INITIO(イニシオ)|目指す気持ちから、香りを組み立てる

INITIO Oud for Greatnessと黒・白・金の幾何学的なブランドイメージ

コレクションは、機能ごとに構成しています。

カンタン・デュボワ

どんな香りが好きか。その一歩手前で、どんな気持ちになりたいかを考える。INITIO Parfums Privés(イニシオ)は、目指す感情から香水を組み立てるフランスのブランドである。欧州責任者カンタン・デュボワは、コレクションを機能ごとに分けると説明する。官能性、内面の調和、喜びといった狙いが、コレクションを分ける軸になっている。

その考え方を知るには、神秘的な名前の意味だけでなく、狙いを香りにするための判断を見るとよい。ありふれたバニラをどう扱うか。同じ「喜び」を、なぜ二つの香りに分けるか。創作を支える試行錯誤に、このブランドの輪郭が現れている。

基本情報

  • ブランド名:INITIO Parfums Privés(イニシオ)
  • 国:フランス
  • 創設:2015年
  • 主な製品:フランス製のユニセックス香水。コレクションによりオードパルファム、エキストレ ド パルファムを展開
  • 創作の軸:香りの構成と、それによって目指す感情を結びつけること
  • 公式サイト:INITIO Parfums Privés

創設者とブランドの成り立ち

人物の経歴より、香水が担うものを語る

イニシオは、創設者個人の経歴を前面に出していない。2026年の取材でも、CEOのパトリス・ベリアールは、創設者たちが身元の公開を望んでいないと説明している。彼がブランドの背景として挙げたのは、香りに心身へ働きかける役割を見いだしてきた古い伝統だった。

2015年にThe Nationalの取材に応じた当時のアーティスティックディレクター、ナディア(Nadia)も、姓や職歴を明かさず、作品を語った。

私たちは、香水の魔法へ立ち返りたいのです。

ナディア

彼女が説明したのは、素材名より先に、香水がもたらすものを考える制作である。現在の研究との協働も、こうした初期の関心の延長として読むことができる。

事業の歩みと、創作の匿名性

事業面では、パルファム ドゥ マルリーと同じグループに属する。2023年6月、Advent Internationalはグループ創設者ジュリアン・スプレッシャーとの提携合意を発表した。過半数の株式取得を予定し、スプレッシャーは大口の少数株主として残り、エグゼクティブチェアマンとクリエイティブディレクターを継続するという内容である。これは公表されたグループの事業史であり、イニシオの創設メンバー個々の経歴とは分けて捉えたい。

ブランドのこだわり

親しみのあるバニラを、官能性へ向け直す

初期作品Absolute Aphrodisiac(アブソリュート アフロディジアック)について、ナディアが語った課題は、バニラを日用品のようにせず洗練された表現にすることだった。官能性を狙い、その柔らかさにムスクとカストリウムの動物的な側面を組み合わせたのである。

ブランドは現行のアブソリュート アフロディジアックのノートにも、バニラ、ムスク、カストリウムに加え、ホワイトフラワーとアンバーを挙げている。甘さを独立させず、肌や体温を連想させる方向へ結びつける構成として興味深い。これらは香りを説明するノートであり、動物由来原料の使用を示す全成分表ではない。Blessed Baraka、Addictive Vibration、Mystic Experienceも属するAbsolutesは、こうした動物的な表情を探るコレクションである。

欲望を表すための、甘さ・酒・スパイス

Carnal Blends(カーナル ブレンズ)では、ブランドがヘディオンを多用する設計を官能性の軸に据えている。Side Effect(サイド エフェクト)、Atomic Rose、Narcotic Delightなどがこの系列に属する。

ブランドがSide Effectの香りの中心に置くのは、タバコ、バニラ、ラム、シナモンである。甘さに酒のイメージとスパイスを重ねる構成に注目すると、刺激的な名前を香りの具体的な選択へ引き寄せて理解できる。Absolute Aphrodisiacと比べるなら、動物的な側面を伴うバニラと、ラムやタバコを伴うバニラという違いが、試香の焦点になる。

落ち着きと力強さを、異なる素材の配置で考える

Hedonist(ヘドニスト)が掲げるのは、内面の調和である。Musk Therapy、Rehab、Paragon、Power Self、Lift Me Upといった作品を、主にエキストレ ド パルファムで展開する。Musk Therapy(ムスク セラピー)のノートには、ホワイトムスクとピンクムスク、ホワイトサンダルウッド、マグノリア、ブラックカラントが挙げられる。ムスクだけに注目するより、花や果実をどう添える設計なのかを考えると、同じムスクを含むAbsolute Aphrodisiacとの関心の違いが見えてくる。

一方、ウードを軸にしたBlack Gold Project(ブラック ゴールド プロジェクト)には、Oud for Greatness、Oud for Greatness Neo、Oud for Happiness、Oud for Graceがある。パトリス・ベリアールはOud for Greatnessを、内なる力を体現するよう促す作品と説明した。現行のノートでは、ウードにラベンダー、サフラン、ナツメグ、パチョリ、ムスクを組み合わせている。力強さという抽象的な言葉を、木に芳香性やスパイスを重ねる選択と併せて読むことができる。

ここでの調和や力強さは、作り手が目指す体験を示す言葉である。香水名をそのまま効能として受け取るより、その狙いを自分がどんな香りとして感じるかに目を向けたい。

感覚を、評価できる制作の過程へ

イニシオと香料会社dsm-firmenichの協働は2024年に始まり、2025年のPower Selfが最初の成果とされる。ブランドが挙げる柱は、独自のアコード、香りの技術、感情的な反応を測る方法の三つである。

デュボワが説明した目標は、香水全体がもたらす意識的・無意識的な反応を捉えることだった。制作前のベースと完成後の評価にも言及している。素材の特徴を知るところから、組み合わせた香水をどう受け止めるかまで、検討の対象を広げる試みといえる。

その一方で、dsm-firmenichで感情と認知の研究を率いる科学者クリステル・ポルシュロ(Christelle Porcherot)は、個人の経験や文化にも触れている。

文脈もまた影響します。

クリステル・ポルシュロ

感情を制作の目標として定めることと、一人ひとりがどう感じるかは、両方を見ておく必要がある。研究の導入は、すべての人に同じ気分を約束する根拠としてではなく、作り手が狙いを確かめる方法として理解したい。

「喜び」を、一つの甘さにまとめない

研究を取り入れても、完成までの判断が自動化されるわけではない。アジア太平洋地域のマーケティング責任者サラ・トセリは、狙った感情を感じられるまで試みを重ねる制作について語った。

創作の過程では、何度も試みを重ねます。

サラ・トセリ

彼女がSupercharged(スーパーチャージド)で新たな領域として挙げたのは、喜びだった。ブランドは独自のJoydrop Complexを二作品に用いていると説明するが、香りの選択は一様ではない。Wild Rush(ワイルド ラッシュ)は、ベルガモットやラベンダーにバニラ、キャラメルを組み込んだアロマティック フゼア。Sugar Blast(シュガー ブラスト)は、ココナッツ、プラリネ、ラム、バニラなどを挙げるアンバリー グルマンである。

公式が前者に託すのは前へ進む勢い、後者に託すのは温かく遊び心のある喜びだ。同じ目標に別々の香調を与えた点に、コレクションを機能で分けるだけでは終わらない制作上の判断がある。二本を比べるなら、芳香性を伴う甘さと、食べ物を思わせる甘さのどちらに心が動くかを確かめたい。

完成した一本を、重ねる余地も残す

Magnetic Blend 7(マグネティック ブレンド 7)は、ムスクを主なノートとし、単独でも、ほかのイニシオ作品と重ねても使えると公式に案内されている。作品ごとの狙いを持ちながら、着ける人が組み合わせを変えられる余地も残しているのである。

まず一つの香りの構成を知り、次にムスクを重ねたときに何が変わるかを見る。ブランドが提示する感情の名前を入口にしつつ、自分の好みへ戻ってこられることも、イニシオの楽しみ方の一つである。

参考文献