パートナーの匂いで、ストレスは和らぐ?

パートナーの匂いで、ストレスは和らぐ? 香りの科学

パートナーの服の匂いに、ほっとした経験はあるでしょうか。その安心感は、体臭そのものが引き起こす反応なのか、それとも「好きな人の匂いだ」と分かることや、一緒に過ごした記憶も関わるのでしょうか。

Franny B. Spenglerらが2026年に発表した研究は、パートナーの自然な体臭を、本人が意識して気づきにくい形で届け、ストレスを和らげるか調べました。結果は、研究者の当初の予想とは違いました。

相手の体臭だけを、装置で届ける

参加したのは、1年以上交際し、関係が良好な異性カップルです。110組220人から測定を始め、条件を満たさなかった人や技術的な問題などを除くと、解析対象は179人、女性91人と男性88人になりました。心拍数は記録の欠損があり、146人のデータを使っています。

体臭は、脇の部分に綿のパッドを付けたTシャツを5晩着てもらい、集めました。その間は香り付き製品を避けるなど、採取条件をそろえています。香水や柔軟剤も含んだ普段の服の香りではなく、できるだけ自然な体臭を取り出すための方法です。

実験では、パートナーの体臭を含む空気か、体臭を付けていない比較用パッドを通した空気を、鼻につながる装置で届けました。さらに、緊張を起こす課題を行う群と、負担の少ない課題を行う群に分けています。匂いと課題の組み合わせは無作為に割り当てられ、参加者と実験担当者は、どちらの匂いか知らされませんでした。

二人が同じ部屋で支え合う実験ではありません。カップルのそれぞれが、別々に測定を受けました。

面接と暗算の緊張を、三つの面から測る

ストレスを起こす課題は、面接を想定したスピーチと難しい暗算です。反応をほとんど返さない評価者の前で、撮影されながら行います。比較群では、評価者やカメラのない状況で、休暇の話と簡単な計算をしました。

匂いは、最初に1分間提示した後、10分間の準備と10分間の課題中にも届けました。研究者は、本人が感じるストレス、心拍数、唾液中のコルチゾールを測定。コルチゾールはストレス時のホルモン反応を見る指標ですが、気分や心拍数と必ず同じ動きをするわけではありません。

安心する方向には、そろわなかった

ストレス課題を受けた人では、パートナーの体臭がある群のほうが、比較用の匂いの群より、感じるストレスが高くなっていました。この違いは、最初の匂い提示後、まだ準備を始める前の測定から見られ、課題終了後の回復期には小さくなりました。

つまり、「体臭によって、課題中のストレスの上がり方が一段と急になった」という結果ではありません。匂い提示後の早い段階から、ストレスの水準に違いが見られたということです。

心拍数にも、パートナーの体臭で高くなる反応が見られ、とくにストレス課題の実行中で目立ちました。一方、コルチゾールには、パートナーの体臭による明確な変化は検出されませんでした。

この条件では、体臭だけによるストレス緩和は支持されず、本人の感覚と心拍数はむしろ高い側に動いたのです。ただし、三つの指標すべてでストレスが強くなったわけではありません。

心拍数が上がるのは、嫌だからとは限らない

著者らは、いくつかの説明を考えています。一つは、パートナーへの魅力や性的な興奮に関わる反応です。心拍数が上がる身体の変化を、目の前の緊張する課題のせいだと受け取り、「ストレスが強い」と感じた可能性があります。

探索的な解析では、普段からパートナーの体臭を性的に魅力的だと感じている人ほど、体臭による課題中の心拍上昇が大きいという関連もありました。ただし、実験中の性的な興奮そのものを直接測定したわけではなく、この仕組みが確かめられたとはいえません。

もう一つは、大切な相手の存在を匂いで感じると、緊張する場面で身体がより活動的になるという仮説です。相手も脅威に関わっているように感じ、備える反応が強まるのかもしれません。これも、今回のデータから著者らが提案した説明です。

「誰の匂いか分かること」も、次の問いになる

著者らが重視するのは、匂いそのものと、それをどういう状況で受け取るかの違いです。服を手に取って嗅ぐ場合には、相手のことを思い出す行動や、安心できるという期待も重なります。そうした意味づけが、以前の研究で見られた心地よさに関わった可能性があります。

ただし今回は、同じ体臭について「相手の匂いだと知らせる場合」と「知らせない場合」を直接比べていません。安心するためには意識的な認識が必須だ、とまでは判断できません。

対象は主に若く、関係が良好な異性カップルです。また、知らない人や、恋人以外の親しい人の体臭とは比較していないため、反応が恋人の体臭に特有かも未確定です。実験室で匂いを連続提示する状況を、日常の抱擁や、好きな香水を楽しむ場面にそのまま当てはめることはできません。

まとめ

パートナーの体臭は、今回の実験では自動的にストレスを和らげる合図にはなりませんでした。ストレスの自己評価と心拍数は高くなり、コルチゾールには明確な匂いの効果がありませんでした。

この違いが示すのは、親しい人の匂いの働きを、単純な「鎮静作用」だけでは捉えきれないということです。安心の記憶を呼び起こすこと、相手への魅力を感じること、その場の緊張に備えること。どの反応が前に出るかを、匂いの認識や状況と合わせて調べることが、次の課題になります。

参考文献

Spengler, F. B., Doerflinger, J. T., Noel, J. A., Ditzen, B., Freiherr, J., & Heinrichs, M. (2026). Smelling the romantic partner’s natural body odor increases psychological and autonomic but not cortisol stress responses. Scientific Reports, 16, 1760. DOI: 10.1038/s41598-025-27639-w(原著全文)。

研究はフライブルク大学の内部資金で実施され、外部資金はないと報告されています。著者らは利益相反なしと申告しています。原著:© The Author(s) 2026、CC BY 4.0。