Fueguia 1833(フエギア1833)|友人の誘いから始まった香りのギャラリー

Fueguia 1833の代表店舗、ブエノスアイレスのアルベアール店の香水展示空間を描いたイラスト

香水店になるようなインスタレーションをつくろうと思いついたのです。

ジュリアン・ベデル

店舗のはじまり

フエギア1833は、アーティストのジュリアン・ベデルが2010年にブエノスアイレスで立ち上げた香水ブランドである。その店づくりを動かしたのは、友人が持ちかけたアルベアール通り1680番地の店舗の話だった。十分な資金も事業計画もなかったが、ベデルには、まだ存在しないものをつくりたいという思いがあった。

すべては、友人がアルベアール通りのあの店舗の話を持ちかけてくれたことから始まった。

ジュリアン・ベデル

もともとベデルが香りの仕事の出発点として考えていたのは、芸術的なインスタレーションだった。ベルベットで囲んだ室内に中央のテーブルを置き、15の香りを並べる。入ってきた人が蓋を持ち上げて香りを発見し、それぞれに何を感じるかを委ねる。気に入った香りを持ち帰りたいという声が、香水を扱う仕事につながっていった。

1680番地では、2011年に50㎡の販売空間をつくる工事が行われた。建設・設備を担ったIttenGroupと、建築家ハビエル・イトゥリオス(Javier Iturrioz)の共同プロジェクトである。店には音楽家や芸術家、経営者、旅行者が足を運び、フエギアは口コミで知られていった。

香水店を「ギャラリー」と呼ぶフエギアは、現在、ブエノスアイレスのほか、ミラノ、パリ、ニューヨーク、東京などにもその場所を広げている。

FUEGUIA 1833
フエギア
アルゼンチン発の香水ブランドFUEGUIA 1833について、創設者ジュリアン・ベデルの歩み、南米の自然や文化に着想した香りづくりを紹介します。

店づくりの考え方

ギャラリーでも、まず瓶に近づき、香りを嗅いでみることを大切にしている。ベデルにとっては、ブランドの歴史やパタゴニアの物語を知るより先に、目の前の香りに興味を持つことが入り口になる。

香りを確かめるための器具にも工夫がある。スプレー部分にガラスのフラスコをかぶせ、香水を室内へ噴霧せずに提示する。異なる香りが空間で混ざるのを避け、一つずつ確かめられるようにする方法である。

あのフラスコは、単なる面白い飾りではない。

ジュリアン・ベデル

訪れたい店舗

アルベアール店(ブエノスアイレス)

この通りがあるのはレコレータ地区。かつての邸宅がホテルや大使館として使われる街並みが続き、1680番地の向かいには、パークハイアットのホテルとなったパラシオ・ドゥオーがある。

アルベアール店には、木の台に載せた香水瓶を中央の展示台に並べ、その上に丸いガラスの試香器をかぶせた設えが使われてきた。暗い色のカーテンや赤茶色の肘掛け椅子とともに、瓶を一つずつ眺められる室内をつくっていた。

紫のカーテンと植物画、木の台座に並ぶガラス器具や香水瓶があるフエギアのアルベアール店を描いたイラスト。
アルベアール店の展示(2011年の資料に基づくイラスト)

この小さな店でベデルが案内していた香りには、パタゴニアの氷河の風景を描く「ラゴ デル デシエルト」や、シダーウッドに紙や製本の匂いを重ねた「ビブリオテカ デ バベル」がある。まず自分で香りを確かめ、その後で風景や文学の着想を知る。器を持ち上げる行為から、ベデルの創作へと近づける場所だった。

銀座ギャラリー(東京)

銀座のギャラリーで手がかりにしたのは、ベデルが南米で過ごした幼少期の家だった。テラコッタ色のアーチの向こうには、光を受けて色付きのランタンを思わせる香水瓶が並ぶ。商業施設GINZA SIXの一角に、記憶の中の住まいを重ねた空間である。

樹皮を残した赤松の柱、焼杉の家具、タマリンド材。設計を担ったIMAは、南米の家を思わせる設えに、日本の木材や加工を組み合わせた。香水を一つずつ確かめる間にも、柱の表面やアーチの奥行きを眺められる。アルベアールの展示台とはまた違う、住まいのような構えの中で香りに向き合う店だ。

テラコッタ色の壁に連続するアーチと樹皮を残した柱がある、フエギアのGINZA SIX店を描いたイラスト。
銀座店の赤いアーチ(イラスト)

麻布台ギャラリー(東京)

麻布台では、ベデルと日本のチームが「ツリーハウス」を手がかりに、五感で過ごすギャラリーを考えた。木の質感を生かした室内に香水が並び、壁にはエレキギターが掛かる。バーでは香りに合わせて選んだワインを楽しめる。銀座の建築や材料に対し、ここで目を向けたいのは、香りと音楽、味覚を組み合わせる仕掛けだ。

音楽も、出来上がった店に後から加えたものではない。ギタリストでもあるベデルは、空間の設計とともに音を考えた。小型スピーカーを分散し、客同士の会話を妨げないよう響きや音量を整える。流れる曲はクラシックやジャズ、現代の器楽曲などから本人が選んでいる。

コンポジション・ライブラリーでは、好きな香りを二つ選び、5mlボトル2本のセットを購入できる。選んだ香りを重ねたときの変化まで探る楽しみが、ギャラリーでの出会いから続いていく。

参考文献