不快なにおいを混ぜても快い香り。脳はどう受け取る?

不快なにおいを混ぜても快い香り。脳はどう受け取る? 香りの科学

単独では不快なにおいでも、ほかの香りに混ざると、全体としては快く感じられることがあります。2007年の研究は、ジャスミン風の香りにインドールを加えた混合物を使い、こうした「快さと不快さの混ざり方」を脳がどう扱うか調べました。

結果は、脳のどこでも一つの総合点にまとめている、という単純なものではありませんでした。快さと関係する領域では混合物がジャスミン風の香りに近い反応を示し、不快さと関係する領域では、その香りとインドールの中間的な反応が見られました。

天然の花ではなく、成分を決めたジャスミンモデル

実験に使ったのは、リナロール、酢酸ベンジル、ヘディオン、ジャスモンなど8成分で作ったジャスミン風の香りです。まずインドールを含まないモデルを作り、そこへインドールを加えることで、同じ花香の中に不快な成分が入ると何が変わるかを調べられるようにしました。

比較したのは、このモデル香、インドール単独、両者の混合物の三つに、無臭の空気を加えた4条件です。混合物では、モデル香を構成する8成分の濃度が元の条件と変わらないよう調整しました。天然のジャスミンにもインドールは含まれますが、今回測ったのは、組成を管理した実験用の香りです。

インドールは原処方で6%、一部の参加者では4%の設定とし、各刺激をさらにジプロピレングリコールで1対5に希釈して使いました。これらは液体試料の調製条件で、鼻に届く空気中の濃度ではありません。

「単独では不快、混ぜると快い」と感じる14人で調べる

参加者は健康な成人14人、男女各7人、平均26歳でした。事前に、インドール単独を不快と感じ、ジャスミンモデルとの混合物を快いと感じる人を選んでいます。インドールの受け取り方には個人差があるため、この条件に合う人で、脳の反応を比べた研究です。

参加者はfMRI装置の中で、鼻先に送られる刺激を4秒間嗅ぎ、その後、快さと強さをそれぞれ評定しました。刺激の名前や種類数は教えられず、4条件がランダムな順序で各9回提示されました。試行の間には短いリモネンの提示と清浄空気を挟んでいます。

解析では、各試行の本人の評定と、血流に関連するfMRIのBOLD信号との関係を調べました。先行研究から候補としていた眼窩前頭皮質、前帯状皮質、梨状皮質、島皮質などで、三つのにおいに対する反応を比較しています。

混合物は快いまま。でも、全員の好みが上がったわけではない

本人の評定では、ジャスミンモデルと混合物は、どちらもインドール単独より快く感じられました。一方、モデル香と混合物の平均的な快さには有意差がありませんでした。14人のうち2人は混合物をより快く評価しましたが、群全体で「インドールを加えると好きになる」という結果ではありません。

三つの刺激の強度評定にも、明確な刺激間の差はありませんでした。この条件では、強さが大きく違う刺激を比べたというより、快不快の違いに着目しやすい比較になっています。ただし、有意差がないことは、すべての人に全く同じ強さだったと保証するものではありません。

快さに関連する領域では、花香に近い反応

内側の眼窩前頭皮質では、快さの評定が高いほどBOLD信号も高くなる関係が見られました。この領域で混合物はインドール単独より大きな反応を起こし、ジャスミンモデルよりも高い反応を示しました。

眼窩前頭皮質の別の、前方・外側にある領域でも快さとの関係がありましたが、そこでは混合物とモデル香の反応に有意差はなく、どちらもインドール単独と異なりました。快さに関連する領域から見ると、混合物は、不快なインドールよりも快い花香に近い扱いだったのです。

著者らは、内側の領域で混合物の反応が高かったことについて、香りの厚みなど、単純な快さの評定では拾いきれない特徴に関わる可能性を考察しています。本人の言葉より脳の方が「本当の好み」を知っていると確定した結果ではなく、評定と脳信号の関係をさらに調べる手掛かりです。

不快さに関連する領域では、中間的な反応

一方、眼窩前頭皮質の後方・中央寄りの領域や、背側前帯状皮質、島皮質の一部では、快さの評定が低いほど反応が大きいという逆の関係がありました。これらの領域では、混合物の反応はインドール単独とジャスミンモデルの中間に位置しました。

ただし、個別の比較には違いがあります。眼窩前頭皮質の後方・中央寄りの領域では、混合物はモデル香より大きな反応でした。背側前帯状皮質と島皮質では、インドール単独が混合物やモデル香より大きく、混合物とモデル香の差は有意ではありませんでした。

研究者はさらに、混合物の信号がモデル香とインドールのどちらにどれくらい近いかを領域間で比較し、快さに関係する領域と不快さに関係する領域で、その位置関係が異なることを確認しました。ここが論文の中心です。混合物全体を快いと答えていても、脳の各領域が同じ平均点を表しているとは限らないのです。

「強さ」に関わる反応も、別に見られた

においの情報を受け取る梨状皮質の一部では、試行ごとの強度評定とBOLD信号に正の関係がありましたが、快さとの関係は見られませんでした。三つの刺激による平均的な反応の大きさにも有意差はありませんでした。

島皮質の別の部分では、強度評定と逆方向の関係が見られ、こちらも三刺激の平均反応に有意差はありませんでした。著者らは、快さ、不快さ、強さに結び付く反応を分けて整理し、混合臭の評価が脳の場所によって異なることを示しています。

まとめ

ジャスミン風の混合物は、単独では不快と感じるインドールを含んでも、選ばれた参加者には快く感じられました。快さに関連する脳領域では混合物が花香に近い反応を示し、不快さに関連する領域では中間的な反応、強度に関連する領域では三刺激で近い大きさの反応が見られました。

著者らは、快い面と不快な面が脳内で並行して表現され得ると解釈し、こうした情報が選択に使われる可能性を論じています。実際の選択行動は測定していませんが、香りの「好き・嫌い」という一つの答えの背後にも、複数の側面を扱う処理があることを考えさせる研究です。

14人という小規模な実験で、参加者はあらかじめインドールと混合物への反応で選ばれています。研究はGottlieb-Daimler and Karl Benz Foundationの支援を受け、研究当時、著者2人がFirmenichに所属していました。独立した利益相反声明は本文に見当たりません。

参考文献

Grabenhorst, F., Rolls, E. T., Margot, C., da Silva, M. A. A. P., & Velazco, M. I.(2007)How Pleasant and Unpleasant Stimuli Combine in Different Brain Regions: Odor Mixtures. The Journal of Neuroscience, 27(49), 13532–13540. 原著論文