私はいつも、地中海の香りで自分の香水を彩ろうとしている。
ロリス・アザロ
チュニスのスークで買った布、身体に沿って流れるドレス、肌に残る香り。AZZARO(アザロ)の出発点には、素材を通して装う人の姿をつくる、ロリス・アザロの仕事がある。彼が地中海について語るとき、太陽や海は、幼いころの色や匂いと結びついた記憶であった。その感覚は、服から香水へ仕事を広げる際にも持ち込まれている。
基本情報
- ブランド名:AZZARO(アザロ)
- 創設者:Loris Azzaro(ロリス・アザロ)
- 創業:1967年、フランス・パリ
- 最初の香水:1975年、女性用香水「Azzaro」
- 公式サイト:Azzaro Fragrances
創設者とブランドの成り立ち
祖母のミシンと、スークの布
ロリス・アザロは1933年、イタリア人の両親のもと、チュニスに生まれた。服づくりの基礎を教えたのは、ミシンを持つシチリア出身の祖母である。スークで布を量り買いし、祖母に手伝ってもらいながら、自分のショートパンツや水着、シャツを縫った。
布地は私の子ども時代を魅了した。
ロリス・アザロ
アザロは既製の服を選ぶ以前に、素材を手に取り、身につける形へ変えることを経験していた。ただし、最初の職業はクチュリエではない。トゥールーズで文学を学び、チュニジアでイタリア語を教えていた。
ミシェルへのネックレスから、パリのドレスへ
1957年に出会ったミシェル・カルシーは、のちに妻となる。彼女のためにつくったネックレスから、ビーズのバッグなどへ制作が広がった。1962年にはパリへ移住。ミシェルがモデルとして働き、ロリスは掃除機の訪問販売をして暮らしを支えた時期もある。
1965年にアクセサリーの工房を開き、1967年に自身のブランドを創設する。服飾の中心となったのは、ドレープを利かせた夜のドレスであった。1968年には、胸元にリングを配したドレスが『ELLE』の表紙を飾る。
アザロのドレスを特徴づけるのは、布が身体に沿って流れる線と、ラメや刺繡が放つ光である。立体的なシルエットと柔らかな動き、きらめきが同居する。ジュエリーやバッグから出発した手仕事が、身体全体をどう見せるかという仕事へ広がっていった。ソフィア・ローレンをはじめとする俳優たちがその服を着たことも、メゾンの華やかな像を形づくった。
250本の香水から、予想外の男性用香水へ
1975年、ドレスに添える女性用香水「Azzaro」が登場する。ブティックのためにグラースの小さな研究所がつくったのは、当初250本。需要が製造能力を上回り、ドイツのMäurer & Wirtzが香水ライセンスを担うようになった。そこから提案されたのが男性用香水であった。
もし私の意見が通っていたら、男性用香水を出すことは決してなかっただろう。
ロリス・アザロ
当初は乗り気ではなかった本人も、制作が始まると深く関わった。液体に求めたのは、上等なバーボンを思わせる琥珀色である。調香師ジェラール・アントニー(Gérard Anthony)らとの協働から1978年に生まれた「Azzaro Pour Homme(アザロ プールオム)」は、香りの構成と外観を通して、男性が身につけるアザロの姿をつくった。この転機には、創設者の最初の直感だけでは生まれなかった展開を、協業によって実現した面白さがある。
クローム、そして創設者以後の展開
1996年には「Chrome(クローム)」が加わる。ブランドがその着想として語るのは、ロリスと孫のロマンとの絆である。地中海の青や清涼感に、世代を越えて分かち合う時間が重ねられた。夜の装いから出発したブランドに、家族の親密な関係を表す香水が生まれたのである。
ロリスは2003年11月20日に亡くなった。その後、服と香水の関係は後継のつくり手によって捉え直される。2008年の「Azzaro Couture(アザロ クチュール)」では、当時のアーティスティック・ディレクター、ヴァネッサ・スワードが最初の女性用香水の精神を現代へつなぐことを望み、調香師オーレリアン・ギシャールが新たな解釈を手がけた。1975年の作品と、この2008年版には、それぞれの制作の時代がある。
2016年の「Wanted(ウォンテッド)」も、創設者以後の世代による作品である。2020年3月31日には、ロレアルがクラランスからアザロの香水事業の買収を完了した。2025年には「Forever Wanted Elixir(フォーエバー ウォンテッド エリクシール)」が登場するなど、香水の展開は続いている。
ブランドのこだわり
服と香水に、同じ役割を求める
女性の共犯者でなければならない。
ロリス・アザロ
ロリスは香水に、自分のドレスに似ていることを求めた。この「共犯者」という言葉には、装う人に寄り添い、その人が見せたい姿を助けるという香水観が表れている。ドレスで扱っていた線や光の働きを、香りにも求めていたと読むことができる。アザロを理解するうえで注目したいのは、服と香水が身につける人の存在感にどう関わるかという点である。
ブランドは現在のプールオムで、ラベンダーを軸とするアロマティックなフジェールに、スターアニスとベチバーを重ねた構成を示している。温かさと冷たさを併せ持つアニス、ハーブを思わせるラベンダー、木質感を支えるベチバーという組み合わせだ。琥珀色の液体を多面体のガラスに収めた姿にも、明確な輪郭がある。香りの骨格と、持ったときに見える形を一緒につくる姿勢がうかがえる。
地中海の記憶を、異なる香りへ
同じ地中海の世界も、香りの設計は更新される。「Chrome Parfum(クローム パルファン)」では、ベルガモットに、ファーバルサムとレンティスクによる温かなバルサミック・アコードを合わせている。明るい柑橘と樹脂を思わせる温かさの組み合わせに、青や清涼感を題材とする香水にも表現の幅があることが見える。
大胆さを、素材と構造の判断にする
2016年のウォンテッド オードトワレをつくったのは、ファブリス・ペルグランである。父親がプールオムを使っていた彼にとって、アザロは幼いころの匂いの記憶ともつながるブランドだった。
カルダモンは、このプロジェクトで最初に思い浮かんだ素材だった。
ファブリス・ペルグラン
用いたカルダモンは、莢と種の両方を蒸留したもの。彼はそこに柑橘の側面と、清涼なスパイスの表情を見ていた。構成は、温かなウッドとフレッシュなスパイスの対比。全体を砂時計になぞらえ、豊かできらめくトップから、細く絞ったハートを経て、存在感のあるベースへつなぐ形を考えた。
バレル型のボトルが外側に示す大胆さを、調香師は香りの広がりと絞り込みによって設計している。素材を増やして強さを示すだけでは、砂時計の形にはならない。どこを膨らませ、どこを細くするか。この具体的な判断に、創設者以後のアザロが、惹きつけるという主題を香りへ置き換える仕事を見ることができる。
参考文献
- Azzaro — The Brand
- L’Oréal — Azzaro
- Adscite — Azzaro, 50 ans d’éclat, d’audace et de sensualité(セルジュ・グレーズの著書からの抜粋、2017年12月12日)
- Anne-Laure Quilleriet / Le Monde — Loris Azzaro, couturier et parfumeur(2003年11月24日)
- Éditions de La Martinière — Serge Gleizes, Azzaro, Cinquante ans d’éclat
- Catherine Deydier / Madame Figaro — 1978, Azzaro pour Homme d’Azzaro(2012年8月23日)
- Azzaro — Chrome / Chrome Parfum
- Denyse Beaulieu / Grain de Musc — Azzaro, with or without Couture(2008年11月3日)
- L’Oréal — Azzaro fragrances買収完了の発表(2020年3月31日)
- Azzaro — Azzaro Pour Homme
- Parfumkultur — Fabrice Pellegrin über den neuen Duft von Azzaro(インタビュー、2016年8月24日)
- Azzaro — Azzaro Wanted


