コーヒーにミルクを入れると、苦味や見た目だけでなく、飲んだときの香りも変わります。2015年の研究では、ミルク入りで「コーヒーらしい香り」が弱く感じられる一方、鼻から出る香気成分の多くには、有意な量の差がありませんでした。変化したのは、一部の成分です。
そこで研究者たちは、減った成分を手掛かりに二つの香気成分を補い、コーヒーらしい香りが強まることを確認しました。香り全体が一様に薄まるというより、重要な成分の届き方が変わる可能性を探った研究です。
カップの上の香りではなく、飲んだ後の呼気を測る
香りは鼻先から嗅ぐだけでなく、飲食物を口に入れた後、喉の奥から鼻へ抜ける経路でも感じます。この研究は、コーヒーを飲んだ後に鼻から吐き出す息を集め、どんな成分がどれほど出てくるかを調べました。
中煎りのコロンビア産アラビカ豆から抽出したコーヒー100gに、水100gを加えたブラックと、牛乳100gを加えたミルク入りを比較しました。コーヒー抽出液の量はそろえており、ミルク入りだけを余計に薄めた比較ではありません。牛乳は乳脂肪分3.5%以上の市販品で、飲料は室温にして用いました。
訓練された3人が30mLを口に含み、1〜2秒後に飲み込み、その後の10呼吸を捕集しました。1人につき各条件7回ずつ測り、ガスクロマトグラフィー・質量分析で成分を比較しています。この呼気の測定値は、鼻の嗅覚受容体に届く瞬間の濃度そのものではありませんが、飲食中に口から放出される香りを調べる手掛かりになります。
39成分の多くは有意差なし、3成分は3人とも低下
分析できた39成分の放出量には個人差がありました。多くの成分では、ブラックとミルク入りの差は有意ではありませんでした。一方、3人全員で有意に低下したのは、フルフリルメチルスルフィド(FMS)、ジフリルメタン、フルフリルピロールの3成分でした。
特にFMSのミルク入りでの量は、ブラックを1とすると、3人それぞれ0.52、0.48、0.51で、ほぼ半分でした。ほかにも、一部の参加者では低下した成分があり、ミルクの影響は成分と人によって異なりました。
低下した3成分は比較的油になじみやすい性質を持ち、乳脂肪が香りの放出に影響するという先行研究に合います。ただし、同じように油になじみやすいほかの成分には、有意な低下がないものもありました。脂肪へのなじみやすさだけで、結果のすべてを説明することはできません。
測れたFMSから、重要なFFTの動きを考える
研究者たちがさらに注目したのは、2-フルフリルチオール(FFT)という、コーヒーの香りに重要な成分です。先行研究では、FFTは口の中を通る間にFMSへ変わることが報告されています。したがって、鼻から出るFMSには、最初から飲料にあるFMSに加え、FFTから生じた分も含まれると考えられます。
今回、ミルク入りでFMSが減ったことは、FFTの放出も減っていた可能性を示す手掛かりになります。ただし、FFTの減少量を直接測った結果ではありません。
著者たちは、乳脂肪の影響に加え、FFTがカゼインなどの乳タンパク質と反応し、香りとして放出されにくくなる可能性も考察しました。この反応経路は本研究では直接確かめておらず、測定結果を説明する仮説です。
二つの成分を補うと、コーヒーらしさが強まった
次の段階では、香りを取り除いたコーヒーにFMSを加える試験などを行い、もともとのFMSの放出と、FFTに由来すると考えられる分を検討しました。この添加量調整の呼気分析は、訓練された1人で行っています。
その結果、ミルク入りコーヒーにFFTを80ppb、FMSを10ppb加えると、呼気に出るFMS量がブラックに近づく条件が得られました。次に、この調整したミルク入りと、未調整のミルク入り、ブラックを、訓練経験のある31人が飲んで評価しました。
色の影響を抑えるため暗い部屋の赤い照明下で提示し、未調整のミルク入りの「コーヒーらしい香りの強さ」を4として、7段階で比べました。ブラックは未調整のミルク入りより強く、成分を補ったミルク入りも未調整品より有意に強くなりました。ブラックと調整品の間には、有意差が検出されませんでした。
この結果は、一部の成分の届き方を補うことで、コーヒーらしい香りの知覚を変えられることを支持します。ただし、FFTとFMSを一緒に加えた比較なので、FFTだけの効果を切り分けたものではありません。また、好みやおいしさ全体ではなく、コーヒーらしい香りの強さを評価しています。
まとめ
ミルク入りコーヒーでは、鼻から出る39成分の多くに有意差がない一方、FMSなど3成分は3人全員でブラックより少なくなりました。さらにFFTとFMSを補ったミルク入りは、未調整品よりコーヒーらしい香りが強く感じられました。
飲み物の香りは、液体に含まれる成分の一覧だけで決まらず、口の中での変化や、鼻へ抜けるまでの放出にも左右されます。今回の結果は、ミルクによる香りの変化を、一部の重要な成分の動きから考える手掛かりです。温かいコーヒーや別の牛乳、より多くの人でどうなるかは、さらに確かめる必要があります。
著者3人と官能評価の31人は、研究当時、小川香料に所属していました。独立した研究資金・利益相反の申告欄は確認できませんでした。
参考文献
Itobe, T., Nishimura, O., & Kumazawa, K. (2015). Influence of Milk on Aroma Release and Aroma Perception during Consumption of Coffee Beverages. Food Science and Technology Research, 21(4), 607–614. doi:10.3136/fstr.21.607(原著全文)


