香水を嗅いで「元気な感じ」「落ち着く感じ」と答えるとき、人は香りと気分を言葉で結びつけています。その結びつきを、感想を直接尋ねる以外の方法でも捉えられるでしょうか。
Cereghettiらが2024年に発表した研究は、香りを嗅いだあとに、気分を表す言葉へどれくらい速く反応するかを測りました。開発したのは、嗅覚プライミング課題、略してOPTという方法です。目的は、香りと感情語の連想を調べる測定法を確かめることでした。
「どう感じる?」と聞くだけでは見えないもの
香りの感想を自分で評定する方法は便利ですが、言葉にしやすいか、人からどう見られたいかなどの影響を受ける可能性があります。そこで研究チームは、香りへの感想を直接答える必要のない課題を考えました。
先に嗅いだ香りが、そのあとに出てくる言葉の処理を助けるかを見る方法です。たとえば、ある香りのあとでは「活力がある」に関わる言葉を素早く分類でき、別の香りのあとでは「穏やか」に関わる言葉を素早く分類できるなら、香りとその意味の結びつきが表れている可能性があります。
従来の連想課題では、二つの香りと二つの意味の組み合わせをまとめて比較するため、どちらの香りが結果を支えたのかを分けにくい場合がありました。OPTでは、一つ一つの香りについて、どの種類の言葉への反応が速いかを調べられるようにしています。
まず単一の香料、次に完成した香水で試す
最初の実験では、メントールとバニリンを使いました。次の実験では、複数の成分を組み合わせた完成香水2種類を使い、より複雑な香りでも測定できるかを確かめました。
香水の銘柄は公表されていません。論文で「Perfume 1」と呼ばれるものは、ベルガモットやレモンなどを含むシトラス・アロマティック系。花の香りに、シダー、サンダルウッドなどの要素を重ねた構成と説明されています。
「Perfume 2」は、論文ではオリエンタル・フローラル系とされ、サンザシやカシス、スミレやジャスミン、バニラ、オポポナックス、ホワイトムスクなどの要素が挙げられています。これらは香りの構成の説明で、配合量を明かした処方ではありません。
どちらも先行研究で、1は活発さ、2は落ち着きと結びつくことが示されていた香水です。違いの小さな香水を無作為に選んだのではなく、まず特徴のはっきりした刺激で、新しい方法を検証しています。
香りのあとに、二つの言葉を分類する
各実験では、香料企業DSM-Firmenichの社員や臨時社員、研修生など46人を募集しました。技術的な問題でそれぞれ2人を除き、44人ずつを解析しています。香水の実験では、反応時間の解析だけ、極端に遅かった1人をさらに除き、43人になりました。
参加者は最初に、香りの強さや好ましさ、なじみ、活発さ・落ち着きを感じる度合いを評定しました。その後、言葉の分類課題に進みました。香りは肌につけず、装置から鼻へ送っています。
分類するのは、落ち着きに関するフランス語4語と、活発さに関する4語です。参加者は画面の言葉を見て、どちらのグループかを、できるだけ速く正確にキーで答えました。香りは無視するように指示されています。
1回香りを送るたびに、言葉を二つ、順に提示しました。全体で96回の分類を行い、所要時間はおよそ15分。香りを何度も送りすぎて慣れが生じるのを抑え、短時間で測ることも、この設計の狙いでした。
最初の言葉には、香りに合う方向の差が出た
メントールのあとでは活発さに関する語、バニリンのあとでは落ち着きに関する語への反応が速くなりました。完成香水でも、同じ方向の結果が得られました。
具体的には、シトラス系のPerfume 1のあと、最初に出た活発さの語への平均反応時間は808ミリ秒、落ち着きの語では844ミリ秒でした。一方、Perfume 2のあとでは、落ち着きの語が797ミリ秒、活発さの語が829ミリ秒でした。差は約0.03〜0.04秒という短いものでしたが、統計的に有意でした。
ただし、香りのあとに二番目に出た言葉では、この組み合わせによる違いは見つかりませんでした。正答率についても、香りに合う言葉だから正しく答えやすいという効果は、両実験とも確認されませんでした。
事前の自己評定も、メントールとPerfume 1は活発さ、バニリンとPerfume 2は落ち着きが強いという方向でした。むしろ、自己評定に現れた差の大きさは、反応時間の差より大きいと報告されています。OPTが、感想を尋ねる方法をあらゆる点で上回ったという結果ではありません。
なぜ反応が速くなるのか?
著者らは、香りが過去の経験と結びついた感情の記憶や、その気分についてのイメージを呼び起こし、関連する言葉を処理しやすくした可能性を提案しています。香りと気分が経験の中で結びつく、という学習の考え方です。
ただし、速い反応がすべて無意識に生じたとは言えません。吸う合図から最初の言葉まで約3秒あり、参加者が香りを認識して、次にどんな言葉が出るか期待する余地がありました。自動的な連想と、意識的な予想の寄与を分ける設計ではなかったと、著者らも認めています。
また、二番目の言葉で効果が見えなかった理由として、香りから時間がたって影響が弱まったことや、最初の回答にかかった時間によって間隔がばらつくことが考えられています。著者らは、今後は二番目の言葉を省く方法も検討できるとしています。
香水の効能ではなく、印象を測る道具へ
ここで測ったのは、言葉の分類速度と香りの自己評定です。心拍などから体が実際に鎮静したか、覚醒したかを調べたものでも、仕事の能率や長時間の気分変化を測ったものでもありません。無臭条件に比べて認知能力全般が高まると結論づけることもできません。
著者らは、OPTを、香りと感情の結びつきを調べる道具として期待しています。一方、わずかな印象差まで見分けられるか、もっと多くの香りを一度に扱えるかは、今後の課題です。今回は二つの気分の分類に限られており、懐かしさや官能性など、多面的な印象を一つの課題で測れるわけではありません。
参加者は企業関係者で、一般の香水購入者を無作為に集めた標本ではありません。著者のうち3人がDSM-Firmenichの社員だったことも開示されています。
まとめ
単一香料でも完成香水でも、香りに結びつく気分の言葉には、最初の提示で反応しやすくなる傾向が見られました。これは、「好きかどうか」だけではない、香りと気分のイメージのつながりを測る手がかりです。
自己評定と、言葉への反応時間。それぞれ異なる角度から香りの印象を捉えることで、消費者が香りをどう受け取るかを、より細かく調べられる可能性があります。そのための測定法と、精度や仕組みをさらに確かめる課題を示した研究です。
参考文献
Cereghetti, D., Coppin, G., Porcherot, C., Cayeux, I., Sander, D., & Delplanque, S. (2024). Beyond self-report measures of arousal: A new priming task to capture activation of relaxing and energizing feelings elicited by odors. Food Quality and Preference, 119, 105227. DOI: 10.1016/j.foodqual.2024.105227 / 原著全文。原著のライセンス:CC BY-NC 4.0。


