香水を「爽やか」と感じたとき、そこにはどんな印象が含まれているのでしょうか。ひんやりしている、軽やかである、青い景色が浮かぶ。同じひと言の中にも、いくつかの感じ方が重なっています。では、その香水を嗅ぐときに音楽が流れていたら、どの印象が変わるのでしょうか。
2024年に発表された研究では、ブラジルの香水ブランドが伝えたい爽やかさに合わせて音楽を作り、実際の香水と組み合わせて調べました。結果を見ると、青や冷たさとの結びつきが強くなる組み合わせがある一方、「フレッシュ」という言葉との結びつきは弱くなっていました。音楽と香りの関係を、印象の一つひとつに分けて考える研究です。
ブランドが伝えたい「爽やかさ」を音にする
研究の出発点には、ある香水ブランドの具体的な希望がありました。青を基調とし、冷たく湿った自然の中を探索するような世界観を、音でも伝えたいというものです。研究者たちは、こうしたイメージを冷たさ、軽さ、湿り気、色などに分け、それぞれに合う音の特徴を探しました。
最初の実験では、ブラジルの成人794人が、8種類の音のうち1つを聴き、温度や重さの印象、思い浮かぶ香り、合う色などを答えました。この段階では香水を嗅いでいません。音だけから、どのような感覚を連想するかを調べています。
ピアノや木管楽器、ゆっくりしたテンポ、音をなめらかにつなぐ演奏などを特徴とする候補は、対照的な音に比べて、冷たさや穏やかさと結びつきました。色では青や緑が選ばれやすく、フレッシュな香りも連想されました。ただし、楽器やテンポを一つずつ変えて効果を分けた実験ではなく、複数の特徴を持つ音同士の比較です。
この結果から、ブランドの希望に近い2つの音を土台に、30秒間のオリジナル曲を2種類作りました。論文ではC1、C2と呼んでいます。続く90人の実験では、曲と、爽やかさやブランドのイメージを表す言葉との結びつきを調べました。C2は、爽やかさに関係する言葉の平均と、ブランドのイメージに関係する言葉の平均の両方で、肯定的な結びつきを示しました。
香水と言葉の結びつきを、反応の速さで調べる
2つ目と3つ目の実験で使ったのは、画面に出る指示に従ってキーを押す課題です。たとえば「この香水は冷たい」という文を短く見せたあと、「YES」か「NO」を表示します。参加者は表示されたほうのキーを、できるだけ速く押します。同じ言葉について、YESとNOの両方を指示されます。
参加者が自分の答えとしてYESかNOを選ぶアンケートとは、手順が異なります。研究者たちは、指示されたキーを押すまでの時間を使い、香水と言葉との結びつきを表す指標を作りました。論文ではこの方法をIATと呼んでいます。ここで読めるのは、言葉への反応の違いであり、香水をどれだけ好きになったかや、気分がよくなったかを直接測った結果ではありません。
香水を使った3つ目の実験には、29〜49歳のブラジル人男性200人が参加しました。日常的に香水を使う人たちで、80%は対象ブランドの利用者です。使ったのは、同じブランドのフジェール系に属する2種類の完成品の香水でした。商品名は示されておらず、香料濃度は9〜15%とされています。
一方は、水を思わせる香りにミントやローズマリーなどを重ねた、現代的な爽やかさを持つもの。もう一方は、シトラス、ラベンダー、ネロリなどによる、入浴後を思わせる爽やかさを持つものです。この記事では香水1、香水2と呼びます。
参加者はまず、音楽なしでどちらか1種類をムエットで嗅ぎ、課題を行いました。その後、C1かC2のどちらかを聴きながら、2種類の香水を順番に試しました。音楽のある段階での香水の順序はランダムですが、音楽なしの段階は全員が先です。このため、音楽の有無による差を考える際には、繰り返し課題を行うことや順序の影響も残る設計です。
青い印象が強くなっても、すべてが爽やかになるわけではない
C2を組み合わせると、香水1では「冷たい」「青い」との結びつきが、音楽なしの場合より強くなりました。香水2では「青い」「軽い」との結びつきが強くなっています。もともとは青と否定的に結びついていた両方の香水が、C2と一緒の条件では肯定的な結びつきを示した点を、著者たちは重視しました。
同じ結果の中には、反対方向の変化もあります。C2と一緒の条件では、両方の香水で「フレッシュ」との結びつきが弱まりました。香水1では肯定的な結びつきが残りましたが、香水2では否定的な側へ移っています。香水2の「冷たい」との結びつきも弱まりました。さらに、ブランドが重視する清潔さや水のような印象との結びつきも、両方の香水で弱くなっています。
つまり、青、冷たさ、軽さ、フレッシュさは、音楽によって一斉に同じ方向へ動くものではありません。論文でまとめて「爽やかさに関係する特徴」と扱われていても、個々の言葉が捉える印象には違いがあります。香水1で強まった冷たさが香水2では弱まったことからも、香水そのものの特徴と音の組み合わせが関わることが分かります。
もう一方の曲C1でも、香水によって変化が分かれました。「軽い」との結びつきは、香水1では弱まり、香水2では強まりました。曲だけを聴いたときの印象を、そのまま香水に足し算できるわけではないのです。
香りを伝えるための音楽を、どう考えるか
著者たちが提案しているのは、伝えたい香りの印象を具体的な言葉に分け、その印象に合う音を探し、実際の製品との組み合わせまで確かめる方法です。音楽を作る人の感覚に加えて、消費者の反応を確かめながら、ブランドの世界観を音にしていく考え方といえます。
著者たちは、音を言葉で評価した結果と、反応時間からみる結びつきが、いつも一致するわけではない点にも注目しています。音だけを扱った最初の2つの実験では、冷たさや軽さは近い傾向を示しましたが、湿り気には違いがありました。音源や参加者も異なる実験同士の比較ですが、どの印象を、どう測った結果なのかを考える大切さがうかがえます。
論文では、店舗で香水を試す場面や、直接香りを嗅げないオンラインで商品を紹介する場面への活用も論じています。ただし、今回の実験で、購買意欲や売上の向上まで確かめたわけではありません。得られたのは、特定の消費者層、2種類の香水、2つの曲の組み合わせで、香水と言葉との結びつきが変化したという結果です。
研究は化粧品企業Grupo Boticárioの資金援助を受け、共著者のうち3人は同社の従業員です。ブランドの課題から生まれた共同研究という背景があります。また、実験データは非公開で、作曲したC1とC2も著作権上の理由から公開されていません。
まとめ
音楽を添えることで、香水から受け取る印象の一部が変わる可能性があります。この研究が興味深いのは、完成品の香水を使い、ブランドが伝えたい青や冷たさ、軽さを、一つずつ確かめたところです。
その一方で、青い印象が強まることと、フレッシュさが強まることは一致しませんでした。同じ曲でも、組み合わせる香水によって変化の方向が異なります。だからこそ、香りを音で伝えるには、「爽やかな曲」を一つ決めるだけでなく、その香水のどの印象を伝えたいのかまで考える必要があるのでしょう。著者たちの提案は、その組み合わせを感覚と実験の両方から探るための一歩です。
参考文献
Rodríguez, B., Cantu, M. A. F., Reyes, L. H., Pereira, V. J. D. A. R., Santos, L. C. Z., & Reinoso-Carvalho, F. (2024). Sound of freshness: Crafting multisensory experience in perfumery. Food Quality and Preference, 119, 105228.
原著論文(DOI) / 著者公開の本文(ResearchGate)


