何度も接すると、だんだん好きになる。そんな「単純接触効果」は、苦手なにおいにも働くのでしょうか。2015年の研究では、日を空けて6回嗅ぐうちに、ライラックやシャンプーの香りの快さは上がりました。一方、不快な2種類と、最初から特に快かったイチゴの香りには、明確な上昇が見られませんでした。
同じ回数を嗅いでも、好ましさの変化は一様ではない。その違いを、最初の好き嫌いから調べた実験です。
快い香りから不快なにおいまで、日を空けて6回
参加者は40人で、平均年齢は約22歳、男性は10人でした。嗅覚が正常だと自己申告した人たちに、チーズを思わせるイソ吉草酸、糞便様のにおい、革、ライラック、シャンプー、イチゴの6種類を提示しました。さらに、香料を入れていないペンも加えています。
刺激は中に液を含ませたペンに入れ、鼻の約1センチ下で一度嗅ぐ方法です。各回に7本を無作為な順序で提示し、におい同士の間は30〜45秒空けました。参加者は、それぞれの快さ、親しみ、強さを連続した尺度で評価しました。
この評価を6回行い、各回の間は少なくとも1日空けました。間隔の中央値は3日で、1〜19日の幅があり、研究全体のデータ収集は5週間でした。長時間続けて嗅いで鼻が慣れる状況を避け、別の日にまた出会うことによる変化を見ようとした設計です。
よく知っている感じが増えても、すべてが好きになるわけではない
最初の評価では、チーズと糞便様は不快、革と香料なしのペンは中立、ライラック、シャンプー、イチゴは快い側でした。最初から感じる強さも完全にはそろっておらず、香料なしのペンは特に弱く評価されていました。
初回と6回目を比べると、親しみの評定は全体として上昇しました。しかし快さが有意に上がったのは、ライラック、シャンプー、香料なしのペンです。革は上昇傾向にとどまり、通常の5%の有意水準には達しませんでした。
チーズと糞便様のにおい、そしてイチゴには、快さの明確な上昇がありませんでした。親しみが増すことと、好きになることが、いつも同じように進むとは限らなかったのです。
変化が大きいのは、最初の評価が両極端でない刺激
研究者は、種類ごとの初回の平均的な快さと、その後の快さの増加を比べました。すると、最初の評価が中立に近い刺激ほど変化が大きく、不快側と、とても快い側では変化が小さい、山型の関係が見られました。香料なしのペンを除いても、この関係は残りました。
著者らは、単純接触効果は中立から穏やかに快いにおいで現れやすく、初めから強い好き嫌いがある場合には小さくなる、と結論づけています。ただし、この山型は6〜7種類の平均値から得た関係です。個人ごとに、あらゆる香りが必ず同じ曲線に従うと確かめたものではありません。
香料なしのペンで最も大きな変化があった点も興味深いところです。このペンもほかの刺激と同じように毎回嗅いで評価しており、繰り返し接していない対照ではありません。ペンや課題への慣れも含む評価として読む必要があります。
強さや、においの名前は関係したのか
強度の評定は、香料なしのペンとチーズで初回より6回目に高くなりました。しかし、種類ごとの強度の変化と快さの変化の間には、明確な相関がありませんでした。この結果から、著者らは今回の快さの変化を、単ににおいが弱くなったためとは考えにくいとしています。
最後の回には、においの名前を答える課題も行いました。自由回答の正答率は平均38%でしたが、4つの選択肢から選ぶと平均88%に上がりました。自由回答では、イチゴやシャンプーが比較的よくわかり、チーズはわかりにくい刺激でした。正答には、厳密な名前だけでなく、花や化粧品といった適切なカテゴリーも含めています。
種類ごとに見ると、快いにおいほど名前を認識しやすい関連もありました。著者らは、最初から意味がわかり、好ましさも高い刺激では、反復によって新たに学ぶ余地が小さい可能性を挙げています。ただし、名前を教えた群と教えない群を比べたわけではなく、認識が快さの変化を決めるという因果関係は未解明です。
不快なにおいが変わりにくい理由は、今後の問い
著者らは、不快なにおいへの警戒が慣れだけで消えにくいことには、生存上の意味があるかもしれないと論じています。また、繰り返しによって処理しやすくなり、好ましく感じるという「処理の流暢さ」の説明も検討しました。これらは結果を説明する仮説で、今回、危険回避行動や脳の処理を測ったわけではありません。
全員がすべての刺激を反復しており、未曝露の比較群はありません。調べた香りも6種類に限られます。そのため、「苦手なにおいは一生変わらない」とまで広げるのは早計です。この条件では、不快なにおいを6回嗅いでも、快さのはっきりした上昇は見られなかった、と範囲を押さえるのが適切です。
まとめ
日を空けて6回嗅いだ結果、ライラックとシャンプー、香料なしのペンは初回より快く評価されました。革の上昇は傾向にとどまり、チーズ、糞便様、イチゴには明確な変化がありませんでした。
親しみの増加だけでは、好き嫌いの変化は説明しきれません。最初の評価が中立から少し快いところにある香りほど、繰り返す中で好ましさが増えやすかったことが、この研究の重要な発見です。
研究はSwiss National Science Foundationの支援を受ける感情科学の研究拠点と、Firmenichの研究助成に支えられています。香料も同社から提供され、研究当時、著者の1人は同社に所属していました。論文では利益相反がないと申告されています。
参考文献
Delplanque S, Coppin G, Bloesch L, Cayeux I, Sander D. The mere exposure effect depends on an odor’s initial pleasantness. Frontiers in Psychology. 2015;6:920. doi:10.3389/fpsyg.2015.00920


