるため、ガス使用量の大きな差が反映されにくかったのです。

著者らは、液体を使う前処理には妥当でも、ガスクロマトグラフィーのガス消費を比べるには、この基準に限界があると指摘しました。指標を使って比較することに加え、何を測れていて、何が点数に現れないかも検討する必要があります。

保存による変化と、鏡像比率を分けてみる

品質管理に使う手がかりなら、保存中に大きく変わらないかも重要です。研究者らは、2006年に調製・分析して室温保存していた二つの精油を、2023年に調べ直しました。

リモネンには強い劣化が見られましたが、リナロールのR型とS型の比率は、以前の測定とほぼ同じでした。2016年にベルガモット精油から単離したリナロールでも、その比率は保たれていました。

この結果は、リナロールの鏡像比率が、保存後も試料の特徴を追う手がかりになる可能性を示します。ただし、精油全体が劣化しなかったという意味ではありません。対象も限られており、あらゆる精油や保存条件で比率が変わらないと保証するものではありません。

市販48試料では、違いも重なりも見えた

改良した方法は、市販のビターオレンジ29試料とスイートオレンジ19試料にも適用しました。参照精油や長期保存試料とは別の、市販試料の集合です。

β-ピネン、サビネン、リモネン、リナロールなどについて、成分の相対的な割合と鏡像比率を調べました。その多くの数値を、試料どうしの似かたが見えるようにまとめる、主成分分析という方法で比較しています。

多くの試料は、それぞれの参照精油に近い特徴を示しました。ビターオレンジ側ではR型リナロールなどが、スイートオレンジ側ではS型リナロールなどが多い傾向も見られました。一方、二つの集団には部分的な重なりがありました。

したがって、未知の精油をすべて正確に判定できたという分類精度の試験ではありません。成分比率だけでは見えにくい違いを鏡像比率で補い、典型的な試料と異なるものを詳しく調べるための情報として役立つ、という位置付けです。

研究はトリノ大学の研究費で実施され、参照精油などはイタリアの生産者から提供されました。著者らは利益相反はないと申告しています。

まとめ

オレンジ精油の分析では、成分名と割合に加えて、鏡像の形の比率を見ることが、試料の特徴を捉える助けになりました。その情報を保ちながら条件を調整することで、採用した方法は分析時間を87分から22分へ短縮し、電力やヘリウムの使用量も減らしました。

この研究の意義は、品質を調べる能力と、検査を継続しやすい速さ・資源消費を、一緒に設計したことです。精油製品そのものの環境負荷を評価した研究ではありませんが、品質管理を担う日々の分析を改善する具体例になっています。環境指標も、実際の分析性能や扱いやすさと合わせて使うことが重要だと示しています。

参考文献

Bechis, G., Minteguiaga, M. A., Sgorbini, B., Marengo, A., Rubiolo, P., & Cagliero, C.(2023). Make the Quality Control of Essential Oils Greener: Fast Enantioselective GC-MS Analysis of Sweet and Bitter Orange as a Case Study. Molecules, 28(17), 6231. DOI: 10.3390/molecules28176231。原著全文。

原著:© 2023 by the authors. Licensee MDPI, Basel, Switzerland。CC BY 4.0で公開されています。