倫理的につくられたものが欲しくても、見つからなかった。それがデザインを始めた理由です。
端正なスーツと、薄い布が描くやわらかな線。ステラ マッカートニーの服づくりには、異なる性格のものを一緒に置く感覚がある。香水の出発点となった2003年のSTELLAでも、親しんできたローズに、暗さを含むアンバーを重ねた。花の繊細さと、その奥に残る陰影をどう釣り合わせるか。服で育てた考えが、香りの構想にもつながっている。
もう一つの軸は、欲しいものを、どんな素材と方法でつくるかという問いである。子どもの頃からの菜食や動物への配慮、仕立ての工房で学んだ技術は、自分の名でブランドを始めるときの選択にも関わった。その歩みをたどると、香りだけでなく、容器や使い方、広告に登場する人まで、何を選んだのかが見えてくる。
基本情報
- 創業者:Stella McCartney(ステラ・マッカートニー)
- 出自:英国。ロンドンと英国の田園で育つ
- ファッションハウス設立:2001年、グッチ・グループとの提携で設立
- 香水の出発点:2003年のSTELLA。後にStella In Two、L.I.L.Y.、POPなどを発表
- 公式サイト:Stella McCartney
創業者とブランドの成り立ち
両親の服と、田園での暮らし
父は音楽家のポール・マッカートニー、母は写真家のリンダである。英国の田園で過ごす時間と、両親のツアーに同行する日々。その両方が、幼いステラの暮らしにあった。リンダの服を着て遊び、父の仕立てたスーツも身近に見る。服は、家族の姿と結びついたものだった。
ステラが影響を受けたのは、両親のオーダーメイドの服や、母が持っていた1930〜40年代のヴィンテージドレスである。写真家であり、菜食主義者で動物の権利を擁護したリンダは、今もステラの制作を支える存在である。
学校で育てた発想を、仕立ての技術で支える
15歳でクリスチャン・ラクロワのもとにインターンとして入り、後には英国版Vogueでも働いた。編集の仕事を経験してから、自分が進みたいのは服のデザインだと考え、セントラル・セント・マーチンズへ。学校で自由な発想を伸ばす一方、足りないと感じた技術を学ぶため、サヴィル・ロウの仕立屋エドワード・セクストンの工房にも通った。
セクストンは父ポールの服も仕立てていた。ポールから娘が美術学校にいると聞き、工房で仕事を覚えることを勧めた。
1995年に卒業し、1997年にはChloéのクリエイティブ・ディレクターに就任した。セクストンとの関係は、その後も続いた。彼はChloéと契約し、パリでの制作やイタリアの工場での指導にも関わった。ステラが思い描く仕立てを、製品として実現するための協働だった。
皮革を使わず、自分のブランドをつくる
独立のきっかけにも、素材をめぐる判断があった。グッチ・グループのトム・フォードと次の仕事を話し合った際、ステラは動物の皮を扱うことに異議を示した。フォードは彼女がグループの他ブランドとは異なる顧客に届くと考え、自身のブランドを持つ道を提案した。
彼女は自分のブランドを持つことができるし、持つべきだと分かっていました。
— トム・フォード
2001年、グッチ・グループとの提携でファッションハウスを設立。創業時からレザーや毛皮を使わない方針を採った。ステラは、既存の商品では満たされなかった自分の希望を、ものづくりへと変えた。バッグでも素材の選択と同時にデザインの水準を保つことを重視している。動物への配慮は、欲しいと思えるものを形にする仕事と並んでいる。
ブランドのこだわり
STELLA:ローズに、アンバーの陰影を重ねる
2003年、YSL Beautéから初の香水STELLAが登場した。幼い頃から好きだったローズと、ウッディなアンバーが中心である。ステラは発売時、花のデリケートな側に、より暗く官能的な側面を組み合わせたいと語っている。
純粋で、複雑すぎないもの。
対照的な要素を扱う服づくりと、この香水の考え方を結びつけたのはステラ自身である。香りが強く自分を覆ってしまう感覚は、彼女が苦手とするものだった。2021年にSTELLAを振り返ったときにも、彼女が挙げたのはローズとアンバーの明快な組み合わせだった。何を重ねるかと同時に、どこまで簡潔にできるかを考えていたことが分かる。
最初のSTELLAはオードパルファム。本人がデザインした多面体のボトルは、アメジストを思わせる宝石のような形だった。2015年のオードトワレではピンクの水玉模様を採用している。名前が共通していても、濃度と容器の版は区別して見る必要がある。
Stella In TwoとL.I.L.Y.:使い方と記憶を、香りの形に
2006年のStella In Twoでは、最初の香水を支えた花とアンバーを分けて、別の使い方を提案した。Peonyは液体のオードトワレ、Amberは練り香水。単独でも、重ねても使える。ステラは、より軽やかな花を入口に新しい人へ届けたいと考え、アンバーを固形にすることで、旅先へも持ち歩けるようにした。
2012年のL.I.L.Y.では、初作でも組んだ調香師ジャック・キャヴァリエと再び協働した。名前は父ポールが母リンダに使った呼び名、Linda, I love youの頭文字に由来する。ステラが愛したのは、春の短い時期に日陰で咲くスズラン。その繊細な姿に、見えない根や土の側を加えて、現代的に表したいと考えた。
香水づくりは、対比の技術の上に成り立っています。
モスを選び、秋のパリで出会ったトリュフを、さらに暗い側面として加える。キャヴァリエも、トリュフのノートでスズランに深みを与えたと説明している。家族の記憶を名前に託しながら、花に何を組み合わせるかを二人で詰めた作品である。
POP:次の世代が、自分たちの香りを持つために
2016年のPOPで、対比の中心はチュベローズとサンダルウッドへ移った。ステラは、年長の世代の花と思われがちなチュベローズを、新しい世代へ紹介したいと考えた。
彼女たちを小さく扱うのではなく、たたえることなのです。
広告に起用したのは、グライムス、ローデス・レオン、アマンドラ・ステンバーグ、ケニア・キンスキー・ジョーンズの4人である。自分の進路や生き方を探す若い女性に、自分たちのものだと思える香りを届ける。そのために、モデルという一つの型よりも、異なる分野で活動する人々と、互いに支え合う関係を見せようとした。
日本では2016年6月1日にオードパルファムとして発売。発売元のブルーベル・ジャパンの資料は、ファラベラバッグに着想を得たモチーフのメタリックピンクのキャップと、その上部に収めたスプレーボタンを説明している。花や木の消費を抑えるためのバイオミミクリー(生物模倣)の技術、FSC認証紙の外箱も、同資料で紹介された選択である。香りの印象に加え、つくり方と、手に取る形までを考えた企画だった。
同じSTELLAの名を持つ、スキンケアとの違い
2022年に発表したSTELLA by Stella McCartneyは、LVMHのビューティー部門と開発したスキンケアである。クレンザー、美容液、クリームを中心とし、詰め替えを取り入れた。2003年の香水STELLAとは商品分野が異なる。ここでたどった香水は、発売当時の資料に基づくブランドの歩みである。
参考文献
- Stella McCartney — About Stella
- Daphne Merkin — Stella McCartney is Everybody’s Fashion Darling、ELLE、2012年10月2日
- Dana Thomas — After 20 Years, Stella McCartney Is Still Fashion’s Sustainability Whisperer、British Vogue、2020年11月8日
- Lala Lopez — Q&A with Legendary Bespoke Tailor Edward Sexton、2009年4月10日
- National Portrait Gallery — Stella McCartney、人物紹介
- Penny Martin — Stella McCartney、The Gentlewoman、23号、2021年春夏
- Rebecca Mann — YSL Beauté makes Stella debut、The Moodie Davitt Report、2003年10月6日
- British Vogue — Smells Like Stella、2015年3月9日
- Rebecca Mann — Divide and conquer: Yves Saint Laurent and McCartney shine on with Stella In Two、The Moodie Davitt Report、2006年6月
- Rebecca Mann — L’Oréal and Stella McCartney bloom anew with L.I.L.Y fragrance、The Moodie Davitt Report、2011年12月16日
- Lisa Niven-Phillips — Stella’s New Audience、British Vogue、2016年7月21日
- ブルーベル・ジャパン — ステラ マッカートニーから、自分らしく生きる女性のためのフレグランス「ポップ」誕生!、2016年6月6日
- Stella McCartney — Introducing STELLA by Stella McCartney: Skincare with a clear conscience


