香りに気づかないほど薄くても、甘さは変わる?

香りに気づかないほど薄くても、甘さは変わる? 香りの科学

砂糖の量は同じでも、かすかな香りによって甘さの感じ方が変わるのでしょうか。2007年の研究では、検出閾値より低く設定した酪酸エチルを砂糖水に加えると、香料なしの砂糖水より甘さの評点が高くなりました。参加者は、評価中に香りを感じたとは報告していません。

ただし、もう一つ調べた香料のマルトールでは、同じように一貫した甘味の増強は見られませんでした。香りをはっきり感じる場合と、検出しにくい薄さの場合を分け、香料による違いを調べた小規模な実験です。

まず、甘さを変えやすい香料を選んだ

研究の目的は、単に「甘そうな香りは甘さを強める」と確かめることではありません。香りを検出できる濃度よりも薄くしたときにも、砂糖水の甘さが変わるかを調べることでした。その準備として、まず6種類の香料を、香りがわかる濃度で比較しています。

最初の実験には、官能評価の経験がない18〜25歳の9人が参加しました。砂糖濃度5g/Lの水に、ベンズアルデヒド、酪酸エチル、フラネオール、バニリン、マルトール、酢酸イソアミルを、それぞれ3段階の濃度で添加。香料なしの砂糖水も含め、カップから嗅いだにおい、口に入れたときの香り、甘さを順位づけしました。

どの香料もにおいと香りの強さを変えましたが、甘さへの影響は同じではありません。最も一貫して甘さを強めたのは、果実を思わせる酪酸エチルでした。フラネオール、酢酸イソアミル、ベンズアルデヒドにも甘さを強める効果が見られ、一方、バニリンとマルトールの甘味増強は有意ではありませんでした。

そこで次の実験には、甘さへの影響が大きかった酪酸エチルと、影響が小さかったマルトールを選びました。香料の効果を、甘そうな印象だけでひとまとめにしない設計です。

一番敏感な人の閾値より、さらに薄くする

2番目の実験には、最初とは別の18〜25歳の9人が参加しました。先の実験で香りと砂糖を一緒に経験すること自体が、後の感じ方へ影響する可能性を避けるためです。

まず各人について、水だけの2試料と香料入りの1試料から違うものを選ぶ課題を行い、濃度を上げながら検出閾値を求めました。そのうえで、9人のなかで最も低い閾値を基準に、さらに16、32、64、128、256分の1へ薄めた5段階を本試験用としました。各人の閾値に対して同じ割合に調整したわけではなく、全員が同じ濃度を評価しています。

甘さの試験では、砂糖濃度を15g/Lに固定した液体を、細い管から口へ連続して送りました。流れを止めずに香料あり・なしを切り替え、カップを持ち替える手掛かりや香りの蒸発を減らす工夫です。各条件は18秒で、参加者は甘さを11段階で評価。香料入りの評点から、その直前の香料なしの評点を引いて変化を求め、各香料の試験を2回行いました。

酪酸エチルでは5段階すべてで甘さが上昇

酪酸エチルは、試した5つの薄い濃度すべてで、直前の砂糖水より甘さの評点を有意に高めました。ただし、濃くするほど甘さが強くなるという比例関係は見られませんでした。はっきり香りがわかる濃度での結果とは異なる特徴です。

マルトールは、最も薄い条件では甘さを強め、最も濃い条件では逆に甘さを弱めました。中間の3濃度では有意な変化がありませんでした。論文の抄録はマルトールを「甘さを増強しなかった」と要約していますが、結果を詳しく見ると、濃度によって方向の違う変化を含んでいます。

個人差もあり、9人中7人はマルトールより酪酸エチルで甘さが強まると答えることが多く、残る2人は両香料に大きく反応する人と、どちらにも反応が弱い人でした。著者らは、閾値の高低だけではこうした差を説明しにくいと考察しています。

最後に、香料を加えず砂糖水だけを同じ装置で連続提示したところ、甘さに有意な変化は見られませんでした。流れを飲み続ける手順だけで、同じ増強が起きるという説明は支持されなかったことになります。

「香りに気づかない」をどう確かめたか

参加者は甘さ以外の感覚も記録するよう求められましたが、本試験中に香りを感じたという報告はありませんでした。著者らはさらに、24人による嗅ぎ分けの補助試験でも、設定した類似性の基準を満たしたと報告しています。

ただし、原著には濃度の数値に記載の不一致があります。補助試験で「最高の閾下濃度」とされる値は、主実験の閾値と希釈倍率から得られる値と一致しません。マルトールにも方法の希釈設定と図の濃度範囲に差があり、厳密な濃度の再現や、補助試験が主実験をどの程度確認したかには留保が必要です。本研究の結果は、著者らが閾下に設定した条件で、香りの自覚を報告しないまま甘さの評点が変わった、という範囲で読むのが適切です。

食べ慣れた香りとの結び付きが関わる可能性

著者らは、酪酸エチルの果実様の香りと甘味を食生活で一緒に経験していることが、感じ方の変化に関わると考えました。マルトールやバニリンは、より複雑な食品の食感や香りと組み合わさったときに、甘味との結び付きが働く可能性も論じています。

これは今回、食経験を操作して確かめた機序ではありません。各実験9人と少人数で、装置内で香料が混ざるのを避けるため、酪酸エチルを先、マルトールを後に評価し、各濃度の提示順も固定されていました。著者ら自身も、提示順の無作為化や、各人の閾値に合わせた条件設定を今後の改善点に挙げています。

まとめ

この実験では、検出閾値より薄く設定した酪酸エチルが、砂糖量を変えずに砂糖水の甘さの評点を高めました。増強は試した5濃度で見られましたが、濃度に比例せず、マルトールでは増強・低下・変化なしが混在しました。

学べるのは、甘さが砂糖だけで決まるのではなく、明確に香りを感じたと報告しない条件でも、香料の種類によって変化しうるということです。実際の食品でどれだけ砂糖を減らせるかは、この研究が次の課題として残した問いです。

研究当時、全著者はNestlé Research Centerに所属していました。原著本文には、独立した研究資金欄および利益相反声明は見当たりません。

参考文献

Labbe D, Rytz A, Morgenegg C, Ali S, Martin N. Subthreshold Olfactory Stimulation Can Enhance Sweetness. Chemical Senses. 2007;32(3):205–214. doi:10.1093/chemse/bjl040