CACHAREL|仕立て職人の出発点から、恋と自立を描く香水へ

CACHAREL。公式写真のElla Ella オードパルファム100mLを、服飾史のクレポンと小花柄を取り入れた創作背景に配置した日本語サムネイル。

若い世代と、自分たちを新しくしていくことを、私たちはいつも考えています。

— ジャン・ブスケ

花柄のブラウス、白いユリを中心とした香水、口紅や蝶をかたどるボトル。CACHAREL(キャシャレル)は、服と香りの両方で、若い女性が自分を表現するための世界をつくってきた。仕立て職人、デザイナー、写真家、香水の企画者や調香師が、それぞれの方法で形を与えてきたのである。

その歩みの中心にいるのが、南仏ニームで育ち、パリの小さな工房から婦人服を作り始めたジャン・ブスケだ。彼の仕事と協力者たちをたどると、キャシャレルのロマンティシズムが、色や形、香りを通してどう表されてきたかが見えてくる。

基本情報

  • 服飾事業の出発:1958年
  • 創設者:Jean Bousquet(ジャン・ブスケ)
  • 誕生の地:フランス・パリ。創設者は南仏ニーム出身
  • 商標の出願:1962年
  • 最初の香水:Anaïs Anaïs(アナイス アナイス)、1978年
  • 香水事業:ロレアル リュクスのブランドとして展開
  • 公式サイト:Cacharel / ロレアルの香水ブランド紹介

創設者とブランドの成り立ち

ニームのミシン店から、パリの婦人服工房へ

ブスケは1932年、ニームに生まれた。父はミシン店を営み、彼自身も仕立ての道へ進んだ。1948年に仕立ての職業資格CAPを取得し、地元で修業を重ねた後、パリでジャン・ジュルダンの裁断・型紙づくりを担当した。

1958年に独立して始めたのは、婦人用パンツを作る仕事だった。工房はパリの屋根裏の小部屋である。やがて選んだキャシャレルという名は、故郷に近いカマルグ地方の鳥、サルセル・デテと呼ばれるカモの名に由来する。

クレポンのブラウスと、1963年のELLE表紙

1962年に商標を出願した後、ブランドを広く知らしめたのがクレポンのブラウスだった。クレポンは、表面に細かな凹凸がある軽い生地で、下着にも使われていた。それを日常に着られるブラウスへ移す選択が、キャシャレルの服を印象づけた。

1963年、ピーター・ナップが撮影したそのブラウスが『ELLE』の表紙を飾る。ブリジット・バルドーらが身に着けたことも、ブランドの知名度を押し上げた。1968年にはリバティの花柄プリントが加わり、軽やかな服と小花柄がキャシャレルのイメージになっていく。

サリュ、ムーンらが形づくったブランドの世界

デザインを担ったコリーヌ・サリュは、ブスケの義姉妹で、美術学校で学んでいた。彼女が友人のサラ・ムーンを紹介したことが、写真家との協働の入口となる。そこに広告のロベール・デルピール、建築家ジェラール・グランヴァルも加わった。

この4人が、キャシャレルの世界に命を吹き込んだのです。

— ジャン・ブスケ

服を作るだけでなく、写真や広告、空間まで含めてブランドを形にする。その協働の一部は、後の香水にも受け継がれた。ムーンは、アナイス アナイスの香水広告にも携わることになる。

1978年、若い女性のために組み立てた香水の仕事

婦人服の事業開始から20年後、キャシャレル初の香水、アナイス アナイスが登場した。香水の事業はロレアルとの関係の中で育ち、アネット・ルイがチームづくりを担った。広告にはムーン、デザインにはアンネグレート・バイヤーが参加した。

目指したのは、従来の香水売り場に気後れするような若い女性にも手の届く香水だった。香りだけでなく、価格や届け方、容器と映像までを一緒に考えたのである。ルイは若い娘のための香水を構想する一方、娘が香水をつけ始めることに戸惑う母親の感覚にも目を向けていた。

香りはフィルメニッヒのレイモン・シャイヤンらが手がけ、ユリを中心とした花々を表現した。バイヤーによる白い不透明なボトルは、19世紀の陶器を思わせる造形である。ムーンの映像は女性の内面の感情へ焦点を当てた。花の香り、手元に置く容器、画面の中の人物が、若い女性のための一つの世界をつくっていた。

Loulouで深めた、バニラと肌の表現

1987年のルールー(Loulou)は、アナイス アナイスの後に続く女性用香水である。イメージには、女優ルイーズ・ブルックスの、無邪気さと誘惑する力をあわせ持つ姿が重ねられた。

調香師ジャン・ギシャールにとって、ルイとの最初の協働がこの作品だった。ユリが導くアナイス アナイスから、さらに官能的で肌を思わせる方向へ進むために、彼はバニラを出発点に選んだ。

何よりも、香水が肌にしっかりとどまり、より長く残るようにしたかったのです。

— ジャン・ギシャール

バニラの粉を思わせる柔らかさを深めながら、ティアレを含む白い花とグリーンの要素で新鮮さも残す。甘さを加えるだけでなく、肌との距離や残り方まで含めて、新しい人物像に合う香りを探っていた。

ブランドのこだわり

色と形で表すロマンティシズム

ブスケは、ロマンティシズムを色や形も含むものとして捉えていた。花を使うかどうかも、その時々に求められる表現に合わせて考えていた。

ロマンティシズムは、全体なのです。

— ジャン・ブスケ

服づくりでも、スタジオをまずチームとして捉え、若い作り手へブランドの方向を伝えることを重視した。中心にある考えを保ちながら、表現は作り直していく。その姿勢は、花々の香水から、バニラやスパイスを生かす香水へと広がった歩みを理解する手がかりにもなる。

Amor Amorの恋と、Yes I Amの自己表現

2003年に始まったアモール アモール(Amor Amor)では、恋が大切な題材となった。2024年に加わったオードパルファムも、初恋の強さを新しく表すものとして発表されている。こちらはシプレ調として構成された別の解釈であり、同じ名を使いながらテーマを展開する例である。

2018年のイエス アイ アム(Yes I Am)では、自分らしさを肯定する姿勢が前面に出た。オノリーヌ・ブランとクリストフ・レイノーが共同で手がけた香りは、カルダモンのスパイシーさと、クリームを思わせる感触の組み合わせを特徴とする。

このメゾンは、若さと自由という考えを呼び起こす術を、ずっと心得てきました。

— オノリーヌ・ブラン、クリストフ・レイノー

ボトルは赤、金、黒を配した大きな口紅の形をしている。香水の名前、香りの質感、化粧道具を思わせる造形を重ね、自己表現という題材を具体的な製品へ移した。

Ella Ellaの変身と、使い続ける蝶のボトル

2025年のエラ エラ(Ella Ella)が描くのは、自分を発見し、変わっていく過程である。ドミニク・ロピオンはジャスミンとオレンジブロッサムの白い花々に、マダガスカル産ブルボンバニラやココナッツのアコードを重ねた。花の明るさに、温かく包むような側面を加える構成である。

ボトルを担当したスザンヌ・ダルトンは、金色のリボンと蝶をあしらった。蝶は、さなぎから飛び立つ変化を表すモチーフでもある。容器はリフィルに対応し、香水を補充しながら使い続けられるようになった。

エラという名を繰り返す形も、アナイス アナイスやアモール アモールを受け継いでいる。名前で過去の作品とつながりながら、香りと容器には新しい選択を加えているのである。

参考文献

  1. Cacharel : une histoire nîmoise/Jean Bousquetへの取材 — La Gazette、2018年
  2. Notre histoire — Cacharel公式年譜
  3. Cacharel — L’Oréal公式ブランド紹介
  4. Jean Bousquet, fondateur de Cacharel : Il faut réinvestir le centre-ville — Culturellement Vôtre、2016年
  5. Parfums Cacharel de L’Oréal: Decoding and Revitalizing a Classic Brand (A)、pp.4–5 — INSEAD、2001年
  6. Cacharel – Anaïs Anaïs — Accademia del Profumo
  7. Collection Osmothèque、Cacharelの収蔵記録 — Osmothèque、2015年6月
  8. Loulou — Jeanne Doré、Auparfum
  9. Jean Guichard, parfumeur et directeur de l’école Givaudan — Bettina Aykroyd、Tatousenti、2015年
  10. Cacharel lança novo Amor Amor Eau de Parfum — L’Oréal Portugal、2024年
  11. Disrupting fragrance design: L’Oréal unveils Cacharel Yes I Am — The Moodie Davitt Report、2018年
  12. Cacharel lança nova fragrância recarregável Ella Ella — L’Oréal Portugal、2025年