腐肉臭の花は、夜ごとに匂いを変える?

腐肉臭の花は、夜ごとに匂いを変える? 香りの科学

腐った肉を思わせる強烈な匂い。それは、ショクダイオオコンニャクにとって、花粉を運ぶ虫への合図と考えられています。では、短い開花の間、ずっと同じ匂いを出し続けているのでしょうか。

Rose K. Rossellらが2025年に発表した研究は、温室の1株から出る成分を連続測定しました。知りたかったのは、開花に伴う匂いの量と組成の変化、そして、その合図が空気中の化学反応によってどれほど変わるかです。

花粉を受け取る夜と、送り出す夜

巨大な一つの花に見える部分は、小さな花が集まった「花序」です。その内部には雌花と雄花があり、先に雌花が他の株の花粉を受け取れる状態になり、翌夜に雄花が花粉を送り出します。

研究者は、2024年5月に米国コロラド州立大学で開花した株を調べました。植物の風下約3メートルに置いた測定口で、空気中の揮発成分を1秒ごとに測定。別の方法でも空気を採取し、成分の種類を照合しました。繰り返し測ったのは同じ1株で、複数の株や野生の集団を比較した研究ではありません。

初夜は硫黄系、翌夜は少なく多様に

雌花が働く初夜には、硫黄を含む揮発性成分が大きな割合を占めました。とくに多かったのがメタンチオールです。以前の研究では、ジメチルジスルフィドやジメチルトリスルフィドが目立っていましたが、著者らは、揮発しやすいメタンチオールを従来の採取法では十分捉えられなかった可能性を指摘しています。

硫黄系の成分は、すべて同時に最大になったわけではありません。開き始めの小さな放出に続いて、成分ごとに異なる時刻に大きなピークが現れました。その順序は、単純な蒸発のしやすさの順とも一致しませんでした。著者らは、ためていた匂いが外へ漏れるだけでなく、植物の内部での生産や代謝が時間変化を作ると考えています。

雄花が働く翌夜には、硫黄系の濃度が下がり、他の種類の成分を含む、より均衡した組み合わせになりました。ベンジルアルコールやモノテルペンなど、花の香りとして知られる成分は両方の夜に検出されています。腐肉を思わせる一つの印象の中にも、複数の成分群が重なっていました。

温室の容積と換気量を使った計算では、初夜のメタンチオールによる放出は、硫黄の質量に換算して毎時約12グラムと推定されました。これは植物から出た物質を直接量り取った値ではなく、空気の測定と換気の条件から求めた見積もりです。

一度呼んだ虫を、翌夜まで引き留める?

この夜ごとの差から著者らが考えたのは、最初の夜に強い匂いで虫を集め、花の内部に日中もとどまらせ、翌夜に花粉を付けて送り出す仕組みです。そうすれば、雄花の段階で、もう一度大きな匂いを作って新しい虫を呼ぶ必要が減ります。大きな花序と匂いに投じた資源を、効率よく生殖に使えるという解釈です。

ただし、この実験は虫を追跡して閉じ込めや放出を確かめたものではありません。成分の時間変化が、その仕組みと整合するという段階です。強い腐肉臭と、それ以外の花らしい成分が、遠くから呼ぶ役割や内部へ誘導する役割を分担するという考えも、今後検証する仮説です。

空気が変わると、合図の比率も変わる

匂いは、風に薄められるだけではありません。空気中の反応性の高い物質と出会うと、成分ごとに違う速さで分解されます。虫が成分の組み合わせを手掛かりにするなら、総量だけでなく、その比率が保たれることも大切です。

研究者は、夜間に働く硝酸ラジカルという酸化物質に、測定した匂いが3時間さらされた場合を計算しました。比較的汚染の少ない森林を想定した条件では、初夜の匂いは総量が減っても、成分の比率が比較的よく保たれました。中心となる成分の分解速度が近いためです。一方、翌夜の組み合わせは、成分ごとの反応の速さが大きく異なり、比率が変わりやすい結果でした。

ところが、都市の大気汚染を想定して酸化物質を増やすと、両方の夜の匂いで量と組成が大きく変わりました。初夜の合図も、化学的な形を保ちにくくなったのです。これはモデル計算であり、現地で虫の飛行や受粉の減少を測定した結果ではありません。

まとめ

ショクダイオオコンニャクの匂いは、初夜に多量の硫黄系成分を放ち、翌夜には量と組み合わせが変わる、時間に沿った合図でした。初夜に呼んだ虫を翌夜まで利用するという仮説は、この放出の差と、初夜の成分比が比較的保たれやすいという計算結果を結び付けます。

著者らが示したもう一つの問題は、花が匂いを作れても、その合図が相手に届くまで保たれるとは限らないことです。森林の分断に大気汚染が重なると、離れた株の間をつなぐ化学的なやり取りが妨げられる可能性があります。巨大な花を守るには、生育場所だけでなく、花と虫を結ぶ空気の中の変化にも目を向ける必要があると、この研究は提案しています。

参考文献

Rossell, R. K., Riches, M., Koss, A. R., Brenner, T., & Farmer, D. K.(2025). Efficient Pollination Stinks: Corpse Flowers Use Floral Trapping and Persistent Emissions. Geophysical Research Letters, 52, e2025GL117021. DOI: 10.1029/2025GL117021/原著全文。

研究は米国海洋大気庁、Alfred P. Sloan Foundation、米国国立科学財団の支援を受けています。共著者1人は測定機器の製造元TOFWERKに所属し、他の著者は競合する金銭的利益はないと申告しています。原著:© 2025 The Author(s)、Creative Commons Attribution–NonCommercial(CC BY-NC)。