香りを気にすると、鼻の「慣れ方」も変わる?

香りを気にすると、鼻の「慣れ方」も変わる? 香りの科学

同じ濃度の香りを嗅ぎ続けても、香りに注意を向けているときと、音を数えているときでは、弱く感じられるまでの経過が違いました。2018年の研究では、音に注意を分けた条件で初期の強度評定がより早く下がり、香りに集中した条件では、後半に再び香りを強く感じる時間帯も現れました。

この研究が注目したのは、香りへの慣れに「注意の向け先」がどう関わるかです。鼻へ届く香りをできるだけ一定に保ち、人が感じる強さの変化を10分間追いました。

同じ19人が、香りに集中する日と音を数える日を体験

嗅覚検査を通過した19人が、1週間隔で2回参加しました。使ったのは、フローラル・グリーン調の快い調合香料です。嗅覚刺激装置から鼻の近くに一定の流量で届け、前後1分ずつの無臭空気の間に、10分間の香りを提示しました。

参加者は両日とも、香りの強さをスライダーで連続して評価しました。同時に流れる音も両条件で同じです。ただし、一方の日は音を無視して香りに集中し、もう一方の日は、時々混じる高い音の回数を数えるよう指示されました。条件の順番は参加者間で釣り合うようにしています。

つまり、香りに集中するか、香りの評価を続けながら音の課題も行うかを比べた設計です。香りそのものを強めたり弱めたりして、注意を引いた実験ではありません。

最初の1分では、音に注意を分けると弱く感じやすい

どちらの条件でも、香りが始まると約10秒以内に評定が最大となり、その後およそ2分かけて低下しました。最初の最大強度には、統計的に明確な条件差はありませんでした。

違いが現れたのは、その後の下がり方です。提示開始15〜65秒の平均評定は、香りに集中した条件で3.12、音を数えた条件で2.02でした。時点ごとの多数の比較を補正する解析で差のある区間を特定し、同じデータから区間平均を求めています。

群平均の曲線を当てはめると、香りに集中した条件では比較的一定の速さで下がる直線、音に注意を分けた条件では初めに急に下がる指数関数がよく合いました。これは平均的な経過の特徴で、全員が同じ曲線をたどることを示したものではありません。

弱くなったあとにも、香りが再び感じられる波がある

変化は最初の低下だけでは終わりませんでした。香りに集中した条件では、開始約5分前後と約7分台にも、音を数えた条件より強く感じる時間帯がありました。結果の区間は、それぞれ290〜340秒、420〜470秒です。

研究者は、強度評定の揺れ方も分析しました。すると、香りに集中した条件では、約65〜125秒の周期に相当するゆっくりした変動が、音に注意を分けた条件より大きくなっていました。ここで解析したのはスライダーで答えた強さの変化で、脳波のリズムを測ったわけではありません。

著者らは、嗅覚の慣れを単に反応が下がり続ける過程ではなく、注意によって香りの知覚が再び前面に出る、動的な過程として捉えています。知覚の切り替えがどんな神経活動で起こるかは、今後の検証課題です。

呼吸や課題の負担も、解釈に関わる

研究では呼吸も記録し、報告された比較区間の呼吸数には条件差を認めませんでした。一方、呼吸数の変動と香りの評定との結び付きは、音に注意を分けた条件でより強くなっていました。

ただし、呼吸解析の後半の比較区間は、強度評定の差を報告した区間と本文上でずれがあります。呼吸の影響をすべて除外したとまでは読めず、確認できたのは、報告された区間で呼吸数の明確な差がなかったという範囲です。

また、音を数える条件では、注意の向け先だけでなく、同時に行う課題の負担も増えます。著者らも、認知的な負荷や作業記憶の働きをさらに調べる必要があると述べています。19人、1種類の快い香りによる実験であり、不快臭や刺激感の強い香りでも同じ経過になるかは、別に確かめる必要があります。

まとめ

香りに集中したときは、音を数えながら嗅いだときより、初期の強度低下が緩やかで、後半にも再び強く感じる時間帯がありました。約1〜2分のゆっくりした評定の変動も、集中した条件で大きくなっています。

一定の香りへの慣れは、鼻へ届く刺激だけで決まるのではなく、注意の向け方とも関わる。これが研究から得られた中心的な知見です。香りを評価するときに、何に注意を向け、ほかにどんな課題をしているかが意味を持つことを示しています。

研究はUnileverの支援を受け、著者の1人は論文発表時に同社研究開発部門所属でした。独立した利益相反の声明は見当たりません。

参考文献

Fallon, N., Giesbrecht, T., & Stancak, A. (2018). Attentional modulation of desensitization to odor. Attention, Perception, & Psychophysics, 80, 1064–1071. https://doi.org/10.3758/s13414-018-1539-2(公開原著PDF)