植物性ミルクは、原料と乳酸菌の組み合わせで香りが変わる

植物性ミルクは、原料と乳酸菌の組み合わせで香りが変わる 香りの科学

オーツ、エンドウ豆、ソラ豆、ヒマワリの種。植物性ミルクは、原料が違えば発酵後の香りも変わります。2023年の研究では、4種類の植物性ミルクと15株の乳酸菌を組み合わせ、青臭い成分を減らしたり、バター、果実、チーズを思わせる香りを増やしたりできる組み合わせを探しました。

興味深いのは、素材ごとの違いが大きい一方で、4素材に共通してバター系の香りを増やす候補菌も見つかったことです。さらに、分析機器で得た成分情報から香りの変化を予測し、人の評価と照合しています。

原料に合う菌と、複数の原料で働く菌を探す

研究の狙いは、植物性ミルクの風味を発酵で改善することと、原料が変わっても使える菌を見つけることでした。植物性の原料は、糖、たんぱく質、脂質、もともと含む香気成分が異なります。ある素材でよく働いた菌が、別の素材でも同じ香りをつくるとは限りません。

研究者らは、オーツ、脱脂したヒマワリ種子原料、エンドウ豆、ソラ豆を水と混ぜ、均質化して超高温処理した試料を用意しました。市販の飲料をそのまま比較した試験ではなく、原料と菌の組み合わせを調べやすい実験用の植物性ミルクです。

食品用の乳酸菌15株をそれぞれ単独で加え、酸素を除いた条件で30℃、24時間発酵させました。発酵時に糖や動物乳などの栄養を追加せず、各組み合わせを生物学的に3反復。菌を加えない対照も設け、増殖と揮発成分の変化を調べました。

同じ菌でも、素材によって育ち方と香りが変わる

15株のうち14株は、複数の植物性ミルクで増殖できました。残る Lactobacillus helveticus NCC1276は、4素材のいずれでも増殖せず、その後の香気比較は主に14株の発酵試料と未発酵試料で行われています。

増殖の得意不得意は菌ごとに異なりました。たとえば Leuconostoc mesenteroides NCC2832は4素材でよく育った一方、Lactiplantibacillus plantarum NCC2988はヒマワリ、エンドウ、ソラ豆でよく育ち、オーツでは増殖が弱いという特徴がありました。

ガスクロマトグラフィー質量分析で調べると、発酵前には計71種類の揮発成分が見つかり、発酵後には新たに27種類が検出されました。発酵でよく見られた変化は、ヘキサナールなどのアルデヒド類の減少と、アルコール、酸、ケトン、エステル類の増加です。ヘキサナールは青臭い、豆を思わせる香りに関わる成分の一つです。

同じ菌でも生成物は変わります。L. johnsonii は、ヒマワリやソラ豆ではアルコール類の生成が目立ち、エンドウでは酸類の生成が目立ちました。また、ヒマワリやソラ豆に含まれるテルペン類に関連して、木質、ミント、花や柑橘を思わせる成分の構成も変化しました。原料にある出発材料と、菌の代謝の組み合わせが香りの方向を左右する、というのが著者らの解釈です。

成分の「多さ」だけで、香りは予測できる?

ここで研究者らは、分析データを人が感じる香りへ近づける方法を試しました。ある成分が多く検出されても、それが少量で感じられる成分なのか、大量でようやく感じられる成分なのかによって、香りへの関わりは変わるからです。

方法は、各成分の分析ピーク面積が全体に占める割合を求め、文献にあるにおいの検出閾値で重みづけするもの。空気中の閾値を基本とし、水中の値しかない成分では換算を行いました。そのうえで、果実・甘い香り、バター・脂肪様、チーズ・酸っぱい香り、青臭い・草様など8群にまとめています。

計算に使えたのは、検出した98成分のうち香調と閾値の情報がそろう69成分でした。これは絶対濃度から計算した通常の臭気活性値とは異なる、相対的な予測指標です。エンドウを L. johnsonii で発酵させたときの「青臭い香りが95%から7%へ」という値も、予測上の香調構成の変化であり、人が感じる青臭さがその割合だけ減ったという測定値ではありません。

バター系に向く菌、チーズ系に向く菌

予測では、Streptococcus thermophilus NCC1326が4種類すべての植物性ミルクでバター系の香りを増やす候補になりました。ジアセチルやアセトインなど、バターやクリームを思わせる成分の生成が、この方向を支えています。

一方、L. mesenteroides はチーズ系、L. johnsonii はテルペン関連の木質・ミント系の香りをつくる候補として挙げられました。エンドウとソラ豆ではチーズ・酸っぱい香りの増加が目立ち、植物性のチーズ代替食品に向けた可能性も論じられています。

青臭い・豆様の香りを減らす方向では、L. plantarum、L. mesenteroides、L. johnsonii が有望でした。単に「発酵するとよい香りになる」という一つの結論ではなく、目指す香りに合わせて素材と菌を選ぶための比較です。なお、著者らの「好ましい香り」という分類は開発上の想定であり、ここで消費者全体の好みを測ったものではありません。

少人数の官能評価でも、予測した変化を確認

人の感覚との照合には、特徴の異なる6株で発酵させたオーツとエンドウの試料を使いました。評価前に71℃で2分間加熱し、室温へ冷却。訓練を受けていない8〜10人が、未発酵試料と比べた特定の香調の増減を、−3から+3で評価しました。

オーツでは果実・甘い香りとバター・脂肪様の香りの増加、エンドウでは青臭い・草様の香りの減少とチーズ・酸っぱい香りの変化が認識されました。これらの評点は成分データからの予測と相関し、比較的簡単に得られる分析ピークの情報が、発酵条件を選ぶ手掛かりになることを示しました。

ただし、人による確認は4素材すべてではなく、選んだ2素材・6株に限られます。混合物中での成分同士の作用、原料による香りの出やすさ、閾値のない成分などは、この予測では十分扱いきれません。著者らも、標準物質を増やした分析や、成分を分離して実際に嗅ぐ方法による検証を今後の課題に挙げています。

まとめ

植物性ミルクの発酵では、同じ菌でも原料によって増殖と香気成分の変化が異なりました。そのなかで、4素材にバター系の香りを加える S. thermophilus NCC1326や、チーズ系、木質・ミント系、青臭さの低減に向く候補を見つけたことが、この研究の成果です。

さらに、成分の相対量をにおいの閾値で重みづけした予測は、オーツとエンドウの小規模な官能評価と対応しました。原料と菌を組み合わせて狙う香りを設計するための一歩であり、今後は好み、食感、色、栄養の変化も含めた製品全体の評価へつなげる必要があります。

研究資金はNestec Ltd.から提供されました。同社は2019年にSociété des Produits Nestlé SAへ統合されています。研究当時、著者4人はNestléの研究・技術部門に所属していました。オープンアクセス費用はProjekt DEALの支援を受け、著者らは競合利益なしと申告しています。

参考文献

Tangyu M, Fritz M, Tan JP, et al. Flavour by design: food-grade lactic acid bacteria improve the volatile aroma spectrum of oat milk, sunflower seed milk, pea milk, and faba milk towards improved flavour and sensory perception. Microbial Cell Factories. 2023;22:133. doi:10.1186/s12934-023-02147-6