心拍や汗の反応だけで、好きな香水を見抜ける?

心拍や汗の反応だけで、好きな香水を見抜ける? 香りの科学

好きな香水を嗅いだとき、心拍や皮膚の電気的な反応だけで、その好みを読み取れるのでしょうか。2015年の研究では、快さが大きく異なる多様なにおいなら生理反応にも違いが出ましたが、香水だけを比べると、本人の好みの差があっても、心拍と皮膚電気反応では明確な差が出ませんでした。

一方、顔の筋肉には香水でも小さな違いが残りました。研究の主題は「好みを見抜く機械」の開発ではなく、どんな香りの範囲を比べると、どの感情指標が違いを捉えやすいかを確かめることでした。

多様なにおいと、香水だけの比較

研究者は、別々に集めた二群のデータを比較しました。一群は食べ物、花、動物様など、幅広い特徴のにおいを嗅ぎます。もう一群は、Chanel N°5、CK One、J’adoreなど、当時市販されていた9種類の香水を嗅ぎました。多様なにおいの群は、先行実験で収集したうち、まだ報告していなかった提示段階のデータを用いています。

参加者はいずれもジュネーブ大学の学生で、本文の募集説明では、多様なにおいの群が18人、香水の群が21人です。ただし原著は、後の筋電図の除外人数や解析人数とこの記載が整合していません。また、多様な刺激は本文で32種類とする一方、表には48項目が並びます。正確な人数・刺激数の対応には報告上の不確かさがあるため、ここでは推測で補わず、二群を比較した設計と報告された結果を中心に紹介します。

刺激はペン型の容器に入れ、鼻の約1cm下で2秒間提示しました。順序はランダムで、吸い方をそろえるために画面の指示に合わせて呼吸してもらい、快さ、強さ、親しみを評定しました。同時に心電図、指の皮膚電気反応、呼吸、顔の筋電図を測っています。

「好きな香り」は、人ごとに決めた

好みには個人差があるため、全員に共通の「快い香り」「不快な香り」を決めて比べたわけではありません。各人の評定から、最も快い二つと、最も快くない二つを選び、そのときの反応を比較しました。

どちらの群でも、本人の快さの評定は上位と下位で明確に分かれました。ただし、快さの差の幅は多様なにおいの群の方が大きく、特に下位のにおいが香水の下位より不快でした。快い側は親しみも高く、不快な側は強く感じられる傾向がありました。

この比較は、各人が何を好きとしたかを基準にしたものです。特定の香水が全員に好まれたとか、9製品の順位を生理反応から当てた、という結果ではありません。

心拍と皮膚電気反応は、幅広いにおいで差が出た

多様なにおいの群では、不快な側の刺激は、快い側より皮膚電気反応が大きくなりました。皮膚電気反応は、汗腺の活動に伴う電気の通りやすさの変化を測るものです。

さらに、中くらいの快さの刺激も含めて見ると、とても快いものと、とても不快なものの両端で反応が大きく、中間で小さいU字型の関係がありました。つまり、皮膚電気反応の大きさは「好き」の点数と一直線には対応しません。著者らは、快不快の両方で起こる覚醒や刺激性を捉える可能性を考察しています。

心拍については、吸気後5〜8秒の減速する部分を調べました。多様なにおいでは、快い側で心拍の減速が大きく、不快な側では小さくなりました。

対して、香水の群では、心拍と皮膚電気反応のどちらにも、快さによる有意な違いや明確な相関は見られませんでした。本人が香水の好みを区別していても、この二つの指標ではその差を捉えにくかったのです。

顔の筋肉には、香水でも小さな違いが残った

眉をひそめるときに関わる皺眉筋は、多様なにおいの群で不快な刺激ほど活動が高くなりました。香水の群でも、不快な側で活動が高いという効果がありましたが、反応の大きさは多様なにおいの群より小さくなっています。

口角を引き上げる動きに関わる大頬骨筋では、二群を合わせた解析で、快い刺激の方が活動が高いという結果でした。時間に伴う変化は、多様なにおいの方で大きく出ました。したがって「香水では体の反応に違いが全くない」とまとめるのは正確ではありません。心拍・皮膚電気反応と、顔の筋活動とで結果が異なりました。

呼吸の振幅には、快い側と不快な側の明確な差はありませんでした。研究者は、単に吸い方が違ったことだけでは、生理反応の違いを説明しにくいと考えています。ただし群全体の胸部の呼吸振幅は異なっており、すべての生理条件が同じだったわけではありません。

好みの言葉と、生理反応は別の側面を捉える

著者らは、感情には、本人が感じて言葉にする面、体が反応する面、表情に現れる面などがあると整理しました。本人が感じる細かな好みの差が、必ず心拍や発汗の差にもなるとは限らない、という解釈です。

とても不快なにおいと快い香りでは、身を引く、注意を向けるといった行動の準備も大きく違い得ます。一方、香水同士の微妙な好みは、同じような体の反応のまま言葉で区別されるかもしれません。これは著者の理論的な説明で、今回、接近・回避行動や購買を測定したわけではありません。

また、二群は同じ人による比較ではなく、年齢や男女構成、使った刺激の幅、生理測定装置にも違いがありました。そのため「香水という製品だから差が消えた」のか、「快さの範囲が狭いからなのか」を、この設計だけで完全に切り分けることはできません。原著の人数表記の不整合も含め、効果の精密な推定には再検証が望まれます。

まとめ

快さが大きく異なる多様なにおいでは、不快な刺激の皮膚電気反応が大きく、快い刺激では心拍の減速が大きくなりました。一方、香水同士では、本人の好みの差があっても、この二指標の明確な差は見られず、顔の筋活動には比較的小さな違いが残りました。

著者らの結論は、香りが引き起こす感情を一つの測定値だけで代表させず、本人の評定と複数の体の指標を合わせて考える必要がある、というものです。微妙な香水の好みを知るとき、本人の言葉は重要な情報であり続けます。

研究はスイス国立科学財団による感情科学研究拠点とFirmenichの助成を受けています。研究当時、著者2人がFirmenichに所属し、同社の研究部門への謝辞があります。論文では利益相反に当たる商業的・金銭的関係はないと申告されています。

参考文献

Pichon, A. M., Coppin, G., Cayeux, I., Porcherot, C., Sander, D., & Delplanque, S.(2015)Sensitivity of Physiological Emotional Measures to Odors Depends on the Product and the Pleasantness Ranges Used. Frontiers in Psychology, 6, 1821. 原著論文