寝室で香りを使うとき、何の香りかだけでなく、鼻の近くに置くか、部屋に漂わせるかも、眠りの感じ方に関わるのでしょうか。
2025年の研究では、参加者が自宅で好みの香りと提示方法を選び、睡眠の自己評価と腕時計型機器の記録を比べました。ディフューザー群は枕に香りをつける群より睡眠の自己評価がよく、特別に調合した香りでは「睡眠の質」の一項目に対照群との差が見られました。一方、機器で測った睡眠の改善や、香りをやめた後まで続く改善は確認されませんでした。
香りの種類と、届け方を一緒に調べる
研究の目的は、自宅での夜間の香りが、主観的な睡眠と機器による測定の両方にどう関わるかを調べることです。とくに、鼻クリップや枕のように鼻の近くへ直接届ける方法と、ディフューザーで室内に広げる方法の違いに注目しました。
香りには、ラベンダー精油、オレンジ精油、専用に調合したフローラル・ムスク系の香りを使いました。調合香は、柑橘、白い花、ローズ、ジャスミン、バイオレット、ムスクなどの印象を組み合わせ、ヘディオン、ムスクT、β-イオノン、リナロールなどを主成分としています。
同じ香りでも、好ましいと感じるか、どんな経験と結びついているかは人によって違います。そのため、研究では本人が好きな香りを選ぶ設計にしました。
131人が自宅で約1か月参加した
参加者は、嗅覚が正常な健康な成人131人です。112人が香りを使い、19人は香りも器具も使わない対照群でした。香りを使う人は、香りの種類だけでなく提示方法も自分で選びました。
香り別ではラベンダー37人、オレンジ37人、調合香38人。方法別では鼻クリップ32人、枕41人、ディフューザー39人です。各人がすべてを試す比較ではなく、選んだ一つの組合せを使います。
鼻クリップは香料を入れた小さな器具、枕の方法は就寝前に香りを枕へつけるもの、ディフューザーは香料液とリードを入れた容器をベッドの近くへ置く方法でした。予備試験を基に香りの強さを調整し、提示方法に合わせて溶媒も使い分けています。
最初の2夜は全員が香りなしで眠り、基準となる記録を取りました。次の2週間は香り群が選んだ方法で香りを使い、その後の2週間は再び香りなしで眠りました。これにより、使用中の違いと、やめた後の持続性を調べています。
質問票と腕時計で、違う面から睡眠を見る
自己評価には、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を使いました。睡眠の質、寝つくまでの時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠の妨げ、睡眠薬、日中の支障などをまとめる質問票で、点数が高いほど睡眠の状態が悪い評価になります。
この総点と、「自分の睡眠の質をどう感じたか」という一つの構成項目は、区別して読む必要があります。ある項目に差があっても、睡眠全体の総点にも差があるとは限らないからです。
同時に、Fitbit Charge 2を装着し、総睡眠時間、途中で起きている時間、浅い睡眠、深い睡眠、レム睡眠などを記録しました。睡眠日誌には、コーヒーや飲酒なども記入しています。
解析では、もともとの睡眠評価の違いを考慮して、香りを使っている期間の群間差を比べました。さらに、基準時、香り使用中、使用後という時間の変化も検討しました。
調合香では「睡眠の質」の一項目に差
香りの種類別に比べると、調合香を選んだ群は、対照群よりもPSQIの「主観的な睡眠の質」の項目がよい評価でした。基準時の評価を調整した後の比較で、有意差がありました。
一方、PSQIの総点や、ほかの構成項目には、香りの種類による有意差はありませんでした。ラベンダーやオレンジも、対照群よりよいという明確な結果にはなっていません。
このため、研究から直接読み取れるのは、選ばれた調合香の群で、眠りの質の主観的な評価の一面に差があったことです。複数の香りが混ざっているから効いたのか、好みやリラックス感が関わったのかは、今回の比較では切り分けられていません。
届け方では、ディフューザーと枕に差があった
提示方法で比べると、ディフューザー群は枕群よりPSQI総点が低く、よい評価でした。この差は、基準時の点数を調整した解析でも認められました。
ただし、ディフューザーが対照群より広く睡眠を改善した、とはまとめにくい結果です。「主観的な睡眠の質」の項目では、ディフューザーと対照群の個別比較は有意水準付近でしたが、提示方法全体の検定は有意に届きませんでした。日中の疲れについても、対照群との差は有意ではなく、よい方向の傾向にとどまりました。
時間変化を扱う別のモデルでも、ディフューザーと枕の使用中の差は見られましたが、提示方法によって時間的な変化が異なるという交互作用は有意水準にわずかに届きませんでした。このモデルの個別比較では、枕群の総点は基準時より使用中も使用後も高く、悪い評価でした。
今回の結果は、香りの置き方が本人の快適さや睡眠の評価に関わる可能性を示します。同時に、枕との比較で得た差と、香りを使わない対照群との比較は、分けて読むことが大切です。
機器の記録と、使用後の持続性はどうだった?
基準時を調整したFitbitの比較では、香りの種類や提示方法による有意な睡眠指標の差はありませんでした。主観的な評価に見えた違いを、睡眠時間や睡眠段階の改善として裏づける結果は得られませんでした。
時間を含めたモデルでは、ラベンダー群の浅い睡眠時間がオレンジ群より長いという群間差がありました。ただし、これは香りを導入してから改善したことを示す比較とは異なります。浅い睡眠が長いこと自体を、そのまま睡眠の質の向上とも判断できません。
香りをやめた後まで続く改善も確認されませんでした。また、研究前後に測ったにおいの検知感度にも、明確な変化はありませんでした。
選んだ方法の違いを、因果関係にする前に
この研究の特徴は、本人が香りも方法も選んだことです。普段の使い方に近い反面、各群は無作為に分けられていません。香りへの期待、生活習慣、方法を選ぶ理由などが、睡眠評価の差に重なった可能性があります。
香りと方法を組み合わせた各小集団の人数も限られ、対照群は19人でした。Fitbitは脳波を使う睡眠検査ほど細かな変化を捉えられないため、機器で差がなかった理由も一つには決められません。
対象は健康な成人で、診断された不眠症への治療試験ではありません。研究の価値は、寝室の香りを調べる際に、何を香らせるかだけでなく、提示方法と主観・機器の両面を扱う必要があると示した点にあります。
まとめ
自宅で好みの香りを使った研究では、調合香群は対照群より「主観的な睡眠の質」の一項目がよい評価でした。ディフューザー群は枕群より睡眠質問票の総点が低く、よい評価でしたが、枕群自体は基準時より悪化していました。香りの種類だけでなく、届け方も眠りの受け止め方に関わる可能性があります。
機器で測った改善や、使用後まで続く改善は確認されず、本人が方法を選ぶ設計でもありました。香りと睡眠を考えるには、「よく眠れたと感じること」と「測定される睡眠」をそれぞれ確かめることが大切です。
論文にはTakasago EuropeとVolkswagenstiftungの支援が記載されています。共著者には論文時点でTakasago Europe所属の研究者が含まれ、Thomas Hummel氏は複数企業との協力関係を開示しています。
参考文献
Li Z, et al. (2025). Effects of nighttime odor exposure and delivery methods on subjective sleep quality in healthy adults. Scientific Reports, 15, 32452. 原著論文/公開全文


