Scentis(センティス)— グラースで試香紙をつくる人と、紙・袋・道具の仕事

木の台に並べた白い試香紙と半透明の袋、クリップや定規を配したセンティスの記事画像 香りの世界を広げる

「よい試香紙とは、ある特定の必要に応える試香紙です。」

ジェローム・アルジエリ=リグオリ

香水売場で渡される白い試香紙、ムエットにも、つくる人がいる。香水を染み込ませ、鼻へ運び、名前を書き留める。その小さな道具を、研究室にも店頭にも届けているのが、フランス・グラース地方のScentis(センティス)である。

センティスの仕事をたどると、試香紙は単なる印刷用紙ではなくなる。液体に浸すか、スプレーするか。一本ずつ確かめるか、複数の香りを組み合わせるか。紙の形や周囲の道具に、香水を扱う人の仕事が映っている。

基本情報

  • 名称:Scentis(センティス)
  • 創業:2005年。法人のRNE登録は2006年1月6日
  • 創設者:Jean-Paul Malerba(ジャン=ポール・マレルバ)
  • 拠点:フランス、グラース地方のサン=セゼール=シュル=シアーニュ
  • 事業:試香紙と香りの提示に使う印刷物・道具の制作
  • 公式サイト:Scentis

ジャン=ポール・マレルバの起業と会社の歩み

見本カードの技術を、自宅から始まる事業へ

マレルバはグラースの出身である。香水の世界と接しながら、見本カードを手がける欧州の企業で20年以上、技術責任者を務めた。その経験を経て2005年にセンティスを創業する。出発点は自宅で、最初はパートナーと二人の仕事だった。

ここでいう技術は、香水そのものを調合する技術ではない。香りを試すための紙を選び、切り、印刷し、使う場面に合う形へ仕上げる技術である。グラースの香料研究室や香水のブランドへと仕事が広がるにつれ、自宅では手狭になった。2013年、センティスはグラース地方にとどまり、サン=セゼールの工業地区へ移った。

営業・マーケティングから経営の継承へ

2016年には、営業・マーケティングを担うジェローム・アルジエリ=リグオリ(Jérôme Algieri-Liguori)が加わる。センティスはこの参加を、海外への展開が広がる転機に位置づけている。

2023年12月、フラグランティカのダリア・フェサロニカは、同社のアルジエリ=リグオリとオードリー・ドナト(Audrey Donato)に、紙や造形の仕事を尋ねた。二人の答えには、研究用の道具と、香水を人に紹介するための表現を両立させる会社の姿が表れている。

その後、2025年1月29日付で、アルジエリ=リグオリが代表するJAL INVESTが、マレルバに代わって法人の社長職に就いた。同年のグラース・アントルプリーズによる企業訪問の報告も、アルジエリ=リグオリを新しい経営者として紹介している。創業者の経歴と、現在の経営体制は分けて捉える必要がある。

センティスの歴史年表

年 出来事
2005年 マレルバがセンティスを創業。自宅でパートナーと事業を始める。
2006年 1月6日、法人をRNEに登録。公式沿革の創業年とは区別される。
2013年 公式沿革では、サン=セゼールの工業地区へ移転。
2016年 アルジエリ=リグオリが営業・マーケティング担当として参加。
2019年 ジャン=クリストフ・ゲドンとの協働によるホルダーの新コレクションが誕生。
2023年 アルジエリ=リグオリとドナトが、試香紙の素材・用途・特注制作についてQ&Aで説明。
2025年 1月29日、JAL INVESTがマレルバに代わり法人の社長職に就任。

試香紙の形と紙をどう選ぶか

浸す紙と、吹き付ける紙

アルジエリ=リグオリは、液体に浸す場合とスプレーする場合では、使う大きさと形が異なると説明する。研究室で使う細い紙と、売場で香水を紹介する紙を、同じものとして考えない。その目的から形を決めるのである。

現在の公式ショップにも、正方形の「BLOTTERS PROFESSIONNELS」と、長方形の「AEROSOLS LABORATOIRES」が並ぶ。白い紙という共通点の奥に、香りを載せる面積と扱い方の違いがある。

一枚ずつの紙だけでなく、冊子状の試香紙も手がける。長方形、先の尖った形、パドル型などを用途に合わせて選び、必要な枚数を綴じる。研究室や展示会、商談で紙をまとめて扱うための仕立てである。

香りを受け止める専用紙と、表面の加工

センティスが選ぶのは「carte à parfum」と呼ぶ香水用の専用紙である。中性pHの専用紙を使い、白・黒・ベージュを用意する。香りを忠実に伝えることを狙った材料の選択であり、紙の色や見栄えだけが出発点ではない。

その紙に、単色・多色の印刷、箔押し、凹凸をつけるエンボス、特注の型抜きを組み合わせる。香りを受け止める素材を基礎に、ブランドごとの視覚や手触りを加える仕事だ。

香りの記憶に残る紙の造形

風車、折り紙の船、手に持てる花

2023年のQ&Aでアルジエリ=リグオリが挙げた制作例は、エルメスの風車とディオールの折り紙の船だった。ドナトは、キャロリーナ ヘレラ「グッド ガール」のための花を紹介している。

「キャロリーナ ヘレラのグッド ガールのためにつくった花です。」

オードリー・ドナト

この花では、箔押しと特殊な型抜きを施した紙を、試香の際に持てる強さのある棒に取り付けた。輪郭を変えるだけでなく、手で扱える構造までつくる。香水を吹き付けて渡す短い場面にも、印刷と加工の仕事が重なっている。

吹き付けると絵が現れる「Wet & See」

「Wet & See」は、カードに香水を吹き付けると画像やメッセージが現れる仕組みである。ドナトは、新しい香水の紹介などに使う、驚きを伴うコミュニケーションの手法として説明する。

通常は香りを載せるために行うスプレーが、絵を出現させる操作にもなる。紙は香水を説明する文章の台紙にとどまらず、使う人が手を動かして完成させる媒体になるのである。

試香紙の周囲にある袋とホルダー

香りを分け、書き込みを見えるままにする袋

試香紙に香りを載せた後にも、道具の役割は続く。「sachet cristal」と呼ぶグラシン紙の袋は、試香紙を個別に収めるためのものだ。半透明の紙越しに書き込みを読め、折り返しのフラップで包む構造になっている。

センティスはこの袋を、香りを互いに隔てて保護する道具として説明している。香りを確かめる瞬間だけでなく、紙を整理し、持ち運ぶ時間まで視野に入れた製品である。

複数の紙を並べて、香りの組み合わせを確かめる

試香紙を挟んで支えるホルダーでは、香水のデザインに携わるジャン=クリストフ・ゲドン(Jean-Christophe Gaydon)と協働した。複数の紙を保持し、回しながら異なる香りの組み合わせを評価する、調香の道具を再設計したものである。

金属製の本体に取り外せるクリップを備え、一本枝・三本枝・五本枝の型で5〜25枚の試香紙を保持する。素材には重さと強度を持つザマック合金を使い、別にアルミニウム製の定規型も用意する。紙を一枚だけ嗅ぐときとは違う、複数の香りを扱う手の動きに応えた道具である。

センティスを知る面白さは、白い紙の背後に、こうした使い方の違いが見えてくることにある。香水をつくる人、紹介する人、初めて試す人。その間をつなぐために、紙の形も、紙を収める袋も、支える金具も選び直されている。

参考文献