甘く熟した南国の果実なのに、タマネギを思わせるにおいもある。東南アジアの果実チェンペダックには、そんな一見ちぐはぐな香りが共存しています。
その独特な香りを調べた研究は、果実らしさを作る多数の成分に加え、硫黄を含む3種類の物質が重要だと示しました。近縁のジャックフルーツと何が違うのかを、成分の検出だけでなく、香りを再現して一部を抜くところまで調べています。
よく似た二つの果実を分けるにおい
チェンペダックは、ジャックフルーツと同じクワ科の熱帯果樹です。大きな果実の中には種が並び、その周りを包む柔らかな果肉を食べます。研究者が注目したのは、この果肉の香りでした。
両者には、甘い果実様、麦芽様、チーズ様の香りが共通しています。チェンペダックでは、そこに硫黄やタマネギを思わせる特徴が加わります。以前の研究でも、果実らしいエステルや、炊いた米を思わせる成分などは見つかっていましたが、この特徴を十分に説明できていませんでした。
そこで研究者は、チェンペダックの香りに寄与する成分を改めて幅広く探し、その量を測り、ジャックフルーツのデータと比較しました。最終的には、硫黄を含む候補成分を抜いたときに、全体の香りがどう変わるかを検証する計画です。
抽出液だけでなく、果肉の上の空気も調べた
試料はタイで育ち、ドイツへ空輸された果実でした。必要に応じて室温で1〜2日置き、柔らかさと特徴的な香りで完熟を確かめています。
果肉から揮発成分を抽出し、ガスクロマトグラフィーで分けながら、人の鼻でにおいを確認しました。さらに抽出液を薄め、各成分がどこまで嗅ぎ取れるかを調べます。この方法では49のにおいのある成分が見つかりました。
ただし、揮発しやすい成分は、抽出液を濃縮する途中で失われることがあります。そこで、果肉を入れた容器の上部の空気も直接分析しました。この追加の調査で6成分が見つかり、合計55成分のうち47成分を同定しました。
タマネギ・硫黄様の香りを持つ候補は、2-(メチルスルファニル)プロパン、同ブタン、同ペンタンの3種類です。似た骨格を持つ物質の仲間で、このうちプロパン型は、容器の空気を調べた方法から見つかりました。測り方を一つに絞らなかったことが、香りの全体像につながっています。
一番多い成分が、一番香るとは限らない
研究者は同定した成分の濃度を測り、水中でそのにおいを検知できる濃度の目安で割りました。この比が「におい活性値(OAV)」です。1を超えると、その成分が香りに寄与する候補になります。
最も高い値だったのは、果実様の香りを持つ3-メチルブタン酸エチルで、OAVは約41万でした。これは、その濃度が水中の検知閾値の約41万倍という意味です。果実全体が41万倍強く香る、あるいはほかの果実より41万倍におうという意味ではありません。
麦芽様の香りには3-メチルブタナールなど、チーズ様の香りには3-メチルブタン酸が関わると考えられました。甘くフルーティーな印象の中に、麦芽、チーズ、炊いた米などと表現できる要素も組み合わさっています。
硫黄系の候補も、量だけでは見逃せません。2-(メチルスルファニル)ブタンの二つの鏡像異性体は、それぞれOAVが約480と470。プロパン型は約110でした。ペンタン型も閾値を上回りましたが、約2.5と4.3で、ほかの二つほど高い値ではありませんでした。
同じ硫黄成分の仲間でも、今回の果実の中での濃度と鼻の敏感さを合わせて考えると、役割の大きさは一様ではなさそうです。
41成分で再現し、硫黄系の3種類を抜く
次の段階では、OAVが1以上だった41成分を使い、チェンペダックの香りのモデルを作りました。糖と有機酸を含む水溶液を土台にし、香り成分を果肉中の濃度に対応するよう加えています。
訓練を受けた17人が、果肉とモデルの香りを嗅ぎ、果実様、タマネギ・硫黄様、麦芽様、チーズ様など9項目を0〜3の尺度で評価しました。完全なモデルの香りの輪郭は、実際のチェンペダック果肉とよく対応しました。
そこから3種類の2-(メチルスルファニル)アルカンをまとめて除くと、タマネギ・硫黄様の評価が低くなりました。この項目は、同時に調べたジャックフルーツ果肉に近づきました。
化学分析でも、これらの硫黄系成分は、ジャックフルーツではにおいに寄与する量に達していませんでした。果実での量の違いと、モデルから除いたときの変化が同じ方向を示したことから、研究者はこの成分群を、二つの果実の香りを分ける鍵と結論づけています。
共通の果実香に、個性を加える成分群
ジャックフルーツとの違いは、硫黄系成分だけではありません。果実様の3-メチルブタン酸エチルやヘキサン酸エチルなどはチェンペダックで高く、一方、酪酸エチルなどはジャックフルーツのほうが高い値でした。共通する香り成分の配合も違っています。
そのうえで、硫黄系の成分群を取り除くと、特徴的なタマネギ様の印象が弱くなる。全体に似た果実の中で、何が個性を支えているかを絞り込めた点が、この研究の中心です。
再現モデルには工夫と近似もあります。糖と酸の組成はチェンペダックの定量情報がなかったため、ジャックフルーツの値を使いました。入手できない一部の鏡像異性体は、OAVが対応するように量を調整した別の異性体などで代用しています。
官能評価は17人の1回のセッションで、論文本文はこの香りの差の検定結果を示していません。また、3種類をまとめて除いたので、それぞれ一つずつが必須かどうかまでは分かりません。それでも、抽出、空気の分析、定量、再現を組み合わせた結果は、独特なにおいを説明する具体的な根拠になっています。
まとめ
チェンペダックの香りは、強い果実様の成分を中心に、麦芽やチーズなどを思わせる成分が重なることでできていました。41成分の再現モデルから硫黄系の3種類を除くと、特徴的なタマネギ・硫黄様の印象が弱まり、近縁のジャックフルーツに近づきました。
一見、甘い果実に似合わないように思えるにおいも、その果実らしさを支えることがあります。香りの個性は、主役の甘さだけでなく、そこに加わる少数の成分からも生まれるのです。
参考文献
Grimm JE, Steinhaus M. (2020). Characterization of the Major Odorants in Cempedak—Differences to Jackfruit. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 68, 258–266(オンライン公開2019年). 原著論文/著者の学位論文に収録された本文
著者は競合する金銭的利益なしと申告しています。


