調香師は嫌なにおいも好きになる? 感じ方と言葉を比べた研究

調香師は嫌なにおいも好きになる? 感じ方と言葉を比べた研究 香りの科学

調香師が、苦手に感じるにおいも落ち着いて説明している。その姿を見ると、プロになると好き嫌いまで変わるのか、と気になるかもしれません。2014年の研究で目立ったのは、快不快の評価が薄れることよりも、においを説明する言葉の違いでした。

調香師や食品の香りを設計するフレーバリストは、化学名や香調の言葉を多く使いました。一方、快い・不快という評定では、専門家ほど両者の差が小さくなるという予測は支持されませんでした。研究者が比べたのは、においをどう感じるかと、どう言葉にするかの二つです。

四つのグループが、同じ20種類の香りを評価

参加者は、嗅覚の専門訓練を受けていない人、料理学校の訓練生、フレーバリスト、調香師の各16人、計64人でした。料理訓練生は2年目で、日常的に食品のにおいに接していましたが、嗅覚そのものの特別な授業は受けていません。二つの専門家グループは、平均で約9〜10年の経験を持っていました。

試料は、リナロール、ベンズアルデヒド、酪酸など20種類の単一成分です。別の19人による予備評価で、快さに幅のある試料であることを確認しています。各成分は鉱油で希釈し、気相中の分圧がおおよそそろうよう調整しました。これは、感じる強さまで全試料で同じになることを意味しません。

本試験では、実験者が小瓶を鼻の約1cm下に持っていき、参加者は嗅いだ後、まず強さ、次に快さを9段階で評定しました。その後、同じにおいをできるだけ詳しく言葉で説明しています。試料の提示間隔は45秒でした。

解析では、参加者全体の快さの評定から20成分を比較的快い10種類と、不快側の10種類に分けました。したがって、この分類はその濃度・提示条件での相対的な分け方です。あらかじめ全員に共通する「よいにおい」「悪いにおい」の正解を置いたわけではありません。

専門家になると、快不快が平らになるのか

著者らは、専門家なら素材としてにおいを捉えるため、快い香りをそれほど快く、不快な香りをそれほど不快に評価しなくなるのではないか、と予測しました。しかし、そのような一貫した傾向は見られませんでした。

たとえば、未訓練者の平均評定は、不快側の試料で3.63、快い側で5.58でした。調香師ではそれぞれ3.62と5.45です。快さを尋ねられれば、調香師も快い側と不快側を分けて評価していました。

ただし、四群をまとめて検定した群の主効果は有意でした。その後、複数の比較を考慮して各グループ同士を比べると、有意な組み合わせは確認できませんでした。この結果から言えるのは、予想したような専門家の快不快評価の平坦化が支持されなかったことです。専門家と未訓練者の感じ方が完全に同じだと確定した、とまでは読めません。

「嫌なにおい」から、由来・香調・成分の言葉へ

言葉の違いは、よりはっきりしていました。研究者は自由記述を、快不快を表す言葉、においの由来を表す言葉、香調を表す言葉、化学名に分けて数えています。

具体的には、「花」や「キャンディー」は由来、「ウッディー」は香調、「ベータ・イオノン」は化学名に当たります。「不快だ」は、それらとは別に、評価する人の快不快を直接述べる言葉です。

調香師とフレーバリストは、未訓練者や料理訓練生より、化学名と香調の言葉を多く使いました。由来を表す言葉も、二つの専門家グループが料理訓練生より多く、料理訓練生は未訓練者より多い結果でした。料理に接する経験と、体系的に香料を学ぶ経験とで、記述の仕方が段階的に異なっていたことが分かります。

否定的な感情の言葉は、未訓練者で料理訓練生や調香師より多く使われました。未訓練者とフレーバリストの差は、複数比較の補正後には有意ではありません。このため「どの専門家も快不快の言葉を一切使わない」とするより、記述の中心が、においの特徴や素材を指す言葉へ移っていたと捉えるのが自然です。

また、快い側の試料には、不快側よりも香調や由来の言葉が多く使われていました。説明の豊かさは職業だけでなく、どのようなにおいを説明しているかにも関わっていました。

調香師は強く感じたが、「鼻が敏感」とはまだ別の話

強さの評定では、調香師は未訓練者より、全体としてにおいを強く評価しました。どのグループでも、不快側の試料は快い側より強く評価されています。

著者らは、調香師の方が薄い濃度まで検出できる可能性と、においが何か分かるため強く感じる可能性を検討しています。ただし、この実験で測ったのは提示された試料の強さであり、検出できる最低濃度である閾値は測っていません。強いと答えた理由は、今後の課題です。

同様に、今回の四群比較は、同じ人を訓練の前後で追ったものではありません。専門家は平均年齢も高く、経験、もともとの関心、仕事で求められる説明の仕方などが重なっています。年齢や性別と快さの関連を確認する補助解析はありますが、言葉の違いを訓練だけの因果効果と断定する設計ではありません。

まとめ

調香師やフレーバリストは、未訓練者より化学名や香調の言葉を多く使い、においの由来も豊かに説明しました。一方、専門家ほど快い・不快という評定が平坦になるという予測は支持されませんでした。調香師は、においの強さを未訓練者より高く評価する結果も得られています。

プロが快不快の言葉に頼らず説明できることと、本人に快不快の感覚がないことは別です。この研究は、においを感じる評価と、それを相手に伝える表現を分けて見ることで、専門性の特徴を捉えました。「好きかどうか」に加えて「何を思わせるか」「どんな香調か」という言葉の層があることが、よく分かります。

研究はフランス国立研究機構ANRの助成と、ローヌ=アルプ地域の研究プログラムによる支援を受けています。著者らは、潜在的な利益相反となる商業的・金銭的関係はないと申告しています。

参考文献

Sezille, C., Fournel, A., Rouby, C., Rinck, F., & Bensafi, M. (2014). Hedonic appreciation and verbal description of pleasant and unpleasant odors in untrained, trainee cooks, flavorists, and perfumers. Frontiers in Psychology, 5, 12. 原著論文