ラベンダーを嗅ぎ終えた2時間後、脳の結び付きは?

ラベンダーを嗅ぎ終えた2時間後、脳の結び付きは? 香りの科学

ラベンダーを嗅ぎ終わってから2時間後にも、安静にしている脳の活動の結び付きに差が見つかった。2025年の研究は、香りを感じている瞬間だけでなく、その後に残る変化を調べました。

ただし、本人が答えたリラックス感は、無香の対照と比べて有意には改善していません。脳画像に残る変化と、主観的な効果を分けて追った点が重要です。

14分間嗅いだ後、2時間まで追跡する

参加したのは、嗅覚が正常な21〜45歳の健康な女性14人です。各人が約1週間の間隔で2回訪れ、ラベンダーと無香対照の両条件を体験しました。順序は無作為に割り付け、半数ずつが逆の順番となりました。

ラベンダー精油は、ミリスチン酸イソプロピルという溶媒で50%にした液を綿に3滴置き、鼻から15〜20センチほど離れたMRIのヘッドコイルに取り付けました。対照には無臭の生理食塩水を使っています。芳香液と同じ溶媒だけを使った対照ではないことも、条件の違いとして覚えておきたい点です。

撮像は、提示前、14分間の提示中、提示直後、1時間後、2時間後に行いました。「直後」の撮像は、綿を取り除いて再び位置を整えた約3分後です。1時間後と2時間後に香りを再提示することはありませんでした。

参加者は目を閉じ、眠らずに、考えを自由に浮かべながら安静にしました。課題を解くときの成績ではなく、安静時の脳活動を測る研究です。撮像の間は静かな別室で過ごしています。

脳の「結び付き」は、何を意味する?

安静時fMRIでは、脳の各領域の信号が時間とともにどう変動するかを調べます。二つの領域の変動が関連している程度を「機能的結合」と呼びます。これは、脳の配線そのものが増えたことや、神経が直接つながり直したことの測定ではありません。

研究で注目されたのは、重要な刺激への注意などに関わるサリエンス・ネットワークと、内的な思考や自伝的記憶などに関わるデフォルト・モード・ネットワークです。前者をSAL、後者をDMNと略します。著者らは、この二つのネットワークの関係が、香りの提示とその後でどう動くかを調べました。

直後は結合の低下が多く、2時間後は増加が現れた

最初に、あらかじめ決めた脳領域を出発点に信号の相関を調べる解析を行いました。この方法では、ラベンダーと対照の有意差は得られませんでした。

次に、データを共通した変動パターンへ分ける独立成分分析を使いました。この解析では、香りの有無による変化が測定時点によって異なる、という結果が得られました。

提示中は、SAL内や一部の領域との結合が増す一方、DMNの主要な領域である後部帯状皮質などとの結合は低下しました。提示直後には、DMNに含まれる領域など、SALとの結合が低下する場所が多く現れました。

1時間後には、低下が見られたのは少数の小さな領域となりました。そして2時間後には、DMNに含まれる領域などで、SALとの結合が増加する変化が現れました。ずっと同じ状態が続くのではなく、時間に伴って関係の方向が変わる点が、著者らの強調する成果です。

提示中だけ撮像時間が長かったため、その時点を除いても解析を行い、類似した結果が得られたと報告しています。一方、主効果の図と本文には「時間」と「香り」のラベルが入れ替わる記載があり、ここでは時点別の条件比較を中心に紹介しています。

脳画像の差と、リラックスの実感は一致しなかった

参加者はラベンダーをはっきり感じ、平均では好ましい香りと評価していました。しかし、リラックスの自己評価に有意な条件差はなく、リラックス状態の質問紙SRSIにも香りの全体的な効果は見つかりませんでした。考えを自由に浮かべられた程度にも差はありませんでした。

なお、リラックス評点の一部は、表では提示前、本文では提示中として同じ数値が記載されています。時点の特定には留保が必要ですが、主観的なリラックス改善が有意ではなかったという報告は共通しています。

著者らは、2時間後のネットワーク間の結び付きが、柔軟な情報処理に関わる可能性を論じています。ただし、注意力、記憶成績、睡眠、健康状態の改善は今回測っていません。脳の結合が増えることを、そのまま「よくなった」と評価できる設計ではありません。

結果を見ながら解析対象を選んだ、探索的な研究

この研究を読む上で重要なのは、独立成分分析の後、提示前は差がなく、提示中と提示後に差があるというパターンを見て、SALを詳しく調べる対象に選んだことです。差が出るパターンで対象を選んでいるため、最初から解析対象を決めた独立の確認実験とは区別されます。

対象は女性14人、香りは1種類、濃度と提示時間もそれぞれ1条件だけでした。月経の状態は測定していません。また、綿から蒸発する間の香りの強さや質の変化、嗅ぎ続けることで生じる慣れも、撮像中には直接評価していません。

著者らは、これを「香りを嗅ぎ終えた後の脳への影響を調べられる」という概念実証として位置付けています。次は、対象のネットワークや解析法を事前に定め、男性やほかの香り、濃度、提示時間でも再現するかを調べることが大切です。

まとめ

女性14人がラベンダーを14分間嗅いだ実験では、独立成分分析によって、提示後2時間まで安静時脳ネットワークの関係に変化が検出されました。直後にはSALとほかの領域の結合低下が多く、2時間後にはDMNに含まれる領域などとの結合増加が現れました。

その一方、最初の相関解析と主観的なリラックス評価では、有意な香りの効果は得られませんでした。香りの余韻を、変化する脳の結び付きとして追う方法を示した研究であり、その変化が生活上のどんな実感や働きにつながるかは、次の問いとして残されています。

研究の背景・開示:論文は、研究・出版に金銭的支援を受けていないと申告しています。同時に、研究当時の著者にはBrain Impact、LMR Naturals By IFF、IFF、NIRxの社員が含まれ、Brain Impactの科学諮問委員を務める著者もいたことを開示しています。著者貢献欄には一部著者の資金獲得への関与も記載されており、資金声明と企業との関係は別々に読む必要があります。

参考文献

Kupers, R., et al. (2025). Long-lasting effects of lavender exposure on brain resting-state networks in healthy women. Frontiers in Neuroscience, 19, 1555922. 原著論文・公開全文