たくさんの果物の中からレモンを探すとき、レモンの香りがしていたら、目でも見つけやすくなるのでしょうか。香りは物のある方向を教えなくても、何に目を向けるかの手がかりになるかもしれません。
2025年、Serena Castellottiらは、果物の画像を一瞬だけ見せる実験で、探す対象と一致する香りが成績を変えるかを調べました。目的は、目で探す作業に、課題と直接関係のないにおいの情報が入り込むか、そして、その影響が人によって違うかを明らかにすることでした。
香りを嗅ぎながら、一瞬だけ見えた果物を探す
参加したのは健康な成人22人で、女性20人、男性2人、平均年齢は28.7歳でした。鼻につけた管から、リンゴ、レモン、イチゴのいずれかの香り、または香りを加えない空気を送りました。実物の果物を目の前に置いたのではなく、調合された果物の香りを装置から届けています。
香りを5秒間送った後、まず探すべき果物の写真を画面中央に0.05秒だけ表示しました。続いて、目標の果物一つと、それ以外の果物七つを、円状に並べて0.1秒間見せます。写真が消えた後、参加者は目標があった位置をマウスでクリックしました。
画像は色の鮮やかさを半分に落とし、短い時間だけ表示しました。色が鮮やかで長く見える予備実験では、正答率が約9割に達していたためです。視覚だけでも簡単に解ける状態を避け、香りによる助けや妨げが現れる余地を作っています。
一人につき96回の探索を行い、香りと目標の組み合わせはランダムに変えました。何の香りが出るか、探す果物と一致するかは、試行の前には知らされませんでした。香りは目標の位置を示さず、嗅覚を使うように求める課題でもありません。
一致する香り、食い違う香り、香りなしを比べる
比べたのは四つの条件です。香りを加えない空気、目標と同じ果物の香り、目標とも画面内のほかの果物とも一致しない香り、そして目標ではない別の果物と一致する香りです。
たとえばイチゴを探すときにレモンの香りを出す場合でも、画面にレモンが全くない条件と、間違いの選択肢としてレモンがある条件を分けました。香りと同じ果物に目を奪われるなら、後者では特に成績が下がるかもしれない、と考えたためです。
正答率は、目標と香りが一致する条件のほうが、二つの不一致条件より高くなりました。また、不一致条件では、香りなしの条件より正答率が低くなりました。一方、一致する香りによって、香りなしより正答率が有意に上がったという結果ではありません。
正解した試行の回答時間では、一致する香りのときに、香りなしより短くなりました。不一致の二条件と香りなしとの時間差は、有意ではありませんでした。つまり、正確さと速さでは、差が確認された比較の組み合わせが異なります。
ここで測った時間は、画像が現れてからクリックするまでです。目で見つける処理だけでなく、判断と手の動きも含まれます。また、香りと同じ果物が間違いの選択肢にあると、その果物を特に多く選んだり、ほかの不一致条件より回答が遅くなったりするという予想は、支持されませんでした。
香りの助けが大きかったのは、誰だったのか
著者らがさらに注目したのは、参加者ごとの違いです。実験後に行った探索的な相関解析では、香りなしの条件で正答率が低い人ほど、一致する香りによる成績の改善が大きい傾向がありました。反対に、香りなしでよくできていた人ほど、不一致の香りによる成績の低下が大きい傾向がありました。
著者らは、目だけでは難しい人にとって、一致する香りが注意を向ける助けになった可能性を考えています。視覚だけで成績が高い人には改善の余地が小さく、食い違う香りが余分な情報として邪魔をしたのかもしれません。これらは、個人差を説明する解釈です。
同じ22人の基準成績と、その基準からの変化を比べた事後解析なので、別の参加者でも再現するかを確かめる必要があります。「探し物が苦手な人には香りが効く」という、日常全般に当てはまる人物分類ができたわけではありません。
においを言い当てるのが得意なら、有利とは限らない
視覚探索の後には、香りを嗅いで、それに対応する果物を八つの画像から選ぶ課題も行いました。平均正答率は73%でしたが、参加者の間には大きな違いがありました。
この課題で正答率が低い人ほど、視覚探索で一致する香りによる改善が大きいという相関が見られました。香りをうまく見分ける人が、必ずしも香りの助けを多く得るわけではなかったのです。著者らは、香りを詳しく処理することが、ときには視覚の課題と競合する可能性も論じています。
最後に、実験中に何の香りがしたと思うかを名前で答えてもらうと、22人中14人は三つとも正しく挙げました。この命名成績と視覚探索成績には有意な相関がなく、著者らは、香りを明確に名前で認識しなくても働く影響を考えています。ただし、試行ごとに香りへの気づきを測ったわけではなく、無意識の作用だと確定した結果ではありません。
香りが、目で探す対象への注意を支える可能性
今回の香りは、目標のある場所を直接教えていません。それでも、香りと目標が同じ果物を表すかによって成績が変わりました。著者らは、「どの種類の物を探すか」という意味の一致が、視覚的な注意を助ける可能性を重視しています。
ただし、短く見せた画像を選ぶ作業なので、見え方への影響と、迷ったときにどれを選ぶかという回答の偏りを、完全には分けられません。目の動きを測れば、探している最中の過程をさらに詳しく調べられます。参加者が22人で女性に偏っている点も、結果を広げる際の制約です。
実際の店で果物を探すときのように、時間をかけて見回し、手に取り、選ぶ場面は検証していません。著者らは日常の食べ物選びにも関わる可能性を示していますが、それを確かめるには、現実の環境に近い条件での研究が必要だとしています。
研究はDAAD、ドイツ研究振興協会、EUのNext Generation EU関連助成などの支援を受けました。著者らは利益相反なしと申告しています。
まとめ
探す果物と同じ香りがあると、不一致の香りより正答率が高く、香りなしより正解時の回答が速くなりました。一方、香りの助けや妨げの大きさは、参加者の視覚探索や香りの識別の成績によって異なる可能性が示されました。
この結果は、目で探すことが視覚だけの作業ではなく、同じ対象を指す香りも注意の向け方に関わりうることを示しています。香りを加えれば誰もが探しやすくなるという単純な話ではなく、何を探しているか、どのくらい見つけにくいか、香りをどう処理するか。その組み合わせが、感覚同士の助け合いを左右するのかもしれません。
参考文献
Castellotti, S., Soldo, M., Plank, T., Del Viva, M. M., & Greenlee, M. W.(2025). Visual search performance depends on the congruency of olfactory sensations. Scientific Reports, 15, 38116. DOI: 10.1038/s41598-025-25995-1. 原著全文。原著はCC BY 4.0で公開されています。


