バニラは甘く柔らかい、レモンはすっとする。こうした言葉で香りを評価すると、実際に嗅いで「似ている」とまとめる場合と、どこまで同じ分類になるのでしょうか。11種類の香料を比べた2004年の研究では、大まかなまとまりは対応しましたが、バラとジャスミンのような近い香りの違いや、レモンの位置にはずれがありました。
少ない言葉で、香りを分類できるか
著者らは先行研究で、香りを表す九つの形容詞を選んでいました。「柔らかい」「甘い」「まろやかな」、「濃い」「強い」「むんむんする」、「透明な」「すっとする」「すっぱい」という、柔らかさ・強さ・明瞭さに関わる言葉です。
少ない言葉で多くの香りを表せれば、評価の負担を減らせます。ただし、こうした言葉には感覚だけでなく感情的な含みもあります。そこで今回の論文は、この九語による分類がどの程度役立つかを、言葉での説明を求めない分類と比較しました。
新しい50人の分類と、先行研究の50人の評定を比較
新しい実験には平均20.7歳の50人が参加しました。バニラ、レモン、バラ、ジャスミン、イランイラン、ラベンダー、ローズマリー、カモミール、ペッパー、サンダルウッド、ヘキセノールの11種類を瓶から嗅ぎ、似ているもの同士を自由にまとめました。
グループ数や所要時間に制限はなく、途中で組み替えることもできました。強さの似通い方や瓶の記号順ではなく、香りの質が似ているかで分類するよう伝えています。香料は調香師が中程度の強さになるよう希釈していました。
比較に使った言葉の評定は、2002年の先行研究に参加した別の50人のデータです。同じ11種類を試香紙で嗅ぎ、九語がそれぞれどれくらい当てはまるかを7段階で評価していました。疲労を避けるため3日間に分けた手順です。同じ50人が二つの方法を体験した比較ではなく、先行研究のデータの再利用と、新しい分類実験を組み合わせています。
二つの「香りの地図」は、大まかには対応した
自由分類では、同じ組に置かれた回数が多い香り同士ほど似ていると考えました。言葉の評定では、九語への点のつけ方が似ている香り同士ほど近いと考えます。その関係を、似た香りが近くに並ぶ二次元の図へ変換しました。
二つの図で、11種類から作られる55組の香り間の距離を比べた相関は0.61でした。完全に一致する地図ではありませんが、共通する関係が見られました。著者らは、少数の形容詞にも、比較的異なるタイプの香りを分ける有用性があると結論づけています。
具体的には、バニラは両方の方法で柔らかい側にあり、ほかの香りから離れました。カモミール、ペッパー、ラベンダー、ローズマリーは一つの近いまとまりを作り、イランイランとジャスミンも近くに置かれました。柔らかさ、むんむんする強さ、透明さという言葉に関わる方向も、おおむね対応しました。
バラとジャスミン、レモンには方法の違いが表れた
一方、言葉による地図では、バラとジャスミンがかなり近くなりました。限られた共通語を使うと、どちらも強く、むんむんする香りとして表され、細かな質の違いを拾いにくかった可能性があります。著者らは、九語だけでは不足することや、7段階の目盛りが粗いことを理由の候補として挙げています。
レモンは逆に、言葉で評定すると「すっとする」「すっぱい」という特徴が目立ち、ほかの香りから離れました。全体の印象で自由分類した場合には、ペッパー、ローズマリー、ラベンダーなどから、それほど際立って離れる位置ではありませんでした。特徴を一つずつ確かめる方法と、全体を比べる方法で、目立つ違いが変わる例です。
これは、言葉を使うことで同じ人の鼻の識別能力が落ちたという実験ではありません。比較したのは、別々の参加者と手順から作った分類結果です。瓶と試香紙の提示方法も異なるため、地図のずれを言語の作用だけに帰すことはできません。
目的に合わせて、言葉と直接比較を使い分ける
著者らは、近い香りの細かな違いを捉えたいなら、追加の形容詞や具体的な由来を表す語、より細かい評定方法を検討すべきだと提案しています。一方、多数の香りを整理するときには、毎回すべてを相互に比べるより、共通の言葉で各香りを評価する方が扱いやすいとも考えています。後者は今回100種類以上を実際に試して確認した結果ではなく、方法上の利点についての議論です。
もう一つの論点は感情です。言葉に感情的な含みがあるにもかかわらず自由分類と共通点が多かったことから、言葉を求めない分類にも感情が関わる可能性があると著者らは考察しています。ただし、今回の分析には先行研究の感情語評定を使っておらず、ストレスなどを直接測って分類の原因と確定したものではありません。
対象は限られた11種類の植物系の香料と若い参加者です。あらゆる悪臭や複雑な香水を三つの方向だけで分類できると広げるより、測りたい違いに合わせて表現方法を選ぶ研究として読むと役立ちます。
まとめ
九つの形容詞による分類は、実際に似た香りをまとめる方法と、大まかな構造で対応しました。バニラの独立した位置や、イランイランとジャスミンの近さは共通していました。一方で、言葉の評定はバラとジャスミンの違いを小さく表し、レモンのすっとする・すっぱい特徴を目立たせました。
言葉は香りを整理するのに役立ちますが、限られた共通語だけでは細かな違いを取りこぼすことがあります。大きな分類をしたいのか、似た二つの香りを描き分けたいのか。その目的によって、言葉と直接の比較を使い分ける意味があると分かる研究です。
研究当時、共著者1人は資生堂の製品開発センター、ほかの2人は東北大学に所属していました。原著には独立した研究資金・利益相反の申告欄は見当たりません。
参考文献
Higuchi T, Shoji K, Hatayama T. Multidimensional scaling of fragrances: A comparison between the verbal and non-verbal methods of classifying fragrances. Japanese Psychological Research. 2004;46(1):10–19. doi:10.1111/j.1468-5884.2004.00232.x


