お茶を淹れるとき、湯温は気にしても、茶葉の細かさや待つ時間はいつも同じ、ということがあるかもしれません。けれども、香りの成分が出てくる速さは、この三つの組み合わせで変わります。
2020年に発表された緑茶の研究では、淹れ始めには茶葉の細かさの違いが大きく表れ、時間がたつにつれて湯温の違いが目立つことがわかりました。水のミネラル量の影響は、今回比べた範囲では小さめ。それでも、一部の成分には違いが見られました。
完成した一杯だけでなく、途中の変化を調べる
スイスのチューリヒ応用科学大学などのJosé A. Sánchez-Lópezらが調べたのは、茶葉から香りに関わる成分がどのように抽出されていくかです。完成したお茶だけを比べるのではなく、淹れている途中の変化を追いました。
変えた条件は、湯温、茶葉の大きさ、水に含まれるミネラルの量です。それぞれが成分の量や組み合わせにどう影響するかに加え、違う条件で淹れても、似た成分パターンになる組み合わせがあるかも調べています。
お茶の香りをひとつの成分で代表させず、検出した信号全体の特徴を比べ、さらに緑茶の香りに関わるジメチルスルフィドという成分にも注目しました。
同じ緑茶を、葉の大きさ・湯温・水の違いで比較
使ったのは、中国・浙江省産のガンパウダー緑茶です。葉を小さく丸めたタイプのお茶で、2016年収穫の同じ茶を用いました。そのままの葉と、家庭用ミキサーで平均数ミリ程度に砕いた葉を比べています。抹茶のような微粉末との比較ではありません。
茶葉3gに対して水150mLを使い、次の条件を組み合わせました。
- 湯温:60℃、70℃、80℃
- 茶葉:丸めた葉のまま、または数ミリ程度に砕いた葉
- 水:硬度105mg/Lと252mg/Lの市販の水2種類(炭酸カルシウム換算)
水はAqua PannaとSan Benedettoです。カルシウムやマグネシウムだけでなく、ほかのミネラルの組成も異なるため、硬度の数値だけを独立に変えた実験ではありません。抽出中は装置で穏やかにかき混ぜ、各条件を3回ずつ繰り返しました。
最初の5分間に30秒ごとに液を1mLずつ採り、ろ過して冷やした後、測定前にすべて37℃で30分間保ちました。その液の上の空間に出てくる揮発成分を、PTR-ToF-MSという質量分析装置で測っています。
つまり、60℃のお茶と80℃のお茶から立つ湯気を、その場で直接比べたわけではありません。抽出するときの条件を変え、測定するときの温度はそろえて、液から出てくる成分を比較した実験です。解析には88の質量信号を用い、そのうち34について成分の候補を割り当てました。
最初の30秒は、茶葉の細かさが目立った
多数の信号をまとめて試料の特徴を比べる解析では、抽出30秒の時点で、そのままの葉と砕いた葉が別のグループに分かれました。砕いた葉のほうが、この早い段階から成分を抽出しやすかったのです。
同じ30秒の解析では、湯温や水の違いによる明確な分かれ方は見られませんでした。まず表れたのは、葉の形や大きさによる違いでした。
葉を細かくすると、切れ端を含め、水と接する部分や成分が外へ出る道筋が変わります。著者らは、茶葉から成分が移動する仕組みを扱った先行研究も踏まえ、このことが早い抽出につながると考察しています。
ジメチルスルフィドと推定された信号を個別に見ても、葉の大きさによる有意な差は抽出の初期に集中し、1分半を過ぎると有意ではなくなりました。葉を砕いた影響が、同じ強さで最後まで続くわけではありません。
待つ時間が長くなると、湯温の違いが大きくなる
2分、3分半、5分と進むにつれて、湯温による違いがはっきりしました。全体として、温度が高い条件ほど、測定した揮発成分の量が多くなる傾向でした。5分の時点では、成分量の大きな違いを分ける主な要因が湯温になっています。
たとえば、硬度の低いほうの水で、そのままの葉を5分間抽出した場合、ジメチルスルフィドと推定された成分の気相中濃度は、60℃で約21ppb、80℃で約34ppbでした。これは装置で測った濃度であり、人が感じる香りの強さの倍率を示す数値ではありません。
研究チームは、各信号の5分時点の値を基準にして、途中の増え方も比べました。最終的な量の差を取り除いて見ると、温度別の分かれ方は消え、葉を砕いたかどうかによる違いが残りました。
この解析から、湯温は主として抽出される成分量に関わり、茶葉を砕くことは量だけでなく、成分が出てくる時間的なパターンにも関わると解釈されました。「温度を上げる」と「葉を細かくする」は、抽出に対して同じ働きをするわけではないのです。
水の影響は小さめでも、ゼロではなかった
水のミネラル量は、比べた三つの条件の中で、揮発成分全体への影響が最も小さいものでした。時間ごとの成分パターンの解析で水による分かれ方が見えたのは、2分時点の一部でした。
一方、個々の信号を見ると、粉砕した葉では、メタノール、アセトアルデヒド、ジメチルスルフィド、ペンテナールに対応すると推定された信号について、水による有意差が報告されています。これらは、硬度の高いほうの水で高くなる方向でした。
著者らは、ミネラルが茶葉からの抽出に及ぼす作用や、液から気相へ成分が移りやすくなる作用を検討しています。ただ、今回の結果を一つの仕組みで説明するには至っていません。ここでわかったのは、使った2種類の水の差が全体としては小さくても、成分ごとに見ると変化があった、ということです。
違う淹れ方でも、似た成分パターンに近づく
似た試料をまとめる解析では、そのままの葉を80℃で30秒、70℃で1分、60℃で1分半抽出した試料が、同じグループに入りました。比較的抽出量の少ない、初期の試料が集まるグループです。
これは、温度や時間が異なる条件の間にも、成分の出方が似る組み合わせがあることを示しています。著者らは、このような比較が、ティーバッグやカプセルなど、異なる形態のお茶の製品開発に役立つ可能性を挙げています。
この研究では、人が飲み比べて香りや好みを評価する試験は行っていません。苦味、渋味、うま味を含めた一杯全体も比較していないため、同じグループに入った条件を、そのまま「同じ味になる淹れ方」として使うことはできません。
また、対象は1種類の緑茶で、穏やかにかき混ぜながら抽出する実験です。煎茶や紅茶、静かに置く急須、さらに別の水でも同じ時間配分になるかは、それぞれ確かめる必要があります。
まとめ
ガンパウダー緑茶の抽出を追った今回の研究では、最初は茶葉を砕いたことによる違いが大きく、時間が進むほど湯温による成分量の違いが目立ちました。葉の細かさは抽出の初速だけでなく、成分が増える時間的なパターンにも関わっていました。水のミネラル量の影響は比較的小さい一方、粉砕葉の一部の成分には差が見られました。
さらに、温度や時間が違っても、似た成分パターンになる組み合わせを見つけられました。お茶の香りを考えるときは、湯温だけを切り離すより、茶葉の形、待つ時間、水を一緒に見るほうが、抽出の途中で起きていることを捉えやすくなります。
研究費は、欧州委員会の第7次研究枠組み計画が支援するPIMMS ITN(助成番号287382)から提供されました。著者らは本研究に関する利益相反はないと申告しています。使用した茶葉や市販水の記載は実験条件を明らかにするためのもので、銘柄の優劣を評価した研究ではありません。
参考文献
- Sánchez-López, J. A., Yener, S., Smrke, S., Märk, T. D., Bonn, G., Zimmermann, R., Biasioli, F., & Yeretzian, C. (2020). Extraction kinetics of tea aroma compounds as a function brewing temperature, leaf size and water hardness. Flavour and Fragrance Journal, 35(4), 365–375. DOI・原著/大学リポジトリの全文公開ページ。


