木の精油に含まれる香気成分セドロールを寝室で揮散させると、眠りに入るまでの時間が短くなり、総睡眠時間が長くなった。2003年の研究は、若い女性11人の睡眠を一晩中記録し、この違いを報告しました。
一方、起きたときの睡眠の実感や眠気、深い睡眠の割合には有意差がありませんでした。「よく眠れた気がする」という評判だけでなく、睡眠の記録と本人の感覚を分けて調べた点が、この研究の特徴です。
香りの弱い単一成分を、睡眠の場面で調べる
セドロールは、セダーウッドオイルなどに含まれるセスキテルペンアルコールの一種です。原著では、高純度のものは香りが非常に弱く、結晶を直接嗅いでも感じ取れないことがあると説明されています。
研究者は、以前の自律神経に関する報告を踏まえ、セドロールが覚醒から睡眠への移行を円滑にする可能性を考えました。多くの成分が混ざった精油をそのまま使うのではなく、精製を繰り返した純度99.8%のセドロールを用いて、睡眠そのものを検証するのが目的でした。
11人が、セドロールと無香の両方で眠る
参加者は、健康な女子大学生・大学院生11人で、平均年齢24.5歳でした。全員が睡眠について何らかの不満を持っていましたが、事前確認では睡眠障害のない人たちです。
最初に自宅で3日間、就寝・起床時刻を大きく変えないなど生活を整え、活動量計と睡眠日誌で確認しました。その後、実験室に6晩泊まります。最初の2晩は環境に慣れるための順応夜とし、残る4晩を本試験に使いました。
各人がセドロール条件と何も香りを付けない条件で、2晩ずつ連続して眠りました。無香を先にする人が6人、セドロールを先にする人が5人と、順序を相殺しています。参加者にも、睡眠段階を判定する人にも、どちらの条件かは知らせませんでした。
セドロールは、いつもの就寝時刻の2時間前から、就寝時刻の2時間後まで、計4時間加熱して揮散させました。室温は約22℃、湿度は50〜60%に調整しています。香りは、まったく感じないか、わずかに感じる程度でした。
寝つきは約7.5分短く、睡眠は約13分長く
脳波、眼球運動、あごの筋電図などを記録し、20秒ごとに睡眠段階を判定しました。その結果、総睡眠時間は無香条件の394.7分に対し、セドロール条件では408.0分となり、有意に長くなりました。
消灯してから眠りに入るまでの「入眠潜時」は、16.8分から9.3分へ、有意に短くなりました。平均では、寝つきが約7.5分早まり、睡眠時間が約13.3分長くなった計算です。
床にいた時間のうち実際に眠っていた割合を表す睡眠効率は、91.9%から95.2%へ高い方向でした。ただし、この差はp=0.08で、通常の5%基準では有意ではありません。原著の考察には睡眠効率も上昇したとまとめる箇所がありますが、結果としては「上昇傾向」と区別する必要があります。
途中の覚醒と、深い睡眠はどうだった?
夜中に目覚めていた時間の合計は、無香条件11.8分、セドロール条件5.3分でしたが、有意差はありませんでした。1分以上続く覚醒に限ると、7.8分から1.7分へ短い方向となり、これもp=0.08の傾向でした。
前半・後半に分けた解析では、睡眠前半の1分以上の覚醒が減る傾向がありました。一方、徐波睡眠と呼ばれる深い睡眠の割合や、レム睡眠の割合には有意差がありませんでした。寝つきと総睡眠時間の結果を、睡眠のすべての側面が改善したと広げることはできません。
起床時の睡眠の実感や眠気の評定にも、条件差はありませんでした。就床前のリラックス感については、セドロール条件で11人全員が「非常にリラックスしている」と答えたと記載されていますが、この項目の条件差の検定は示されていません。睡眠記録で見える違いと、本人の自覚は同じように動くとは限らない結果です。
自律神経の説明は、今回の直接検証ではない
著者らは、セドロールが交感神経の興奮を抑え、副交感神経が優位な状態への切り替えを助け、入眠しやすくした可能性を論じています。ただし、この論文では心拍や呼吸などを記録したと書かれているものの、その自律神経の解析結果は提示されていません。作用経路の説明は、主に先行研究を踏まえた推論です。
体の熱を逃がし、深部体温を下げる働きが関わった可能性も考察されていますが、深部体温は測定していません。香りが弱いため好みや嫌悪の影響を受けにくい、という利点も著者らの解釈であり、好みの異なる人を比較した試験ではありません。
今回確かめた範囲は、睡眠障害のない若い女性11人が、管理された実験室で短期間眠った条件です。市販の精油は成分の混合物で、家庭での濃度や揮散の仕方も違います。原著は将来の睡眠環境への応用を期待していますが、今回の結果だけで、家庭の精油使用や不眠症への効果が決まるものではありません。
まとめ
セドロールを就床前から4時間揮散させた条件では、無香条件より入眠潜時が16.8分から9.3分へ短く、総睡眠時間が394.7分から408.0分へ長くなりました。睡眠効率と一部の中途覚醒は改善方向の傾向にとどまり、深い睡眠・レム睡眠の割合や起床時の自覚には有意差がありませんでした。
弱い香気の単一成分を使い、本人の感想だけでなく一晩の睡眠記録から、寝つきと睡眠量への関わりを示した研究です。結果の中心はこの二つで、作用の仕組みや、より幅広い人・生活環境での再現性は、次に確かめる課題です。
研究の背景・開示:研究当時、著者8人のうち7人は花王東京研究所、1人は国立精神・神経センター精神保健研究所に所属していました。独立した資金提供・利益相反の声明は、原著内では確認できません。
参考文献
山本由華吏、白川修一郎、永嶋義直、大須弘之、東條聡、鈴木めぐみ、矢田幸博、鈴木敏幸(2003)「香気成分セドロールが睡眠に及ぼす影響」日本生理人類学会誌、8(2)、69–73。原著論文/公開PDF


