ハチにとって花粉は大切な食べ物ですが、花の中にどれだけ残っているかが、外から見えるとは限りません。筒のようなおしべの中に花粉をしまい、小さな穴から出す花もあります。香りを嗅げば、まだ花粉があるか分かるのでしょうか。
2024年、C. Douglas Mooreらは、ナス属の近縁な7分類群で、振動を与えて花粉を取り除いた花と、花粉を残した花の香気成分を比べました。目的は、外から見えない花粉の有無が香りに表れ、訪れる昆虫が使える情報になり得るかを調べることでした。
振動で花粉を取り出す花
この研究で調べたナス属の花には蜜がなく、ハチが得る報酬は花粉です。花粉を入れる葯(やく)という袋は筒状で、先端に小さな穴があります。振動を出せるハチが体を震わせると、そこから花粉が出てきます。
こうした仕組みでは、花粉が減っても、葯の外見はあまり変わりません。もし花粉が残っている花と少なくなった花で香りが違えば、ハチは振動をかける前に、どちらを訪ねるか判断できる可能性があります。研究者らは、この「香りと報酬の対応」を確かめようとしました。
同じ種類の別個体を、同時に比べた
対象は、ナス属のAndrocerasという近縁の集団に属する植物です。同じ種の二つの亜種も別々に扱うため、論文では7「分類群」と数えています。英国の温室で育て、昆虫が花を訪れない条件を保ちました。
同じ分類群・由来の植物を二つ選び、無作為に、一方を花粉除去、もう一方を無処理の条件に割り当てました。除去する側では、電動歯ブラシの振動を花の葯に30秒以上与え、花粉が出なくなるまで取り出しました。めしべの先を避け、受粉そのものによる変化が起きにくいようにしています。
その後、花序を袋に入れ、処理から20分以内に採取を始めて、6時間にわたって出てくる揮発性成分を集めました。葉は袋に入れませんでしたが、茎や未開花のつぼみは含まれます。同じ花の処理前と処理後ではなく、別個体の二条件を同時に比較した実験です。
各分類群で各条件4個体を調べました。ただし、十分な開花個体を用意できなかったSolanum lumholtzianum(ソラナム・ルムホルツィアヌム)だけは、各条件3個体でした。1個体は一度だけ使い、合計54個体から採った記録を分析しました。成分量は、花の数と採取時間に合わせ、一花・一分当たりの放出量に換算しています。
はっきり変わったのは、7分類群のうち1種
比較した五つの揮発性成分の合計は、植物の分類群によって大きく異なっていました。中でもS. lumholtzianumは放出量が多く、花粉を取り除いた条件では、その量が有意に少なくなりました。
この種の平均は、花粉を残した条件で一花・一分当たり約768ナノグラム、取り除いた条件で約67ナノグラムでした。ナノグラムは10億分の1グラムです。この二つの条件では、大きな差が見られたことになります。
一方、残る6分類群では、花粉の除去に伴う有意な変化は見つかりませんでした。ただし、各条件3~4個体という小さな比較です。「全く変化しない」と証明したわけではなく、今回の方法と規模では、明確な変化を捉えられなかったという結果です。
リナロールとファルネソールが大きく減った
S. lumholtzianumの変化で特に目立ったのは、リナロールとファルネソールでした。リナロールは、花粉を残した条件では一花・一分当たり約498ナノグラム検出されましたが、除去した条件では検出されませんでした。ファルネソールも、約171ナノグラムから約5ナノグラムへ減っていました。
別の二つの分類群でも、少量のリナロールが花粉のある条件でだけ検出されました。ただし、そちらでは条件間の差は統計的に有意ではありませんでした。著者らは、近縁の植物に共通する仕組みがある可能性を挙げつつ、追加の検証が必要としています。
また、リナロールには立体的な構造の異なる型があり、ファルネソールにも複数の型があります。今回の方法ではそれらを区別できていません。どの型が昆虫にどのように作用するかまで、この研究で決まったわけではありません。
花粉そのものが香っていたのか
香りが減った理由として、取り除いた花粉そのものが香気成分を出していた可能性があります。研究者らはこれを調べるため、3種で、それぞれ40花から集めた花粉をまとめ、溶剤で成分を取り出して分析しました。
ところが、その方法では、花粉から揮発性成分は検出されませんでした。だからといって、花粉に香りが一切ないと結論することはできません。集められた量が少なく、溶剤での抽出は、花から出る空気を集める方法とも異なります。著者らも、採取法の違いや検出できる量の限界を挙げています。
ほかにも、花粉の除去を花が感知して、葯など別の組織から出す成分を変えた可能性があります。花粉は昆虫への報酬であると同時に、植物の繁殖に必要なものです。その変化が、花の生理状態に結びついているかもしれません。
振動の影響とは、まだ分けられていない
今回の花粉除去には振動を使っているため、花粉が減った影響と、振動や操作を受けた影響を完全には分けられません。花粉を取り除かず振動だけを与える条件はありませんでした。
著者らは、実際のハチが花粉を取り出す場合、損傷を起こしにくい別の方法で取り出す場合、花粉を出さずに振動だけを与える場合を比べることを提案しています。香りが変わる理由を理解するには、成分の出どころと、花の反応の両方を確かめる必要があります。
ハチにとって使える情報なのか
香りが花粉の有無と対応していれば、それは昆虫が報酬を探す手がかりになり得ます。生態学でいう「正直な情報」とは、花に正直な性格があるという意味ではなく、手がかりが報酬の状態と対応している、という意味です。
S. lumholtzianumで見られたリナロールやファルネソールの違いは、その候補です。しかし、この研究では、ハチがその差を嗅ぎ分けるか、学習するか、花を選ぶときに使うかは直接試していません。成分の違いがあることと、昆虫にとって役立つ情報であることは、次の段階で結びつける必要があります。
著者らは、調べた多くの分類群で明確な変化がなかったことから、振動で花粉を得る花では、香りから花粉の残り具合を知る仕組みは一般的ではない可能性を論じています。香りが変わらなければ、ハチは実際に花を振動させるまで、花粉の有無を確かめにくいのかもしれません。
そのような仕組みは、花への訪問を保ち、花粉の受け渡しの機会を増やす可能性があります。ただし、それが植物の繁殖成功を高めたことや、植物が昆虫を意図的にだましていることを示した実験ではありません。近縁の7分類群を超えて、別の植物群でも調べることが課題です。
研究は英国自然環境研究会議のIAPETUS博士課程プログラムによる支援を受けました。著者らは、利益相反となり得る商業的・金銭的関係はないと申告しています。
まとめ
振動で花粉を取り除いたとき、ナス属の7分類群のうちS. lumholtzianumでは、揮発性成分の合計と、リナロール、ファルネソールが明確に減りました。残る6分類群では、同じような有意な変化は見つかりませんでした。
この研究は、花の香りが、単に昆虫を呼ぶだけでなく、隠れた報酬の状態を知らせる情報にもなり得ることを示しています。一方、その対応がどの花にもあるとは限らない。香りの変化を生む仕組みと、昆虫がそれをどう利用するかをつなげることが、花とハチのやり取りを理解する次の課題になります。
参考文献
Moore, C. D., Farman, D. I., Särkinen, T., Stevenson, P. C., & Vallejo-Marín, M.(2024). Floral scent changes in response to pollen removal are rare in buzz-pollinated Solanum. Planta, 260, 15. DOI: 10.1007/s00425-024-04403-4. 原著全文。© Crown 2024. 原著はCC BY 4.0で公開されています。


