湿った雑巾のにおいを、3種類の菌で再現できる?

湿った雑巾のにおいを、3種類の菌で再現できる? 香りの科学

湿った雑巾のようなにおいを、実験室で安定して作る。少し意外ですが、洗濯物の悪臭を調べ、対策を比較するには重要な技術です。2021年の研究では、綿布に3種類の細菌と牛脂を加えたモデルで、カビっぽく刺激的な布の悪臭を再現しました。

においを作る条件を整えるだけでなく、どんな成分が生じるのか、洗浄によってその後のにおいの発生を抑えられるのかまで調べた研究です。

なぜ「におう布」を作る必要があるのか

家庭の洗濯物には、皮膚や洗濯機などに由来する多様な菌が付き、繊維、汚れ、水分、乾燥の仕方も毎回違います。そのため、同じように洗っても、いつも同じにおいが生じるとは限りません。

研究者が目指したのは、湿って汚れた布を思わせるにおいを、条件をそろえて発生させる試験系でした。これができれば、においの成分や菌の組み合わせを調べたり、洗浄方法の効果を比較したりしやすくなります。

6種類の菌から、強く持続する組み合わせを探す

研究では、皮膚、衣類、洗濯機との関わりが知られる6種類の細菌について、菌株保存機関の株を使いました。各菌を単独で、また3種類ずつの複数の組み合わせで試しています。

使ったのは2cm四方の綿布です。皮脂汚れの代わりとなる栄養源として牛脂を含む混合液を加え、27℃、相対湿度84%で培養しました。予備評価では5人が3日目と7日目のにおいを調べています。

特に適していたのが、Micrococcus luteus、Staphylococcus hominis、Corynebacterium jeikeiumの組み合わせでした。3日目から強い悪臭があり、7日目にも続きました。14日間の日ごとの観察では、7日目に最も強くなり、その後はさらに強まることはありませんでした。

単独でもにおいを生じる菌はありましたが、混ぜると強くなる組み合わせも、ほとんどにおわない組み合わせもありました。菌の種類が同じ数だけあればよいのではなく、どの菌を一緒に培養するかが重要だったのです。

人が嗅いでも、カビっぽく刺激的な布のにおい

次に、大学職員から選ばれた14人が、訓練を受けて4種類の菌の組み合わせによる試料を評価しました。5回の訓練後、それぞれが使う表現と強度を記録し、各試料を3回ずつ評価しています。

上の3菌を混ぜた試料は、ほかの組み合わせと明確に異なり、カビっぽさや鼻にくる刺激的な印象が特徴でした。評価者どうしでも、この二つの特徴は比較的よく一致していました。一方、チーズ様という表現の使い方は、人による違いが大きくなりました。

この工程は、菌が増えたという数字だけでなく、人が実際に感じる布の悪臭をモデルが作れているかを確かめるためのものです。

硫黄を含む成分と、まだ名前のわからないにおい

布から出る揮発成分は、ガスクロマトグラフィーで分離し、質量分析と、出口のにおいを人が嗅ぐGC-Oで調べました。この分析は、14人の布全体の評価とは別に行われています。

候補として見つかったのは、キャベツ様のジメチルジスルフィド(DMDS)、カビ・キャベツ様のジメチルトリスルフィド(DMTS)、インドールなどです。動物や尿を思わせるp-クレゾールも検出されました。3菌のモデルでは、比較した試料の中でDMDSとDMTSのピーク面積割合が最も高くなっていました。ただし、この割合は分析信号の構成比で、布に含まれる絶対量や人が感じる強さの比率ではありません。

重要なのは、湿った布の悪臭を強く思わせる、未同定のにおいの部分もあったことです。インドールは強く感じられ、DMDSやDMTSは単独で分離すると弱く感じられましたが、悪臭全体は複数の成分からできています。これらの同定された成分だけで、湿った布のにおいをすべて説明できた段階ではありません。

洗浄後に、においが再び生まれるかを比べる

モデルのもう一つの用途として、実験用の洗浄装置で30℃、60分の洗浄を行いました。洗浄剤なしの条件と、塩化ベンザルコニウム(BAC)を0.4%または0.8%加えた条件を比べ、その後さらに7日間培養して、菌数とにおいを調べています。

7日後の培養可能な菌数は、洗わない対照で約1億CFU/cm²、洗浄剤なしで洗った布で約10万CFU/cm²、0.4%BACでは約400CFU/cm²でした。0.8%では、この方法で菌を検出しませんでした。洗浄剤なしでも悪臭は弱まり、BACを加えた二つの条件では、評価者が悪臭を検出しませんでした。

これは洗浄直後の殺菌力だけを測った数字ではなく、その後の培養を経た結果です。菌が少し残る条件でも、においが検出されない場合があること、そしてこのモデルを悪臭の発生防止策の比較に使えることが示されました。

試験したのは、牛脂と特定の菌を加えた綿布です。家庭の汚れや菌の集まり、ポリエステルなどほかの繊維、実際の乾燥条件へ広げて確かめることが次の課題になります。ここでのBAC濃度は研究条件であり、家庭での添加方法や製品の使用量を提案するための試験ではありません。

まとめ

3種類の菌を牛脂とともに綿布で培養すると、ほかの組み合わせよりカビっぽく刺激的な、湿った布の悪臭を安定して作れました。硫黄を含むDMDS・DMTSやインドールなどに加え、未同定の強いにおいも見つかり、悪臭を複数の菌と成分の組み合わせとして調べる足掛かりが得られました。

さらに、洗浄後7日間の培養で、洗浄だけでも菌数と悪臭が減り、BAC添加条件では悪臭が検出されなくなりました。研究の成果は、においの発生を再現し、対策を同じ条件で比較できる実験モデルを作ったことにあります。

論文は外部研究資金なし、競合する利益なしと申告しています。GC分析へのSymriseの協力が謝辞に記載され、著者の1人は論文発表時に同社所属でした。

参考文献

Zinn, M.-K., Singer, M., & Bockmühl, D. (2021). Smells Like Teen Spirit—A Model to Generate Laundry-Associated Malodour In Vitro. Microorganisms, 9(5), 974. https://doi.org/10.3390/microorganisms9050974