香りで、友人との動きはそろう?

香りで、友人との動きはそろう? 香りの科学

友人と会話しているとき、二人の身ぶりや動きのタイミングが、自然にそろうことがあります。こうした身体の同調は、相手との関わり方を調べる手がかりの一つです。では、会話する部屋に心地よい香りを加えると、動きはもっとそろうのでしょうか。

2025年、M. R. Coeugnetらは、同性の友人25組、計50人を対象に、会話の目的とペパーミントの香りが身体の同調に与える影響を調べました。会話中の気分だけでなく、実際にどれくらい動いたか、二人の動きが時間的に対応していたかを分けて測った研究です。

協力する、競う、一緒にふざける

各組は、三つの課題を行いました。協力する課題では、社会的・政治的な話題について、賛成と反対それぞれの論点を受け取り、二人で共通の立場をまとめます。競争する課題でも議論をしますが、今度は妥協せず、相手に勝つよう求められました。

もう一つは、楽しい雰囲気を作るための課題です。二人とも嫌いな料理ばかりの5品のコース、または二人とも嫌いな曲ばかりの5曲のプレイリストを、一緒に考えました。好きなものを紹介し合うのではなく、わざと好みに合わない組み合わせを作る遊びです。

三つの課題を、ペパーミントの香りがある場合と、香りを加えない場合の両方で行いました。1条件につき2分間の準備となる時間と、5分間の会話があり、計6条件を経験しています。香りの有無の順序は組によって入れ替え、課題の繰り返しによる影響にも配慮しました。

よく動くことと、動きがそろうことは別

研究者は、向かい合う二人を撮影し、映像の中でそれぞれの身体が占める領域の変化から、動きの量を数値化しました。そのうえで、少しの時間差も考慮しながら、二人の動きの増減がどの程度対応するかを解析しています。

ここでいう同調は、同じポーズを取ることではありません。たとえば、一人の動きが増えるとき、もう一人も増えるなら、同じ方向の同調です。一人の動きが増えると、もう一人は減るなら、反対方向の対応になります。腕を左右のどちらへ動かしたか、という意味でもありません。

動きのデータの組み合わせを入れ替えて作る比較データも用い、偶然だけで生じる対応と区別しました。会話の後には、それぞれが感じた快さと、気分の高ぶりも評定しています。

違いが出たのは、香りより会話の場面だった

二人の動きが同じ方向に同調する程度は、楽しい課題で、協力・競争のどちらの課題よりも高くなりました。楽しい課題では、偶然の対応を基準にしても、明確な同調が見られています。

一方、動きの量そのものが最も多かったのは、競争する課題でした。熱心に身ぶりを交えて議論しても、二人の動きのタイミングまでそろうとは限らなかったのです。競争では反対方向の対応を示す傾向もありましたが、偶然の基準からの差は明確ではありませんでした。

ペパーミントの香りについては、同調の程度を高める明確な効果は検出されませんでした。動きの量、快さ、気分の高ぶりにも、香りを加えたことによる明確な変化は見られていません。

楽しい課題の快さは、競争する課題より高く評定されました。ただし、協力する課題との差までは明確ではありません。「楽しい課題なら、他のどんな会話より気分も良くなる」という結果ではないのです。

香りが届いても、会話に結びつくとは限らない

香りは、多くの参加者が感じられる強さで提示され、65%はミントの香りだと分かりました。したがって、結果を単に「誰も香りに気づかなかったから」と説明することはできません。

著者らが考える可能性の一つは、会話と香りの関係です。議論や遊びに集中している人にとって、部屋のミントの香りは、課題に関係しない背景として扱われたのかもしれません。香りがその場や活動に自然に結びついているかどうかが、注意の向き方や行動への影響を左右する、という見方です。

これは今回直接確かめた仕組みではなく、次に試すべき仮説です。著者らは、日常に近い場面で、状況に合う香りや、体臭、不快なにおいなども比べる必要があると述べています。

今回の対象は友人同士で、25組のうち20組が女性同士でした。香りも1種類です。また、楽しい会話で同調と快さが見られたことから、動きがそろえば必ず友情が深まる、あるいは気分が良くなる、と因果関係を決めることはできません。

まとめ

この実験では、ペパーミントを香らせるだけで、友人同士の動きがそろうという効果は確認されませんでした。一方、会話の目的が変わると、身体の動き方と、その同調の仕方は変わりました。よく動くことと、相手と動きが対応することは、別の現象だったのです。

著者らは、こうした身体のやり取りを理解することが、日常の人間関係や、対人援助の場でのコミュニケーションを考える基盤になると捉えています。香りを役立てられるかを知るには、心地よい香りを置くだけでなく、「誰が、何をしながら、その香りを受け取るのか」まで含めて調べる必要があります。

参考文献

Coeugnet, M. R., Delevoye-Turrell, Y. N., Tschacher, W., & Coutinho, J. (2025). The effect of social settings and olfactory environments on spontaneous movement synchrony. Scientific Reports, 15, 8229. DOI: 10.1038/s41598-025-92318-9(原著全文)。

研究はフランスの研究機関・国立研究機構の事業、およびポルトガル科学技術財団の支援を受けています。著者らは利益相反なしと申告しています。原著:© The Author(s) 2025、CC BY-NC-ND 4.0。