トイレの床や隙間の菌を調べ、芳香剤成分の届き方を試す

トイレの床や隙間の菌を調べ、芳香剤成分の届き方を試す 香りの科学

トイレの研究では、便器の中だけでなく、床や便器の根元の隙間も調べられています。2021年の研究は、家庭のトイレで細菌が多い場所を調査し、その結果をもとに、芳香剤から揮発した成分を素材に付着させて菌の増殖を抑える試験法を検討しました。

この論文で直接測ったのは、家庭の表面から培養できた菌数と、実験室で成分を吸着させた素材の抗菌性です。著者らが目指したのは、床などに残る汚れから生じるにおいの予防ですが、人が嗅いだ臭気の改善や、悪臭成分の減少を測定した試験は含まれていません。

家庭のトイレで、菌が残る場所を調べた

最初の調査は、兵庫県の10家庭で行われました。少なくとも一人、自分でトイレを使う男児のいる家庭を選び、各家庭で普段の製品と方法による清掃をしてもらった後、床、側面の壁、便器の縁の表面、便器と床の隙間を拭き取って調べました。その後、通常通り使いながら7日間清掃せず、再び採取しています。

菌数は、拭き取り液を培地に広げ、35℃で3日間培養してできたコロニーから数えました。この条件で増殖できる細菌を対象にした測定です。

清掃直後も7日後も、調べた場所の中では便器と床の隙間で菌数が多くなっていました。床の菌数は7日後に有意に増加しましたが、ほかの部位では有意な時間変化は見られませんでした。

続く調査では、同じ県の12家庭で、一週間清掃していないトイレの床、壁、便器の縁の裏などを、より細かく調べました。こちらでは便器の縁の裏の菌数が多く、床と壁がそれに続きました。床の前方・側方について、便器から10 cmと20 cmの場所を比較しても、菌数に有意な差は見られませんでした。

つまり「床がいつでも最も多い」という一順位ではなく、便器の縁の裏や根元の隙間など、掃除しにくい場所にも菌が残るという結果です。地域や家庭の条件を限定した調査で、すべての家庭のトイレの平均を表すものではありません。

空気を介して、成分を素材に届ける

次の実験では、揮発した成分が床材や布に取り込まれ、そこに菌の増殖を抑える性質を残せるかを調べました。対象は、平織りの綿布、綿のタオル、綿のフロアマット、塩化ビニルのクッション材の四種類です。

素材を切って滅菌した後、芳香剤試料とともに密閉したチャンバーへ入れ、23℃で24時間または72時間置きました。チャンバーは約100×63.5×54.5 cmで、住宅トイレより小さい実験空間です。

試料には、炭素鎖の長さが異なる二群のアルケナール、つまり二重結合を持つアルデヒドを組み合わせています。原著が具体例として示すのは、(E)-2-ヘキセナールと(E)-2-デセナールです。蒸発の速さが異なる成分を組み合わせ、時間をかけて素材へ届ける設計を意図しています。

この研究は精油そのものを家庭で噴霧した試験ではなく、特定の揮発成分を含む製品処方と、管理された素材試験を扱っています。

先に素材を曝露し、その後で菌を接種する

成分に曝露した素材は、チャンバーから取り出した後、別の容器に移しました。そこへ黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス・ミラビリス、エンテロコッカス・ヒラエという五種類の保存菌株を接種し、37℃で24時間培養しています。

そのため、菌へ直接芳香剤を吹き付けた試験でも、家庭の床の菌が減ったかを追跡した介入試験でもありません。あらかじめ素材へ届いた成分が、その後の菌の増殖にどれほど影響するかを測る設計です。

抗菌活性値は、対照素材と処理素材それぞれの、接種直後から24時間後までの菌数の変化を、対数で比較して求めました。値が大きいほど、対照に比べて増殖が抑えられたことになります。単純な殺菌率や、最初にいた菌の何%を除いたかという数値とは異なります。

72時間曝露した素材で、増殖抑制を確認

72時間曝露した四素材では、五菌種に対する抗菌活性値が、ほとんどの組み合わせで3を超えました。例外はクッション材と肺炎桿菌の組み合わせで、2.91でした。著者らは、採用した繊維製品の試験規格の基準に照らし、これらの結果を増殖抑制効果として評価しています。

24時間曝露のフロアマットとクッション材でも、試した黄色ブドウ球菌、大腸菌、エンテロコッカス・ヒラエに対して、活性値は2を超えていました。短い曝露時間でも、素材に残る作用が確認されたことになります。

ただし、処理素材で菌数が減る場合だけでなく、菌数は増えても対照より増え方が小さい場合も、この指標では効果として表れます。素材や菌の組み合わせを省いて「すべての菌をなくす」と読むことはできません。

綿への吸着も、化学分析で確かめた

成分が本当に素材へ移ったかを調べるため、綿布を15、24、72時間曝露し、布から抽出した成分をGC/MSで分析しました。72時間後には、揮発成分の吸着量が1 cm²当たり約2.7 µgとなり、著者らは平衡に近づいていると解釈しています。

これにより、製品から成分が揮発し、布へ移り、その布で菌の増殖が抑えられるという一連の説明が支えられました。著者らは、この方式がトイレ表面由来のにおいの予防につながると考えています。

実際のトイレでは、換気、汚れ、材質、製品との距離が変わります。密閉チャンバーでの吸着量と菌の増殖抑制が、家庭内でどの程度の臭気低下につながるかは、別途確かめる必要があります。今回の結果は、感染予防や吸入時の安全性を実証したものでもありません。

まとめ

家庭トイレの調査では、便器の縁の裏や床との隙間に菌が多く、床では7日間の使用後に菌数が増えていました。こうした調査を背景に、揮発成分を素材へ届けて、表面での菌の増殖を抑える方法が検討されました。

実験室では、製品に曝露した布やクッション材で増殖抑制が見られ、綿への成分の吸着も確認されています。においを防ぐ技術の研究には、空気中の香りだけでなく、床や布に成分がどう届くかという視点もあることがわかる研究です。

研究当時、著者5人のうち4人はProcter & Gambleに所属していました。確認した原著には、独立した資金・利益相反声明は見当たりません。関連する製品技術の特許は参考文献に挙げられています。

参考文献

Ishida Y, Vyas R, Chauhan G, Delgado L, Kourai H. Bacterial Contamination Analysis of Residential Toilet Room Environment and Delivery of Residual Bacterial Growth Prevention Efficacy on Residential Toilet Permeable Surfaces Using Toilet Air Freshener Product. Biocontrol Science. 2021;26(2):85–93. doi:10.4265/bio.26.85.