LES INDEMODABLES(レ・ザンデモダブル) ― アルプスの麓から生まれた、時代に流されない香りの哲学

レ・ザンデモダブルの世界観と香水「Vanille Havane」を表現したブランドイメージ

「香りを選ぶことは、理想のワードローブを組み立てることに似ている。最高の素材で作られたクラシックから始め、時代やトレンドに左右されないアイテムを揃えていく。香水好きが求めるものも、まさにそれだ。」

— Valérie Pulvérail(ヴァレリー・プルヴェライユ)、レ・ザンデモダブル創設者

基本情報

設立: 2016年

創設者: Valérie Pulvérail(ヴァレリー・プルヴェライユ)& Rémi Pulvérail(レミ・プルヴェライユ)

公式サイト: https://www.lesindemodables-parfums.com/

拠点: アヌシー、フランス

創設者・ブランドの成り立ち

二人の軌跡――香り業界の表と裏で培った20年

レ・ザンデモダブルは、香りの世界で異なる道を歩んできた夫婦の、それぞれの経験が交差した場所から生まれた。

ヴァレリー・プルヴェライユは、販売の最前線からキャリアをスタートさせた。その後、美容専門学校での教育、セレクト香水店のマーケティングと運営管理へと活躍の場を広げ、香水業界での経験は20年以上に及ぶ。彼女は常に、業界の「裏側」と「表舞台」の両方を知る人物として、顧客と深く関わり続けてきた。

夫のレミ・プルヴェライユは、グラースに本拠を置く老舗原料メーカー「シャラボ(Charabot)」での勤務を経て、世界最大の香料・香粧品原料会社「ジボダン(Givaudan)」へと移り、そこで原料調達(ソーシング)の担当として12年以上のキャリアを積んだ。世界中の産地を訪れ、香料原料の生産者と直接向き合い続けたこの経験が、後の彼の独立と香りへのアプローチの根幹を形成する。

転機――アヌシーに開いた「美の食堂」

2012年1月、独立を志したヴァレリーは、フランス・アルプス地方の都市アヌシーに「ル・ビストロ・ド・ラ・ボーテ(Le Bistro de la Beauté:美の食堂)」を開業した。高級香水、スキンケア、メイクアップという三つの軸を持つ、エレガントで親しみやすいセレクトショップである。このスペースの根本的な指針は「専門知識・カウンセリング・教育」であった。

ビストロを運営する中で、ヴァレリーはあることに気づいていく。顧客たちは香りに関する知識と意識が高まるにつれ、一様に「長持ちして、稀少で、上質な香り」を求めるようになるという事実だ。

「顧客から何度もリクエストされた末に、レ・ザンデモダブルは生まれた。」

— GreekGoddess.London(グリーク・ゴッデス・ロンドン)による2017年のブランド紹介より

顧客の声に応えるかたちで、自らの香水コレクションを作るという「信念の跳躍(leap of faith)」を彼女は決意した。

ブランドの誕生――夫婦の専門性が一つに

レミはジボダンでの経験を活かし、2014年に自身の調香ラボ「L’Atelier Français des Matières(アトリエ・フランセ・デ・マティエール:フランス素材工房)」を設立した。製造・調合・ボトリングまで一貫して手がけるこのラボこそが、レ・ザンデモダブルの心臓部となる。

2016年、ヴァレリーの流通・販売ノウハウとレミの原料知識・製造技術が合流するかたちで、レ・ザンデモダブルが正式に誕生した。「時代を超えて廃れないもの(Timeless)」を意味するブランド名は、そのまま二人が目指す香りの哲学を体現している。

「そのモデルは、過去の香水製造の品質への回帰だ。」

— Luckyscent(ラッキーセント/公式小売パートナー)によるブランド概要

ブランドのこだわり

「卓越性憲章(Charte d’Excellence/シャルト・デクセランス)」という約束

レ・ザンデモダブルには、ブランドの品質哲学を文書化した「卓越性憲章(Charte d’Excellence/シャルト・デクセランス)」が存在する。これは単なるスローガンではなく、製品に携わるすべての関係者を拘束する実行的なコミットメントとして機能している。

その骨子は三つある。第一に「原料品質の保証」――パフューマーに対して、最高品質の天然エキストラクトを有意義な配合率で使用するよう、定量的な制約を課す。第二に「製造の卓越性」――香水の調合から始まり、ボトルの封まで、すべての製造プロセスをアトリエ・フランセ・デ・マティエールが一貫して担当する。これは「オート・パルフュメリー(ハイエンド香水)」の世界において稀な体制だとブランド自身が語っている。

第三に「パルファム・ミレジメ(Parfum Millésimé/パルファン・ミレジメ:ヴィンテージ香水)」という概念がある。天然原料を使用するため、原料の収穫年によって香りが微妙に変化することがある。これをブランドは欠点とは捉えず、「今日の香水産業の標準化された景色における小さな革命」と表現する。ワインのグラン・クリュ(特定の畑の最高品質ワイン)になぞらえた考え方は、このブランドの原料哲学の核心を示している。

透明性――ボトルに書かれた配合比率

各ボトルには、使用された天然素材の配合比率(%)が明記されている。たとえばシプレ・アジュラルにはシシリー産タロッコ・オレンジオイル10%、インドネシア産パチュリ・グランクリュ5%といった具合に。これは業界では極めて異例のことで、「透明性と真正性」へのブランドの強いこだわりを示す。

素材調達と独自抽出技術

レミは、生産量が少なすぎて大手香料会社には供給できない小規模農家を世界中に訪ね歩き、独占契約を結ぶ。量より質を優先する農家との関係は、ブランドが「グラン・クリュ」と呼ぶ最高品質素材の安定確保を可能にする。

さらに、ラボ独自の超音波抽出技術(ultrasound extraction)を開発・活用し、従来の方法では引き出せなかった香りのプロファイルを持つエキストラクトを生み出している。この技術は、後述のアンブル・スプレムやパチュリ・ノワゼット、ヴァニル・アヴァン「クール・ドゥ・ウード」でも重要な役割を果たす。

製品はすべて、ラボ内での調合・熟成(マチュレーション)・マセレーション(浸漬)を経てボトリングされる。天然素材を高配合する作品では、この工程に各1〜3週間を要することもある。ブランドはこれを「オート・クチュールのレース仕上げに相当する最終調整」と表現している。

ボトルとパッケージ

ボトルおよびパッケージは、アヌシーを拠点とするローカルパートナー「Alpes Packaging(アルプ・パッケージング)」との協力のもとで製作されている。アルプス地域への根ざしたこだわりは、素材調達だけでなく、パッケージ製造にも一貫している。

限定版「ヴァニル・アヴァン “クール・ドゥ・ウード”」のパッケージは特に力が入っており、花が開くように展開するケース、エンボス加工で刻まれたブランドエンブレム、特別なホワイトゴールドインクでの印字、さらにレーザー彫刻による名入れサービスまで提供された。

流通とコミュニケーション

流通方針は「超セレクティブ」を貫き、個人経営の実店舗を優先する。並行輸入や割引転売(グレーマーケット)に対しては法的措置を辞さず、各ボトルに不可視コードを入れて転売元の特定まで行う徹底ぶりだ。また、スポンサー記事の依頼を断り、独立した非党派のプレスの存在を重視すると公式サイトに明記している。日本では、京都の「ル・シヤージュ(LE SILLAGE)」などで取り扱いがある。

香水ラインナップ

二人のパフューマー

コレクションを担う調香師は主に二名である。フロランス・フイエ・デュボワ(Florence Fouillet Dubois)がブランド初期の作品を手がけ、その後アントワーヌ・リー(Antoine Lie)が参画、現在の主要パフューマーとなっている。

アントワーヌ・リーは、ヴェルサーチのクリスタル ノワール(Versace Crystal Noir)、アルマーニ コード(Armani Code)、コム デ ギャルソンの888(Comme des Garçons 888/エイト・エイト・エイト)など数多くのメインストリーム名作を生み出した後、独立を選んだ調香師である。アトリエ・フランセ・デ・マティエールのラボを共有するなど、ブランドとの関係は非常に密接だ。

オリジナル・コレクションから11作品

ここで紹介するコレクションは、大きな嗅覚ファミリー(シプレ、フジェール、レザー、オリエンタルなど)を基軸に、それぞれの本質を素材の力で再解釈した11作品で構成される。価格の目安は220ユーロ(50ml)。

  • シプレ・アジュラル(Chypre Azural):2016年、フロランス・フイエ・デュボワ作。シシリー産タロッコ・オレンジ10%を中心に、インドネシア産パチュリ、アンバー・インフュージョン、エジプト産センチフォリア・ローズで構成するシトラス・シプレ
  • フジェール・エメロード(Fougère Émeraude):インド産チュベローズ15%、フランス産ラヴェンダー・グランクリュ、モロッコ産ミモザ1%、ヴェネズエラ産トンカビーン3%によるアロマティック・フローラル・フジェール
  • キュイール・ドゥ・シーヌ(Cuir de Chine):中国産オスマンサス(金木犀)10%とエジプト産ジャスミン1%による、フルーティ・レザー
  • オリアンタル・ヴルー(Oriental Velours):ソマリア産ミルラ15%、ハイチ産ヴェティヴェル・グランクリュ10%、マダガスカル産グリーン・ヴァニラ2.5%のウッディ・オリエンタル
  • イリス・ペルル(Iris Perle):7年の栽培・加工期間を必要とするフランス産オリス(アイリスの根)のアブソリュートを中心に、ミモザ、ジャスミン、イランイランをあしらったフレッシュ・フローラル・パウダリー
  • ミュスク・デ・サーブル(Musc des Sables):温かみのあるムスクとスパイシーさを組み合わせた、クリーミーなウッディ・ムスク
  • ローズ・ドゥ・ジャマール(Rose de Jamal):アトラス杉の「ミルキー」な振動と組み合わされた、多面的なローズ・フローラル
  • ヴァニル・アヴァン(Vanille Havane):ブランドで最も話題を呼び、口コミの火付け役となった作品。ラム、タバコ、ダーク・チョコレート、フローラル・ヴァニラが層を成す複雑なオリエンタル
  • アンブル・スプレム(Ambre Suprême):2021年、アントワーヌ・リー作。後述
  • パチュリ・ノワゼット(Patchouli Noisette):2023年、アントワーヌ・リー作。後述
  • オランジェ・シロッコ(Oranger Sirocco):オレンジ・ブロッサムをベースにした、軽やかでラディアントなシトラス・フローラル

特筆すべき2作品

アンブル・スプレム(Ambre Suprême)は、アンバーグリス(抹香鯨の消化管由来の稀少素材で、「グレー・アンバー」とも呼ばれる)のエキストラクトを10%配合するという異例の作品だ。同素材は入手困難かつ高価なため、「アンバーグリス」を謳う市販の香水の99%は合成品を使用しているとブランドは説明する。アントワーヌ・リーはこの素材を「光沢、パティナ、感触(a sheen, a patina, a feeling)」をもたらすものと表現した。

パチュリ・ノワゼット(Patchouli Noisette)は、パチュリ・グランクリュ35%(インドネシア産とマダガスカル産の2種類を配合)に、ブランドが「香水の歴史上初めて使用された」と説明する素材であるピエモンテ産ヘーゼルナッツの超音波抽出エキストラクト(現行公式表示では8%)を組み合わせた作品である。このヘーゼルナッツ素材はレミ・プルヴェライユが100%グリーン抽出技術を用いてラボ内で開発したものであり、パチュリの暗く荒々しい側面と、プラリネのような滑らかさとの「間」を生み出している。

リミテッド・エディション

ヴァニル・アヴァン “クール・ドゥ・ウード”(Vanille Havane “Coeur de Oud”)(2024年)は、500本限定のシリアルナンバー入りで製作された。中東のコレクターが所蔵していたカンボジア産の非常に稀少なアガーウッドの心材を、ラボが独自の超音波抽出技術で処理し、アントワーヌ・リーがそのエキストラクトをヴァニル・アヴァンの原型に組み込んだ作品だ。

ちなみに…

“クール・ドゥ・ウード”誕生秘話:当初ヴァレリーはウードを使った香水ラッシュへの反発から、このプロジェクトへの参加を断固拒否した。レミとアントワーヌ・リーは彼女に内緒でひそかに開発を進め、完成した作品を前にして、ヴァレリーはついにその魅力の虜になったという。

パチュリ・ノワゼットのヘーゼルナッツ素材は、ブランドによると、香水業界で「初めて使われた素材」である。このブランドが素材開発まで自社で行うという事実を象徴するエピソードといえる。

アンブル・スプレムに含まれるイモーテル(ヘリクリサム)のエキストラクトは、ブランドの私有畑(フランス産)から調達した原料が使用されている。自社農地の保有まで視野に入れた原料戦略は、このブランドの素材へのこだわりを端的に示している。

「Maison de parfums et de supplément d’âme(メゾン・ドゥ・パルファン・エ・ドゥ・シュプレマン・ダーム/香りの家&魂の付加価値の家)」——これがレ・ザンデモダブルの公式スローガンだ。香水は単なる消費財ではなく、「魂の一部」であるとする姿勢は、このブランドを語る上で欠かせない精神である。

参考文献