pesade(ペサドゥ)— 旅の記憶を三つの香りにする、ソウル発のフレグランスブランド

pesade Mid Mountainの黒いキャップと青い文字のラベルを、写真集と旅の写真がある机に配したブランド紹介画像 ブランド創業者

「私はフレグランスはアート作品だと思っています。」

— モク・ヨンギョ(創設者・クリエイティブディレクター)

クリーム色の紙に、青い大きな文字。pesade(ペサドゥ)の〈Mid Mountain〉は、本の表紙のようなラベルを持つ香水である。黒いキャップには馬蹄をモチーフにした形が使われ、容器を眺めるところから、ブランドの美意識に触れられる。

このソウル発のブランドを始めたのは、グラフィックアーティストであり、写真家としても活動してきたモク・ヨンギョだ。彼は、旅先の記憶を一つの「章」にまとめ、三つの香りで表す。写真、文章、香り、空間。その間を行き来する創作を知ると、ボトルの端正な姿にも、別の意味が見えてくる。

基本情報

  • 創設年:2022年
  • 創設者:Mok Young-kyo(モク・ヨンギョ)
  • 拠点:韓国・ソウル
  • 創設者の役割:クリエイティブディレクター。調香師と協働して香りを制作
  • 主な展開:香水、ハンドケア、ホームフレグランス
  • 公式サイト:pesade / 日本公式サイト

ブランド名は、馬が前脚と上体を持ち上げる馬術の技法「ペサード」に由来する。その姿勢を保つ力と、均衡の取れた形。モクは、この二つを香りづくりの目標に重ねた。香りの存在感と、組み合わせの釣り合いを、同時に考えるブランドなのである。

創設者とブランドの成り立ち

グラフィックと写真の仕事から、自分のブランドへ

モクは韓国で生まれ、グラフィックデザインやクリエイティブコンサルティングを学んだ。長くデザインの仕事を続け、形や色のわずかな違いに目を向けてきた。2026年のイタリアでの取材では、香水も、そうした自分の経験に近い表現手段だったと振り返っている。

それ以前には、ファッションや音楽のクライアントのために、フリーランスで働いていた。依頼に応える仕事を重ねるうちに、自分の作品やブランドを持ちたいという思いが強くなる。写真の仕事へも進み、やがて、これまで身につけた視覚表現を、自分の事業へどう生かすかを考え始めた。

香水に惹かれたのは、容器をデザインできるからだけではない。香りには形がなく、それを言葉やイメージへ移して、人へ伝える仕事がある。モクが長く取り組んできた表現を、香りのために使える。創設者の経歴とブランドの仕事が結びついたのは、ここだった。

香水を集め、旅の記憶を残す

モクは、ブランドを始める前から香水のコレクターでもあった。香りを集めることは、彼にとって、訪れた場所や時間の記憶を残す行為である。見た景色を写真に収めるように、香りも持ち帰り、あとから取り出すことのできるものとして捉えていた。

制作の着想になる旅は、最初から商品企画のために組まれたものばかりではない。2025年のQUIの取材では、余暇の旅で経験したことが香りへつながりそうだと感じると、その土地を再び訪れ、イメージを固めると話している。まず個人として心を動かされ、そこから制作へ進むのである。

旅先での一瞬の出会いや、初めて訪れた土地への印象を、どう残すのか。写真なら光や構図を選ぶ。香水なら、どの素材を中心に置き、何を重ねるかを考える。pesadeの創作は、旅の情報を紹介することより、モクが受け取った感覚を別の媒体へ移すことに向かっている。

2022年、三つの香りとケア用品で出発する

pesadeは2022年5月、ソウルで誕生した。発売時には、Mid Mountain(ミッド マウンテン)、The New Error(ザ ニュー エラー)、In Hindsight(イン ハインドサイト)の三つのオードパルファムを用意した。ハンドクリーム三種とハンドウォッシュ一種も、ともに展開している。香水を中心に、日々の身支度や手を洗う時間まで、香りとの接点を考えた出発だった。

この三つの香りは、現在のChapter Iにつながる。章のテーマは「Slow Beat, Dazzling Sunlight」。ゆったりしたリズムと、まぶしい日差しという、一つの世界を置いた。そこへ三つの異なる香りを並べる方法が、その後のコレクションの形にもなっていく。

漢南の旗艦店で、世界観を体験できる形へ

百貨店やセレクトショップでのポップアップを経て、2022年8月、漢南に最初の旗艦店を開いた。当時の開店記事と、空間を手がけたNONTEXTの記録によれば、店は、商品を試せる一階、展示のための二階、屋上の庭から構成されていた。香水を選ぶ場所に、ブランドの視覚表現を見たり、ゆっくり過ごしたりする時間を組み込んでいる。

一階の大きなテーブルでは、アーティストのイ・グァンホと協働した。柔らかなスポンジを結び、何度も塗装して仕上げた作品である。香水を載せるための台も、素材や表面の見え方を考える創作の一部となった。店へ入った人は、香りに加えて、手触りや形を通じてpesadeを知ることができた。

この店は、創業者の視覚表現を、客が入れる空間へ広げた場でもあった。写真やラベルを一方から見せるだけでなく、実際に歩き、香りを確かめられる形へ進む。2024年3月には、聖水にも二つ目の旗艦店を開き、香水に出会うための場所を増やしていった。

2025年の日本展開から、ミラノの店へ

日本では、2025年春に本格的な展開を始め、リステアでのポップアップと日本公式オンラインストアの開設を進めた。現在はTOMORROWLANDやU NOSE SHOPなどでも取り扱われている。香りを試せる売り場と、ブランドの言葉を読める場所の両方から、日本の読者や使い手へ接点をつくってきた。

2026年には、イタリアのディストリビューターCaléとともに、ミラノのデザインウィークに合わせて同国初の店舗を開いた。同年6月の取材でモクは、イタリアの人々がブランドの歴史や文化に関心を寄せたこと、直接その反応を見られた喜びを語っている。店舗は、自分たちを紹介する場所であるとともに、使い手の受け取り方を知る場所でもあるのだ。

海外へ向かうなかで、モクは、韓国ブランドには伝統的、東洋的な表現を期待されることもあると話している。だがpesadeで見たいのは、国名だけで括った香りの傾向より、創設者がどの記憶を選び、どう形にするかという仕事である。ソウルから始まったブランドの個性は、その具体的な選択に現れている。

ブランドのこだわり

旅の文章をもとに、調香師と共同制作する

モクは、香りの制作に先立って、テーマとなる物語を自分で書く。旅のエッセイのような文章を調香師にも読んでもらい、イメージを共有するのである。一枚の写真や素材の名前だけでは伝えにくい、出会った人物や、その場所で過ごした時間を、香りの構成へつなぐための工程だ。

彼が担うのは、中心となる香りの組み合わせを定め、制作の方向をつくることだ。処方の仕事は調香師と進める。その対話では、調香師の解釈が加わり、最初に思い描いた着地点が変わることも受け入れている。自分の記憶をもとにしながら、別の作り手の経験へ開く姿勢がある。

チャプターごとに三つの香りを構成する

一つの章に、三つの香りを置く。pesadeは、共通する物語を、異なる角度から表すことで、コレクション全体の釣り合いをつくる。例えばChapter IIの「Strange Odyssey」は、異国の風景や旅先での出会いを題材とし、An Unseen、De Nude、Oud Blondを組み合わせた章である。

An Unseen(アン アンシーン)では、ネロリやプチグレンの花と葉の表現を、ムスクやカシュメランへ重ねる。De Nude(ドゥ ヌード)は、ベンゾインとサンダルウッドの温かさを、アイリスやレザーと組み合わせる。Oud Blond(ウード ブロンド)では、ダバナや花、スパイスが、ウードとムスクの上へ広がる。旅という同じ題材を、明るい庭、布や肌を思わせる質感、木や植物の表現へ振り分けている。

そのため、pesadeを試すときは、一つのノート名だけで章全体を捉えるより、三つの構成の違いを見ると面白い。ネロリの明るさを選ぶのか、アイリスとレザーの質感へ向かうのか、ウードに重なる植物やスパイスに惹かれるのか。同じ物語のなかで、自分が受け取りたい角度を選べる。

花やオリスに、木や茶の表現を重ねる

pesadeの「バランス」は、すべてを淡く均一にするという意味ではない。例えばChapter IのMid Mountainでは、レモンとローズ、オーキッドなどの花の表現に、パチョリ、シダーウッド、アンバーを重ねる。花の明るさの下へ、木やパチョリの落ち着きを置いた構成である。

Chapter IV「Night Ride」のOrris Cocoon(オリス コクーン)では、オリスと龍井茶を中心に、コリアンダーや木の表現を組み合わせる。粉を思わせるオリスを、茶やスパイスの方向から見直す香りだ。オリスの柔らかさに何を重ねているかに注目すると、名前や容器だけではわからない、この作品を試す理由が見えてくる。

馬蹄を思わせるキャップと、アナログな包装

馬術からの着想は、香りの理念に加え、ボトルのキャップにも表れている。モクによれば、その形のモチーフは馬蹄である。Mid Mountainの容器では、丸みを持つ黒いキャップと、クリーム色のラベルに置いた青い文字が、透明なガラスに重なる。素材と色の対比が、香水を手に取る前の印象をつくっている。

パッケージには、シルクスクリーン、活版印刷、手でステッカーを貼るといった方法を取り入れる。キャンペーンの撮影でも、可能な限りフィルムを使うという。紙の表面、印刷、写真の見え方までを、香りとともに考える。この触れられる部分の仕事に、グラフィックと写真を続けてきた創設者の経験が表れている。

香水から、手元と空間の香りへ広げる

ハンドクリームやハンドウォッシュを創業時から展開し、その後、ルームスプレーやフレグランスタグも加わった。馬をモチーフにしたタグは、クローゼットやドアノブなどへ掛けて使う形式である。香水をまとう時間に加えて、手を洗うときや部屋に戻るときにも、ブランドの香りとデザインへ触れられる。

一つの章の三種を知るには、チャプター別のディスカバリーセットも用意されている。Chapter IIのセットは3mlを三本収める。三つを比べることで、香りに共通する世界と、自分が惹かれる違いを確かめられる仕組みだ。物語を読むことと、実際に香りを選ぶことが、ここでつながる。

ちなみに…

2025年のFASHIONSNAPの取材で、モクはブランド名と馬術との関係を聞かれている。レースを体験したり観戦したりしたことはあっても、馬術文化に深く関わってきたわけではない、と答えた。

彼が名前にしたかったのは、強さと優雅さを同時に持つ、ペサードの姿勢そのものだった。形や釣り合いに目を向けてきたデザイナーが、動作のなかに自分の創作の方向を見つけた。その小さな選択が、香りの構成からボトルまでを結ぶ言葉となっている。

参考文献

  1. QUI:モク・ヨンギョへのインタビュー「旅の記憶が奥底に潜むアートなフレグランス」(2025年11月19日)— 冒頭の言葉、旅、文章による共有、調香師との協働、キャップ — https://qui.tokyo/beauty/2510-fragrance-pesade
  2. FASHIONSNAP:創業者兼クリエイティブディレクターへのインタビュー(2025年、最終更新9月10日)— 独立への思い、香りと記憶、役割、アナログの技法、馬術の小話 — https://www.fashionsnap.com/article/pesade-interview/
  3. pesade:About — 創設者、創設年、名前、三つの香りによる章の構成 — https://en.pesade.kr/shopinfo/company.html
  4. Beauty Pambianconews:モク・ヨンギョへのインタビュー(2026年6月15日)— 出身と学び、ミラノ店開設、客との対話 — https://beauty.pambianconews.com/2026/06/mok-young-kyo-pesade-partiamo-da-milano-per-crescere-con-negozi-fisici/81097
  5. FASHION SEOUL:pesadeの発売告知(2022年5月16日)— 初期の香水三種、ハンドケア — https://fashionseoul.com/214409
  6. heypop:漢南旗艦店の開店取材(2022年8月12日)— 開店時期、イ・グァンホとのテーブル制作 — https://heypop.kr/n/38121/
  7. NONTEXT:pesade Hannam FSS(2022年)— 設計者による店舗の構成と考え方 — https://nontext.kr/pesade
  8. THE BIGDATA:聖水旗艦店の開店告知(2024年3月)— 二号店の開店 — https://www.thebigdata.co.kr/view.php?ud=2024032011104685099aeda69934_23
  9. MSY:Chapter II紹介と日本での展開のプレスリリース(2025年4月21日)— 日本での本格展開、章の着想 — https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000161376.html
  10. pesade:Stockist — 現行の国内取り扱い店舗 — https://en.pesade.kr/shopinfo/stockist.html
  11. ELLE Korea:Kビューティの代表者への取材(2026年)— モクが語る海外での期待とブランドの世界観 — https://www.elle.co.kr/article/1905293
  12. NOSE SHOP:U NOSE SHOPのブランド紹介(2026年)— 取り扱い、Chapter Iのテーマ — https://noseshop.jp/blogs/blog/u-noseshop-lineup
  13. pesade:An Unseen 100ml — 香りの構成 — https://pesade.jp/products/perfume-100ml-an-unseen
  14. pesade:De Nude 100ml — 香りの構成 — https://pesade.jp/products/parfum-100ml-de-nude
  15. pesade:Oud Blond 100ml — 香りの構成 — https://pesade.jp/products/parfum-100ml-oud-blond
  16. pesade:Mid Mountain 100ml — 香りの構成とボトル — https://pesade.jp/products/eau-de-parfum-100ml-mid-moutain
  17. pesade:Orris Cocoon 100ml — 香りの構成 — https://pesade.jp/products/perfume-100ml-orris-cocoon
  18. pesade:Discovery Set Chapter II — チャプター別ディスカバリーセットの仕様 — https://pesade.jp/products/discovery-parfum-set-capter2
  19. MSY:ルームスプレー発売のプレスリリース(2025年)— ホームフレグランスへの展開 — https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000161376.html
  20. MSY:サロン ド パルファン2026出展のプレスリリース(2026年9月30日)— フレグランスタグの形と使い方 — https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000161376.html