緊張すると手から「炒めたネギ」のような匂いが出る?

緊張すると手から「炒めたネギ」のような匂いが出る? 香りの科学

初対面の人に質問されて緊張すると、手から出る気体の匂いも変わるのでしょうか。2022年の研究では、面接中に集めた皮膚ガスから、専門家が「炒めたネギのよう」と表現する匂いを感じ取りました。分析では、その特徴に関わる硫黄化合物として、アリルメルカプタンとジメチルトリスルフィドが同定されています。

研究者は、緊張に伴う匂いの変化を探すだけでなく、見つかった成分を組み合わせたモデル臭を嗅ぐと、受け取る人の気分が変わるかも調べました。この二つの実験を分けて読むことが大切です。

面接中と、雑誌を読む日の皮膚ガスを比較

中心となる試験の参加者は、35〜44歳の健康な日本人女性40人でした。喫煙や香水、匂いの強い食品などの影響を避け、無香料の石けんで手を洗ってから、利き手と反対の手を袋で覆って気体を集めました。

最初の日は、知らない面接者から20分間質問を受けます。別の日には、椅子に座って雑誌を読みながらくつろぎました。順序は面接が先、読書が後で固定されており、同じ人の二つの状況を比べた試験です。

面接の前後を含む心電図と、唾液中のコルチゾールも測定しました。コルチゾールの日内変動に配慮し、自宅で休んでいるときの基準試料は、別の日の同じ時間帯に採取しています。

緊張を伴う生理反応と、ネギ様の匂い

面接中は、心拍の変動から求めたLF/HFという指標が前後より高くなり、面接後の唾液コルチゾールも自宅での基準時や読書後より高くなりました。これらは、面接が緊張を伴う条件になっていたことを支える結果です。LF/HFは心拍変動の指標で、交感神経を直接記録した値ではありません。

匂いの評価は、採取条件を知らされていない4人の専門家が行いました。面接中の試料には共通して、炒めたネギを思わせる特徴的な匂いが記録されました。その強さは、面接中のLF/HFの増加率と正に関連していました。

追加の小規模な観察では、日本人男性4人、中国人の男女3人、フランス人男性2人の計9人にも、緊張時の同様の匂いが報告されました。また、別の運動比較で自転車運動により心拍数を上げた際には、この特徴臭は検出されませんでした。単なる心拍数の上昇だけでは説明しにくいという手掛かりですが、幅広い人や日常場面への一般化には、さらに比較が必要です。

微量の硫黄化合物を、鼻と分析機器で追う

成分を探す際には、ガスクロマトグラフィーで気体中の物質を分離し、その出口で匂いを嗅ぐ方法を用いました。機器が示す成分の情報と、実際に匂いが感じられる場所を対応させるためです。

一つ目はジメチルトリスルフィド(DMTS)でした。標準物質と同じ位置に現れ、質量分析の特徴と匂いも一致しました。もう一つは、より強い硫黄・ネギ類様の匂いを持つアリルメルカプタン(AM)です。標準物質との分離位置、質量分析、匂いの照合から同定されました。

著者によれば、AMだけでは採取した気体の特徴を十分に再現できず、DMTSを加えることで、観察された炒めたネギ様の匂いに近づきました。二つの成分を見つけたことで、特徴を近づけたモデル臭を作り、その作用を別に調べる道が開けたのです。

モデル臭を嗅いだ後、緊張・混乱・疲労の評点が上昇

心理的な作用を調べる試験には、35〜44歳の日本人女性33人が参加しました。ここで嗅いだのは他人から採取した皮膚ガスそのものではなく、AMとDMTSを混ぜたモデル臭です。

まず各人が匂いを感じ始める濃度を調べ、その人の閾値に合わせた試料を鼻の下に置き、2分間嗅ぎました。前後に気分の質問紙POMS 2を使ったところ、緊張・不安、混乱、疲労・無気力の3尺度の評点が高くなりました。

この試験には、無臭や別の匂いを同じ手順で嗅ぐ対照条件がありません。したがって、モデル臭を嗅いだ前後の変化としては報告できますが、その変化が二成分に特有なのか、匂いの不快さや期待、質問紙を繰り返すことによる影響なのかは分離できません。著者も、先の回答が次の回答に影響する可能性を挙げています。

成分の発見と、気持ちが伝わる仕組みは別の段階

今回の成果は、緊張を伴う状況で採取した皮膚ガスの特徴臭を記録し、その候補成分を具体的な分子として捉えたことです。面接と読書の順序が固定されている点や、対象者の範囲が限られる点を含め、緊張との関係は条件を変えて確認する余地があります。

また、なぜ心理的な緊張に伴ってこれらの成分が放出されるのかという生成機序は、まだ明らかではありません。モデル臭の前後比較だけで、実際の人同士でストレスが匂いを通じて伝染するとまで結論付けることもできません。皮膚ガスと気分の両方を扱った研究だからこそ、発見と次の検証課題を分けて受け取れます。

まとめ

面接中に集めた手の皮膚ガスには、読書・安静時とは異なる炒めたネギ様の特徴臭が報告され、AMとDMTSが同定されました。その匂いの強さは、面接中の心拍変動指標の増加率とも関連していました。

二成分で作ったモデル臭を嗅ぐ別の試験では、緊張・混乱・疲労の評点が前より高くなりました。ただし対照条件がなく、人から人への感情伝達を確定する段階には至っていません。心理状態と皮膚から出る分子を結び付けて調べる、具体的な手掛かりを得た研究です。

論文では本研究に特定の研究資金を受けていないことと、利益相反なしを申告しています。同時に、著者の研究当時の所属として、資生堂、高砂香料工業、高田香料が記載されています。

参考文献

Katsuyama M, et al. (2022). How emotional changes affect skin odor and its impact on others. PLOS ONE, 17(6), e0270457. 原著論文・公開全文