白ワインを赤くすると、香りの言葉まで赤くなる?

白ワインを赤くすると、香りの言葉まで赤くなる? 香りの科学

白ワインを赤く着色すると、その香りを表す言葉まで赤ワイン寄りになる。2001年の研究では、醸造学を学ぶ学生54人が、赤くした白ワインに、もともと赤ワインへ使っていた香りの記述語を当てはめる傾向を示しました。

この論文は、着色ワインの実験だけでできているわけではありません。出発点には、専門家による大量のワイン評を調べる語彙分析がありました。見える色と、香りを言葉にする働きが、どのようにつながっているかを探った研究です。

ワインの香りを表す言葉は、色ごとに分かれていた

研究チームは、専門家によるテイスティングコメントを四つの資料群にまとめて分析しました。フランス語の雑誌評3,000件、ガイドブックから選んだ3,000件、英語のワイン評7,000件、フランスの醸造家の個人記録2,000件です。

分析では、同じ文章の中で一緒に使われやすい語を、統計的にまとめました。ワインの色、産地、年、評価点は、その後で語のまとまりと対応付けています。初めから赤と白の語を指定して分類した手順ではありません。

資料ごとに語彙のまとまりの数や内容は異なりましたが、最初の大きな分かれ目は共通して赤ワインと白ワインでした。フランス語の三資料群をまとめた解析でも、赤と白に対応する二つの語群が得られました。

さらに著者らは、香りの表現に登場する物の色に注目しました。白ワインにはレモン、蜂蜜、バター、白桃、洋梨など、明るい色や黄色を連想させる物が多く、赤ワインにはサクランボ、ラズベリー、カシス、チョコレートなど、赤や暗い色の物が多く使われていました。すべての語がその規則に当てはまるというより、四資料群に共通する傾向として報告されています。

白を赤くする前に、着色料の影響を確認する

語彙と色が結び付いていても、それだけでは、赤と白で本当に香気成分が違うためなのか、見える色の影響なのかは分かりません。そこで、同じ白ワインの色だけを変える実験を行いました。

使ったのは1996年のボルドーワインで、白はセミヨンとソーヴィニヨン、赤はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを含むものです。白ワインの一部に精製したブドウ由来のアントシアニン色素を2g/L加え、赤くしました。色素を入れない白ワインにも、攪拌や酸素への接触は同様に行っています。

事前の対照試験では50人が、色の見えないグラスと赤い照明の下で、着色した白と元の白を比較しました。3試料のうち異なる1試料を選ぶ試験を各人6回行い、著者らは有意な識別がなかったと報告しています。これは着色料が香りを大きく変えていないかを確かめるための確認で、二つの試料があらゆる感覚特性で完全に同一だと証明する試験ではありません。

自分が作った香りの言葉を、1週間後にもう一度使う

本試験の参加者は、ボルドー大学醸造学部の学生54人で、男女同数でした。著名なソムリエだけを集めた実験ではありません。透明なグラスと白い照明を使い、色を見ながら二つのワインを比較しました。

最初の回は、本来の白ワインと赤ワインです。参加者は提示された記述語を使っても、自分の言葉を追加してもよく、それぞれの香りの特徴がどちらのワインに強くあるかを答えました。

1週間後には、元の白ワインと、赤く着色した同じ白ワインを提示しました。このとき各人が使ったのは、前回、自分で選んだ記述語のリストです。語はアルファベット順に並べ直され、前回どちらのワインに使ったかは示されていません。その各語の特徴が、今回の二つの試料のどちらに強いかを再び答えました。

研究者が全員に共通の「正しい語彙」を押し付けず、同じ人の言葉の使い方を二回の比較で追ったことが、この設計の特徴です。同時に、二回目は完全な自由記述ではなく、前回の語を再使用する課題だった点も重要です。

赤くした白ワインに、赤ワインの記述語が移った

最初の回では、白ワインに蜂蜜、柑橘、洋梨など、赤ワインにカシス、ラズベリー、サクランボなどの記述語が使われました。二回目になると、参加者は概して、前回赤ワインに使った語を、赤く着色した白ワインに当てはめました。反対に、元の白に使っていた語は、赤くした試料には使われにくくなりました。

つまり、同じ白ワインを比較していても、色の違いに沿って香りの記述が分かれたのです。専門家のコメントに見られた、ワインの色と香りの語彙の結び付きが、色を操作した場面でも現れました。

ただし、この課題は「赤ワインか白ワインか」を直接当てるものではありません。どの記述語がどちらによりよく当てはまるかを選んだ結果です。赤くした白を赤の言葉で表したことと、すべての参加者が飲料の正体を同じように誤認したことは分けて読む必要があります。

著者らが注目したのは、香りを言葉にする段階

著者らは、色によって香りの説明が変わる現象を、視覚と嗅覚の間の知覚的な錯覚と解釈しました。とくに、においを物の名前へ置き換える「言語化」の段階で、視覚情報が取り込まれる可能性を論じています。

たとえば赤い色を見たことで、赤い果実の候補が思い浮かびやすくなり、曖昧な香りをその候補に沿って説明する、という考え方です。論文では視覚的な心的イメージや、においと言葉の記憶表現まで議論していますが、この実験自体は脳活動や心的イメージを直接測定していません。

研究から確かめられる中心は、色の操作に伴う記述語の変化です。その変化が、嗅いだ瞬間の感覚、香りの同定、記憶から語を探す過程、回答の選び方のどこで起きたかを、完全に分離した設計ではありません。著者らのより広い嗅覚機能についての考察も、この限定的な課題から生まれた仮説として位置付けるのが適切です。

まとめ

専門家のワイン評では、赤と白で香りの語彙が大きく分かれ、そこで挙げられる物の色もワインの色と結び付く傾向がありました。学生54人の実験では、白ワインを赤くすると、前回赤ワインに使った記述語を当てはめやすくなりました。

香りを言葉にするとき、私たちは鼻の情報だけでなく、見える色から得た手掛かりも使っている。大量の文章の分析と、色を変える実験の両方から、その結び付きを示した研究です。

研究はフランス国立科学研究センター(CNRS)、国立農学研究所(INRA)、ボルドー第2大学の支援を受けました。原著本文には独立した利益相反声明は見当たりません。

参考文献

Morrot G, Brochet F, Dubourdieu D. The Color of Odors. Brain and Language. 2001;79:309–320. doi:10.1006/brln.2001.2493