洗って乾かしたはずのタオルから、ぬれた雑巾のようなにおいがする。2012年の研究は、そのにおいに関わる成分を作る細菌として、モラクセラ・オスロエンシスに注目しました。
においのある洗濯物から菌を見つけただけでなく、分離した菌を使用済みの滅菌タオルへ戻すと、特徴的なにおいと、その主要成分が生じました。さらに、乾燥や紫外線への耐性も調べ、洗濯後の布に残りやすい理由を探った研究です。
洗濯物の「雑巾のようなにおい」を追う
Kubotaらの目的は、洗濯物の特定の悪臭成分を作る微生物を見つけ、その性質を明らかにすることでした。対象の成分は4-メチル-3-ヘキセン酸、略して4M3Hです。汗やぬれた雑巾を思わせる洗濯物のにおいに、大きく寄与する成分として先行研究で報告されていました。
今回の研究では、菌の同定、実際ににおいを作る能力、家庭内での分布、乾燥・紫外線・界面活性剤への耐性を組み合わせて調べています。洗濯物のあらゆるにおいを一つの原因にまとめるのではなく、4M3Hを生む仕組みに焦点を当てた研究です。
においのある30点から、原因候補を分離する
まず日本の15家庭から、悪臭のあるバスタオル16点、ハンドタオル7点、Tシャツ3点、その他4点の計30点を集めました。布の小片から菌を取り出して培養し、頻繁に見つかる菌をグループに分けました。
最もよく検出されたグループは、これらの試料の87%に見られました。これは「悪臭があるとして集めた30点」の検出率で、日本の全洗濯物の87%を意味するものではありません。
さらに、形態、生化学的な性質、16S rRNA遺伝子の配列を調べることで、このグループをモラクセラ・オスロエンシスと同定しました。異なる布から得た代表的な10株が、同じ菌種のグループに位置付けられています。
菌をタオルへ戻すと、におい成分が生じた
原因との関係を確かめるため、研究チームは使用済みのタオルを洗って乾燥・滅菌し、その小片に分離した菌を加えて培養しました。少なくとも3年間の訓練を受けた3人がにおいを評価し、ガスクロマトグラフィーと質量分析で4M3Hも測定しました。
モラクセラのグループでは、強い悪臭と多量の4M3Hが生じました。比較したほかのグループには、4M3Hが検出限界以下のものや、弱いにおいと少量の4M3Hを生むものがありました。菌がいるという観察に、成分を作れるという実験結果が加わったことが、この研究の中心です。
洗濯物から分離した10株だけでなく、保存されていた同種の参照株にも強いにおいを生む能力がありました。洗濯物にいた一部の特殊な株だけの性質ではない可能性が示されています。
新しいタオルでは、同じようには作られなかった
著者らは考察で、使用済みと新品のタオルを比べた追加試験にも触れています。試したモラクセラ株は、使用済みタオルでは4M3Hを作り、新品では作らなかったと報告しました。ただし、この比較の詳細なデータは論文中に提示されていません。
この所見から、洗濯後も残った皮脂や汗などの成分が、菌の作るにおいの材料になっている可能性を考えています。菌と、利用できる材料の両方がそろうことが重要だという見方です。
実際に何が4M3Hの前駆体なのかは、この研究では特定されませんでした。論文は別の細菌によるリナロールからの生成例を紹介していますが、洗濯物でもリナロールが原因だと結論しているわけではありません。材料と代謝経路を明らかにすることは、次の課題として残りました。
洗濯後の布や、家庭の水回りにも見つかる
別の調査では、日本の26家庭から、洗って乾かし、引き出しなどに保管していた59点を集めました。こちらには、においのあるものと、ないものの両方が含まれています。
モラクセラはタオル、Tシャツ、靴下、枕カバーなどで頻繁に検出されました。例えばタオルは21点のうち約86%で検出されています。家庭内の表面を調べた調査でも、台所のシンク、浴室の排水口、洗濯機のフィルターなどから見つかりました。
ただし、菌が検出されたことと、必ず強くにおうことは同じではありません。においの生成には、菌が生きて働ける条件や、利用できる材料も関わります。
乾燥・紫外線と、二種類の界面活性剤で異なる耐性
研究チームは、菌を付けた綿布を乾燥した条件と高湿度の条件で35日間保管し、生き残る菌を調べました。さらに、フィルター上での乾燥試験や、培地上での紫外線ランプ照射も行いました。
調べたモラクセラ株は、比較に使った大腸菌や黄色ブドウ球菌などより、乾燥や紫外線照射後に多く生き残りました。この耐性は、洗濯・乾燥後の布に残る理由の一つとして考えられます。
一方、SDSとABSという二種類の界面活性剤に対しては、高い耐性は見られませんでした。すべての環境ストレスに一様に強い菌、という結果ではなかったのです。
これらの試験で追ったのは主に生存です。乾いた布で35日間ずっと悪臭を作り続けることを確認したわけではありません。また、実験用ランプの照射条件は日光や屋外乾燥と異なるため、この結果だけで日干しの有効・無効を決めることもできません。
まとめ
悪臭のある洗濯物から高頻度で見つかったモラクセラ・オスロエンシスは、使用済みの滅菌タオル上で、雑巾様のにおいに関わる4M3Hを作りました。洗濯後の布や家庭内にも広く検出され、乾燥と紫外線への耐性が高い一方、試した界面活性剤への高い耐性は見られませんでした。
洗濯物のにおいを考えるには、菌が残ることと、残った汚れなどを材料ににおいを作ることを、両方見る必要があります。原因菌の同定から、布の上での生成能力と生存性までつなげた点が、この研究の成果です。
論文では著者8人中7人が研究当時の花王所属と記載されています。確認した主本文に、独立した研究資金・利益相反の声明は見当たりません。
参考文献
Kubota H, et al. Moraxella Species Are Primarily Responsible for Generating Malodor in Laundry. Applied and Environmental Microbiology. 2012;78(9):3317–3324. doi:10.1128/AEM.07816-11. 公開原著全文.


