CRYSTAL INSENCE(クリスタルインセンス)|水晶と国産の椨粉でつくる、福岡のお香の仕事

CRYSTAL INSENCE(クリスタルインセンス)の記事用生成イメージ。実物を撮影した写真ではありません。

「香りの材料」と「お香を固める材料」。CRYSTAL INSENCE(クリスタルインセンス)のものづくりを理解するには、この二つを分けて考えると分かりやすい。杉や香木、ハーブが香りを担い、福岡県産の椨粉(たぶこ)がそれらを一本の形にまとめる。そこへ山口県産の天然水晶を細かな粉にして練り込むのが、このブランドの特徴である。

2024年に生まれた福岡発のお香ブランドは、植物そのものの香りを生かすことに加え、原料を挽く人、香を成形する人、使い終えた灰を受け止める器の作り手までをつなぎ始めている。

基本情報

ブランド名: CRYSTAL INSENCE(クリスタルインセンス)

誕生年: 2024年

拠点: 福岡県

運営会社: キャンプ女子株式会社(共同代表:橋本華恋、柴垣道宏)

香司: 柴垣道宏

公式サイト: https://crystalinsence.com/

創設者とブランドの成り立ち

香司・柴垣道宏が問い直した、お香の原材料

CRYSTAL INSENCEを運営するのは、キャンプ場や観光に関わる事業も手がけるキャンプ女子株式会社である。ブランドは2024年に誕生し、同社の共同代表でもある柴垣道宏が香司として製造を担っている。会社の設立は2019年であり、お香ブランドの誕生とは別の出来事だ。

ブランドは、香りの印象だけでなく原材料を伝えることも重視している。

水晶の産地で生まれた、香り以外の素材を加える発想

柴垣は山口県の水晶採取工場を訪れ、工業用途に扱われる水晶と出会った。ブランドの公式記録では、その体験が水晶粉をお香へ取り入れる着想につながったと説明されている。水晶は香りを作るための香木ではない。燃えた後にも粉が灰に残るという特徴を、お香の体験に組み込んだのである。

2026年にはブランドの製造工程を記録した映像の制作にも取り組み、11人の映像作家が福岡・八女の素材と手仕事をそれぞれの視点から撮影した。製造を知らせるだけでなく、椨粉の製粉を担う技術そのものを記録する企画であった。

ブランドのこだわり

水車で挽く椨粉と、天候に左右される成形・乾燥

椨粉とは、タブノキの粉を水で練ると粘りが出る性質を利用した、お香のつなぎ材である。柴垣が使う福岡県産の椨粉は、三代続く工場が水車の動力で挽いている。椨粉を作る工場と、お香を仕立てる柴垣の工房は別の場所にある。

原料を水で練り、成形して乾かす。柴垣が特に気を遣う乾燥には、天候を見ながら仕上げる手加減がある。

植物の名前を作品名にする、素材中心の香りづくり

パロサント、ホワイトセージ、八女杉。植物名を作品名にする品揃えからも、素材を入口として香りを選ぶ設計が分かる。

八女杉のお香には、福岡県産の杉と椨粉、山口県産の水晶粉が用いられる。香りの中心を杉が、形を保つ役割を椨粉が担う。水晶は香りのノートではなく、燃焼後まで含むブランドの発想を示す材料である。異なる働きをもつ素材を組み合わせたこの構成に、CRYSTAL INSENCEの製造思想がよく表れている。

柴垣は素材を選ぶ理由について、次のように記している。

作り手ごとの違いが出るのは、どの材料をどこから持ってくるか、そしてどこを急がないかです。

香司・柴垣道宏

六つの不使用と、原材料表示への考え方

焚くタイプのお香についてブランドが掲げる不使用項目は、化学香料、着色料、防腐剤、燃焼剤、凝固剤、アロマオイルの六つである。ただし、これは火を使わないフレグランスなど、別形態の製品にそのまま適用できる仕様ではない。

合成香料を使わないことは、煙による健康影響がないことを意味しない。天然素材のお香も燃焼時には煙が出るため、換気や火の扱いには配慮が必要である。また水晶の「浄化」はブランドが採用する象徴的な表現であり、空気清浄や医療的な効能を裏付けるものとしては扱わない。

有田焼の器が受け止める、燃えた後の灰

香司の関心はお香そのものにとどまらない。柴垣は有田で職人が器を作る姿を見て、自分のお香を焚くための器を考えるようになった。約十か月の制作を経て、灰を受け止める皿を備えた有田焼との協働作品を紹介している。

水晶粉を配合したお香では、燃え終えた灰の中に水晶成分が残るとブランドは説明する。その灰を受ける器の形には、焚き終えた後のものまで大切に扱いたいという柴垣の意図が反映されている。

水車で挽いた粉、植物の香りを生かした一本、乾燥の手加減、灰を受ける器。CRYSTAL INSENCEは、目立つ香りの名前だけでなく、香りを成立させる工程と、使い終えた後の時間にも関心を向けるブランドである。

参考文献