恋人の匂いがついたシャツで、眠りは変わる?

恋人の匂いがついたシャツで、眠りは変わる? 香りの科学

恋人の着たシャツがそばにあると、少し安心して眠れる。そんな身近な感覚を、腕時計型の活動量計と毎朝の質問で確かめた研究があります。155人のデータでは、恋人のシャツを枕に掛けた夜は、対照のシャツを使った夜より睡眠効率が高くなりました。

興味深いのは、機器から推定した眠りと、本人の「よく眠れた」という実感が、まったく同じ動きをしなかったことです。2020年の研究は、親しい相手のにおいそのものと、「これは恋人のにおいだ」という認識の両方に目を向けています。

四晩、一人で眠りながらシャツを入れ替える

研究者は、少なくとも3か月交際している異性カップルを募集しました。睡眠データを解析したのは三つの集団を合わせて155人で、平均年齢は約21歳。睡眠障害や慢性的な病気などの条件に該当しない人が対象でした。

最初の集団は女性37人、次は女性40人と男性38人、最後は女性40人です。各人が恋人のシャツで二晩、対照のシャツで二晩眠りました。最初の二集団では未着用のシャツ、最後の集団では知らない人が着たシャツを対照にしています。155組のカップルを同じ一条件で調べた研究ではなく、関連する三つの計画のデータをまとめた解析です。

においを提供する側は、無香料の洗浄用品を使い、香り付き製品やにおいに影響しそうな行動を控えながら、綿のTシャツを24時間着用しました。シャツは回収後に冷凍保存。眠る側には見た目が同じ二枚を渡し、月・火曜と水・木曜で交換して、枕に掛けて使ってもらいました。どちらを先に使うかは無作為で、本人にも担当者にも条件が分からないようにしています。

四晩とも一人で眠り、シャツの交換に合わせて寝具を無香料洗剤で洗うなどの手順もそろえました。実際に相手と同じベッドで眠った場合の比較とは、条件が異なります。

睡眠効率は平均で約2ポイント高くなった

腕に装着した活動量計は、体の動きから睡眠と覚醒を推定します。研究で使った「睡眠効率」は、眠ろうとして床にいた時間のうち、眠っていたと推定される時間の割合です。寝床に長くいることと、そこでまとまって眠ることを分けて見る指標になります。

恋人のシャツを使った夜の平均は88.03%、対照の夜は85.35%でした。繰り返し測定を考慮した統計モデルでも、恋人のシャツによる差は約2.58ポイントで有意でした。日々のストレス、交際期間や関係の質、提示順などを考慮しても、主な結論は変わりませんでした。

さらに、三つの集団を別々に扱ってから結果を統合する内部メタ解析では、平均差は2.14ポイント、95%信頼区間は0.61〜3.68ポイントでした。「約2ポイント」という要約は、この統合結果に基づきます。別々の研究チームが再現した結果を集めたメタ解析ではなく、同じ研究内の三集団をまとめたものです。

この指標は活動量計による推定なので、深い睡眠の量や睡眠段階が増えたとまでは分かりません。一方、単に気分を尋ねるだけでなく、睡眠中の動きに基づく違いが捉えられた点には意味があります。

「よく眠れた」という実感には、においの認識も関わった

参加者は毎朝、全体的な睡眠の質と、どのくらい休めたと感じるかを7段階で回答しました。その平均は恋人のシャツで4.74、対照で4.60でしたが、最初の解析では統計的な有意差には達しませんでした。その日のストレスや曜日を調整した解析では、恋人のシャツの効果が有意になっています。

そのため、主観的な眠りは「変わらなかった」と一言で片付けられません。日々の状況をどう考慮するかによって、判断が変わる程度の差でした。

研究者はさらに、参加者がシャツを恋人のものだと思ったかを調べました。条件の識別は全体で約70%正解でした。実際のシャツの種類と本人の認識を同じモデルに入れると、睡眠効率には実際に恋人のシャツを使ったことが関連し、「そう思ったか」の効果は明確ではありませんでした。

これに対して、主観的な睡眠の質には、恋人のにおいだと思ったことが有意に関連し、実際のシャツの種類の効果は明確でなくなりました。機器から推定した睡眠効率と眠りの実感は、弱くしか相関していません。親しいにおいへの反応を捉えるには、両方の指標が役立つことを示しています。

身近な相手のにおいを、どこまで説明できる?

著者らは、恋人のにおいが相手の存在を感じさせ、安心感や警戒の低下につながる可能性を考えています。ただし、今回その心理・生理の経路を直接確定したわけではありません。また、シャツの正体についての認識自体を無作為に操作した研究ではないため、思い込みだけの因果効果を切り分けた結果とも異なります。

対照が知らない人のシャツだった集団では、未着用シャツを対照にした集団ほど差が大きくありませんでした。これは対照のにおいにも何らかの作用がありうるという手掛かりですが、この設計だけで「知らない人のにおいも睡眠を改善する」とは結論できません。

若く健康な参加者が中心で、観察したのは四晩です。長期間使ったときの持続性や、不眠に悩む人への効果は今後の課題です。原著は既存のメラトニン研究との効果量比較にも触れていますが、同じ参加者で薬とシャツを比較した試験ではありません。

まとめ

恋人が着たシャツを枕に掛けた夜は、未着用または知らない人のシャツを使った夜より、活動量計で推定した睡眠効率が高くなりました。三集団を統合した差は平均約2.1ポイントでした。

一方、「よく眠れた」という実感には日々のストレスや、恋人のにおいだと認識したことも関わっていました。親しい人のにおいは、眠りの実感だけでなく、睡眠中の状態にも関係しうる。この二つを分けて確かめたことが、本研究の重要な発見です。

研究はAmerican Psychological Foundation、ブリティッシュコロンビア大学、カナダ自然科学・工学研究会議などの支援を受けています。

参考文献

Hofer MK, Chen FS. The Scent of a Good Night’s Sleep: Olfactory Cues of a Romantic Partner Improve Sleep Efficiency. Psychological Science. 2020. doi:10.1177/0956797620905615