Neandertal(ネアンデルタール)— 山田憲太郎が香りと石器形ボトルで問う、人類の過去と未来

Neandertal darkの黒い石器形ボトルを、火打石と明るい現代的な空間に配したブランド紹介画像 ブランド創業者

「このプロジェクトは、私のアート活動から生まれました。」

— 山田憲太郎(創設者)

Neandertal(ネアンデルタール)のボトルは、黒や白の石器のような形をしている。だが、そこに収められているのは、原始時代の匂いを再現するための香水ではない。もし別の人類が現在まで生き続けていたら、どのような文化や美意識を育てていただろうか。その想像が、香りと容器の両方を動かしている。

ロンドンを拠点とするこのブランドを創設したのは、日本人アーティストの山田憲太郎だ。陶芸、テクノロジー、人類史への関心から、香水を身につける芸術へと広げていった。石器形のボトルに目を奪われたあと、なぜこの形で、この香りなのかをたどると、ブランドの輪郭が見えてくる。

基本情報

  • 創設年:2015年
  • 創設者:Kentaro Yamada(山田憲太郎)
  • 拠点:イギリス・ロンドン
  • 香りづくりの協働者:Euan McCall(ユアン・マッコール)、Chris Maurice(クリス・モーリス)ら
  • 公式サイト:Neandertal / 日本総代理店 olfatto

ブランド名は、かつて存在した別の人類、ネアンデルタール人に由来する。山田が題材にしているのは、彼らの過去と、実現しなかった未来である。自分たちの文明を当然のものと考える視点を、香水という身近なものから問い直そうとしている。

創設者とブランドの成り立ち

福岡から、科学と美術を学ぶ道へ

山田は福岡に生まれ、のちにニュージーランドで学んだ。オークランド大学で2000年に理学の学士号を取得し、2004年には同大学のエラム美術学校で美術の学士号を得ている。その後、シカゴ美術館附属美術大学を経て、ロンドンのゴールドスミスで美術を学び、2011年に修士課程を修了した。

身近には、手仕事と美意識に関わる環境があった。母は茶道を教え、父は陶芸を教えていたという。2012年のインタビューでは、東洋と西洋の両方で過ごしてきた経験が、生活や制作に影響していると語っている。陶器とデジタル技術を行き来する現在の仕事にも、その複数の背景が重なる。

山田にとって、作品の素材は、伝えたい考えや体験に応じて選ぶものだった。木を加工することも、プログラムを書くこともできる。その技術自体を見せるより、それぞれの媒体で何を表せるかに関心がある。香水も、そうした制作の延長線上に登場した。

ネアンデルタール人を通して、人類を外側から見る

香水の名前やボトルを決める前にあったのは、人間は長い時間のなかで、どのような存在なのかという問いである。山田はネアンデルタール人を調べ、ケンブリッジ大学の研究者とも話しながら、彼らの世界観や、初期の現生人類との出会いを想像していった。

そこで惹かれたのは、単に遠い過去の生活ではなかった。石を加工する技術を持った彼らが、生き続けていたらどうなっただろうか。私たちとは異なる、洗練された文明を築いていたかもしれない。その仮定によって、人間の歴史がただ一つの当然の道だったという見方を揺さぶろうとしたのである。

香水という題材にも、同じ意図がある。何を心地よい匂い、美しい形と感じるのかは、私たちの経験や文化と切り離せない。Neandertalは、別の人類の可能性を鏡にして、現在の自分たちの感覚を見直すプロジェクトとなった。

ユアン・マッコールとの協働から香水へ

山田が初期の香りづくりをともに進めたのは、スコットランドの調香師ユアン・マッコールだった。最初の発売に先立つ約二年間、二人は、この題材を香水としてどう成立させるかを考えた。マッコールは、後にJORUM STUDIO(ジョラム ステュディオ)の共同創設者となる人物である。

「ネアンデルタール」という名から、汗や粗野な匂いを想像されることもある。だが山田が目指したのは、現代的で洗練された香りだった。過去の影と、あり得た未来。その両方を感じられる作品へ向かうことが、調香師との共通の課題になった。

2023年のインタビューで山田は、海や湖の周辺に見られる、単独では必ずしも好ましくない匂いも試していると語っている。それを全体のなかへ置くと、場所の感覚や、地に足のついた印象が生まれる。題材の説明を添えるだけでなく、香りの素材や釣り合いにも問いを持ち込んでいたのだ。

2015年の作品公開と、2017年の小規模な発売

山田の作品記録には、Neandertal Perfumeが2015年4月からのプロジェクトとして掲載されている。日本総代理店も、この年をブランドの創設年としている。香水と、石器をもとにした陶器の容器が、アーティストの作品として形になった時期である。

山田はその後、2017年のフリーズ・アート・フェアの会期に合わせ、ロンドンのエースホテルで少量の香水を発売したと振り返っている。美術の実践から、実際に身につけられる香水へ。展示の場で出会うだけでなく、生活のなかへ持ち帰れるものとして、プロジェクトは広がっていった。

usとthemから、出版へ広がった問い

dark(ダーク)とlight(ライト)に続くus(アス)とthem(ゼム)では、問いが人々の帰属意識へと広がった。「私たち」と「彼ら」という区分は、社会や政治の立場、国境を考えるときにも現れる。山田は二つを対にすることで、その間に何があるのかを考える余地をつくろうとした。

2024年9月には、同じ題材を扱う出版物『us & them Volume One』も発表している。香水の物語を説明するだけの冊子ではなく、10人の書き手が、結びつきと分断というテーマに応答したものだ。限定の製本版では、山田の陶器が表紙となり、デザイナーのピーター・ハーピンが手製本を担当した。

香りから文章へ、容器から本の表紙へ。扱う媒体が増えても、人間の存在や、ものの見方を問い直すという軸は続いている。Neandertalは、香水を中心にしながら、美術や文化の活動へもつながる場になっていった。

ロンドンを拠点に、2025年には日本へ

ブランドは現在もロンドンにスタジオを構える。日本では2025年、olfattoが日本総代理店となり、同年8月27日に阪急うめだ本店で開店したPHAETON FRAGRANCE FIELDで先行販売が始まった。日本生まれのアーティストが、英国で育てた香水の仕事を、日本の売り場へ届けたのである。

山田が目指すのは、香りを楽しむことから、作品の背景にある問いへ関心を向けることまで、いくつもの接点を持つブランドだ。香水をまとった瞬間に哲学を理解する必要はない。まず形や匂いに惹かれ、そこから制作の理由を知る。芸術を日々の生活へ近づけるための、その入口が香水なのである。

ブランドのこだわり

石器をもとにしたボトルデザイン

ボトルの原型は、英国ノーフォークで加工したフリント、つまり火打石の手斧である。山田は石器づくりの専門家ウィル・ロードのもとを何度も訪れ、ともに納得できる形をつくった。既存の香水瓶へ石の模様を加えるのではなく、実際に石を加工して得た形から、容器を考えている。

90mlの陶器製ボトルには、型へ泥状の陶土を流し込む鋳込みの技法を使い、1400℃を超える温度で焼成する。打ち欠いた石の面や、手に収まる輪郭を、陶器の表面へ移している。さらに個体情報を確認できるNFCチップも組み込み、古い道具の形に現代の技術を重ねた。

30mlのガラス製ボトルは、石を3Dスキャンして形を取り込み、デジタルの工程を経て制作する。素材が陶器からガラスへ変わっても、出発点は同じ手斧だ。異なる技法を選ぶことで、石器の形を、現代の香水のための道具へつなぎ直している。

一対の香りで、共通点と違いを考える

Neandertalは、darkとlight、usとthemのように、作品を対で考えている。二本を良い・悪いへ分けるのではなく、違いを置くことで、その間や、両方に通じるものへ意識を向ける。この方法は、山田が人類史から社会の境界までを考える制作の姿勢と結びついている。

usでは、さまざまな文化で使われてきたスパイス、植物、果実を題材に、儀礼や暮らしの記憶へ向かう。柑橘やグリーンの要素に、ベチバー、サンダルウッド、ウードなどの煙を思わせる表現を重ね、親しみと落ち着きを持つ香りを組み立てている。

一方のthemが描くのは、技術の進歩を含む、まだ経験していない未来である。透明感のある木や花の表現を、海藻やアンバーグリスの要素と合わせる。同じ人間の歩みを、一方では受け継いできた文化から、もう一方ではこれからの可能性から見る。その方向の違いが、香りの設計にも現れている。

グリーン、海、金属の要素を組み合わせる調香

darkでは、葉や植物を思わせる繊細なアコードに、ペッパーやインセンスをぶつけ、ヨードを思わせる表現へ展開させる。ウードやレザーが動物的な深みを加え、土や根を思わせる要素が、グリーンを暗い方向から再び見せる。自然を、爽やかな植物の香りだけへまとめない選択である。

対してlightは、ヒノキと控えめなグリーンの表現を広げ、オリスで構成にまとまりを与える。そこへメタリック・アコード、レザー、アンバーグリスを組み合わせる。公式に記載された調香師はdarkがユアン・マッコール、lightがクリス・モーリスであり、作り手の異なる二つの解釈を、対として置いている。

木、海、金属という要素は、ノート名だけを見れば離れている。だが、この組み合わせは、古い自然の感覚と現代的な表現を同居させるための具体的な方法である。石器形の容器に対して、香りまで古風にそろえないところに、ブランドの狙いがある。

isとwasで、人間とAIの創作を比べる

is(イズ)とwas(ワズ)は、同じ制作課題から、一方を調香師のチーム、もう一方をAIがつくった一対である。公式の商品情報は、両方に「AI、またはアイザック・シンクレア、ファニー・グラウ、ニコライ・コラレヴィチのチーム」と記し、どちらがどちらかを明らかにしていない。

isは、まだ存在しない人工的な果実の果肉を思わせる香りを題材に、チョコレートや金属的な要素を組み合わせる。wasは、木やスパイスの温かさから、アイリスの柔らかさへ進み、アンバーやクローブに、マテの苦みを重ねる構成だ。

ここでも、一対にした目的は、香りの優劣を先に決めることではない。誰が、何がつくったかという情報が、自分の感じ方をどう変えるのかを考えるためである。別の人類の可能性を題材に始まった問いは、人間と人工の知性がともに創作する時代へ向かっている。

ちなみに…

2026年のインタビューで山田は、ブランドの表示をすべて取り去っても、ボトルの形だけでNeandertalのものだといえるか、という質問を受けている。特徴的な形を持つブランドなら、自分たちの象徴だと答えそうな問いである。

だが山田の答えは、手斧の形は、長い時間をかけて人類全体がつくってきたものだから、誰か一人の所有物ではなく、共有されたものだ、というものだった。

ボトルを握る手から、別の時代に同じ形を握っていた人々へ。山田が容器に込めているのは、ブランドを見分けるための個性に加えて、そうしたつながりでもある。

参考文献

  1. L’Officiel Cyprus:創設者インタビュー「Talk With Artist Kentaro Yamada」(2021年)— 発売の経緯、協働、石器形ボトル — https://www.lofficiel.cy/architecture-design/talk-with-artist-kentaro-yamada-art-inspiration-and-neandertal-perfume
  2. Kentaro Yamada:CV — 出身地と学歴 — https://www.kentaroyamada.com/?/CV/=/
  3. spilt | ART:山田憲太郎とRonin Choへのインタビュー「Making New Waves」(2012年)— 家族、素材選び、制作の動機 — https://spiltart.wordpress.com/2012/02/11/making-new-waves/
  4. Kentaro Yamada:Neandertal Perfume — 2015年4月からの作品記録と着想 — https://www.kentaroyamada.com/?/projects/neandertal/=/
  5. Polaris Olfactive:創設者インタビュー「Design: Shape as identity with Neandertal」(2026年)— 研究、ボトルの形、制作の意図 — https://polarisolfactive.com/articles/design-shape-as-identity-with-neandertal
  6. L’Officiel Monaco:創設者インタビュー(2023年)— 現代的な香りと素材の探究 — https://lofficielmonaco.com/beauty/interview-with-kentaro-yamada-founder-of-neandertal-perfumes/
  7. Neandertal:About — ブランドの考え方、ボトルの技法、出版時期 — https://neandertal.co.uk/pages/about
  8. Neandertal:us & them Volume 1 — 書き手、製本、陶器の表紙 — https://neandertal.co.uk/collections/all-products/products/us-them-journal-limited-edition
  9. Neandertal:Studio — ロンドンの拠点 — https://neandertal.co.uk/pages/studio
  10. olfatto:Neandertalについて — 創設年と創設者 — https://olfatto.jp/pages/neandertal
  11. olfatto:日本総代理店契約と国内先行販売のプレスリリース(2025年9月19日) — https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000136819.html
  12. Neandertal:dark 90ml — 香りの構成、調香師、公式商品画像 — https://neandertal.co.uk/collections/all-products/products/neandertal-dark-perfume-90ml
  13. Neandertal:light 30ml — 香りの構成と調香師 — https://neandertal.co.uk/collections/all-products/products/neandertal-light-perfume-30ml
  14. Neandertal:us 30ml — 文化と儀礼を題材にした香り — https://neandertal.co.uk/collections/all-products/products/neandertal-us-perfume-30ml
  15. Neandertal:them 30ml — 未来を題材にした香り — https://neandertal.co.uk/collections/all-products/products/neandertal-them-perfume-30ml
  16. Neandertal:is 30ml — AIと調香師の一対、香りの構成 — https://neandertal.co.uk/products/neandertal-is%E2%84%A2-30ml-glass-edp
  17. Neandertal:was 30ml — AIと調香師の一対、香りの構成 — https://neandertal.co.uk/collections/all-products/products/neandertal-was%E2%84%A2-30ml-glass-edp