To Define(トゥ ディファイン)— 感情と記憶を、香りの物語にする中国のブランド

To Define(トゥ ディファイン)のワンス。感情と記憶を香りにする中国のブランド ブランド創業者

「多様なスタイルを通じて、土地の文化の核を表現しようとしてきました。」

— シュー・ビンスー

「少年游」「光与光」「笑忘录」。To Define(トゥ ディファイン)の香水には、短い物語のような中国語の名前がついています。若さの記憶、誰かと過ごす心地よい時間、過去を手放す気持ち。その題材を読むと、香料の一覧だけでは見えにくい、一本を作る理由が浮かびます。

中国・寧波を拠点にするこのブランドでは、共同創設者でグラフィックデザイナーのシュー・ビンスーが、香りの物語を視覚にもつなげています。土地の文化に根を置きながら、ボトルの文字や形には現代のデザインを使う。その考えがどの作品に表れているのか、作り手の言葉とともにたどります。

基本情報

  • ブランド名:To Define(トゥ ディファイン)。中国語表記は「寓义」
  • ブランドの始まり:2020年代初頭に共同設立
  • 共同創設者:徐宾粟(Simin Xu/シュー・ビンスー)。グラフィックデザイナー、アートディレクター
  • 拠点:中国・浙江省寧波
  • 主な香水シリーズ:I KNOW ME、Love Actually、The Hours
  • 日本での展開:U NOSE SHOPおよびNOSE SHOPオンライン。日本で紹介されているLove Actually Collectionは7作品

共同創設者とブランドの成り立ち

暮らしの香りから、身につける香水へ

To Defineの歩みには、室内で使う香りの経験があります。ブランド責任者の耿荧は、室内用の香りに商機を見いだし、オンラインで試用サイズを届けながら、最初の顧客との関係を築いていったと話しています。その後、国際的な調香師との協働によって、身体にまとう香水へと展開を広げました。

香水だけを作る家ではなく、暮らしの中で香りをどう使うかを考えてきたブランドです。キャンドルや室内用の香りも、身につける香水も、人の過ごす時間に触れます。現在の詩的な名前や、感情を扱うシリーズを知るうえで、この広がりは大切な背景です。

シュー・ビンスーが担うデザインと物語

共同創設者の一人であるシュー・ビンスーは、平面のデザイン、製品のアイデア、ブランドの企画を横断して手がける人物です。2023年には、Type Directors ClubのAscendersに選ばれています。香水の調香師としてではなく、物語や容器、視覚表現をまとめる立場からブランドを形にしてきました。

彼が重視するのは、見た目の面白さだけで記憶に残すことではありません。デザインと香り、製品と物語の間に、同じ気質が通っていることです。

「デザインと香り、製品と物語は、同じ気質を持たなければなりません。」

— シュー・ビンスー

この言葉を手がかりにすると、ボトルの装飾も、作品名も、香りを理解するための要素として見えてきます。名前が先に気持ちを動かし、香りがその気持ちにどう応えるかを確かめる。To Defineを知るときは、その行き来に注目したいと思います。

感情の観察を、香りづくりの出発点にする

ブランドの創作は、人が抱える感情や問題を観察するところから始まります。自分とどう付き合うか、親密な関係をどう築くか、不安のある環境をどう生きるか。そうした問いを選び、それから香水の開発へ進む方法です。ブランドは香りを、次のように捉えています。

「香りは、身にまとう態度です。」

— To Define

自己理解を扱うI KNOW ME、さまざまな親密な関係を扱うLove Actually、日々の小さな美しさを拾うThe Hours。題材によってシリーズが分かれるため、同じ花や木が出てきても、その役割を作品の物語と一緒に考えられます。中国の美意識を背景に、思想、文化、情緒を香りに結ぶ「詩意内核」という考えも、ここにつながっています。

2023年には、各都市を巡る「城市游牧计划」を始め、2025年には「气味回响计划」へと発展させました。香りと題材に合わせた空間へ人を迎える取り組みです。製品の説明を読むだけでなく、その場で嗅いで、物語と自分の感情が重なるかを確かめる機会を作っています。

ものづくりへのこだわり

I KNOW MEのボトルは、文字を読む角度まで考える

I KNOW MEの包装デザインでは、中国語と英語の物語名が、シルクスクリーン印刷でボトルを巡るように配置されています。正面から一度読むだけでなく、角度を変えると別の文字が見える設計です。光を受けると、その文字が生活の一角に影として現れることも、制作の意図に含まれています。

外箱も、開く段階ごとに形が現れる構造になっています。容器、外箱、輸送用の包装、サンプルのデザインまで同じ考えを通すことで、自己を探るという題材を、手で持ち、開き、眺める動作にまで広げています。香りが時間とともに変わることと、読む角度によって文字が変わること。その二つを重ねて見られる点を評価したいデザインです。

一方、Love Actually Collectionの「Once」は、角を落とした多角形の透明なボトルに、黒い造形的なキャップを合わせています。正面を大きく巡る文字と、中央の作品名が目を引きます。シリーズが変われば、容器の表現も変わる。I KNOW MEの仕様を、すべてのボトルに当てはめずに見ると、ブランドのデザインの幅が分かります。

見栄えと、日常で扱える包装を一緒に考える

シュー・ビンスーは、製品やシリーズを市場の反応に合わせて調整し、包装の構造も継続して見直すと話しています。その具体的な課題には、次のようなものがあります。

「不要な資材のコストを減らし、輸送中の製品の破損リスクを減らす。」

— シュー・ビンスー

物語を豊かにするための包装にも、届けるときの強さや材料の使い方が必要です。儀式のように楽しめる開封と、現実の流通で扱いやすい構造。その両方を考えるところに、デザイナーが共同創設者でもある意味が見えます。

香りづくりでは世界各地の調香師が参加していますが、日本の現行7製品は調香師名を非公開としています。創設者のデザインの仕事と、香りを組み立てる専門家の仕事を分けて見ると、一本の香水に物語と形が集まる仕組みを理解しやすくなります。

代表的な香水と選び方

日本で紹介されているLove Actually Collectionから、題材と香りの組み合わせが異なる作品を見ていきます。ここでいう愛には、心が跳ねる瞬間だけでなく、一緒に何もしない時間や、過去を手放すことも含まれています。

Once — 少年游|若さを、柑橘と白茶へつなぐ

ワンスの中国語名「少年游」は、若い日の旅や遊び、志を思わせる言葉です。南宋の詞人・劉過の詞に着想し、若さが過ぎても残る心の気概を題材にしています。懐かしさだけでなく、今の自分を前へ動かす若い日の心を扱う作品です。

構成にはベルガモット、シトロン、カシスの葉、ジュニパーベリー、ピンクペッパーがあり、ジン、ホワイトティー、イリス、ピオニー、カルダモンへ続きます。土台はシダーウッド、オークモス、ナツメグ、トンカマメ。柑橘の明るさに、茶や酒を思わせる透明な要素と、温かい土台を合わせる設計として読めます。

単に爽やかな柑橘を探すときより、その明るさに白茶やトンカの表情がどう重なるかを確かめたい一本です。名前から昔の香水の再現を期待するより、若さという気持ちを現代の構成で表す香水として見ると、作品の狙いが伝わります。

Dolce Far Niente|何もしない時間を、誰かと共有する

ドルチェ ファール ニエンテは、何もしないことの心地よさを題材にした香りです。ここでの無為は、ひとりで休むことだけではありません。何も起きていないように見える時間が、誰かと一緒にいることで意味を持つ。その小さな変化を扱っています。

マテ、ピーチ、ベルガモットに、イリス、ジャスミン、オスマンサス、ヘリオトロープを重ね、シダーウッド、ガルバナム、ムスクへつなぎます。果実と花だけで甘さを考えず、茶やグリーンを思わせる要素との組み合わせに注目したい構成です。

同じ茶の要素を含むOnceと比べるなら、柑橘とジンを軸にした若さの題材か、ピーチと花を添えた共有する時間か。お茶というノート名だけで似た香りと決めず、何がその相手として置かれているかを見ると、選び分ける理由ができます。

I Prefer|ありのままを選ぶ、花と温かな甘さ

アイ プリファーの題材は「偏爱」。完璧だから選ぶのではなく、その人を選び、受け入れる気持ちです。理想の姿に近づくことを求めるより、今の姿に価値があると伝える物語になっています。

リンデン、ベルガモット、レモン、メロンから、ミモザ、スズラン、イランイランへ進み、バニラ、ムスク、シダーウッド、アンバーで支えます。Dolce Far Nienteと同じく花や果実を含みながら、こちらにはバニラとアンバーという温かさを連想させる土台があります。花の香りを探すなら、茶やグリーンとの組み合わせに惹かれるか、この土台を求めるかが比較の焦点です。

Gezelligheid|愛する人と過ごす時間を、香草と木で

ヘゼリヒハイトは、オランダ語の居心地のよさや、愛する人と過ごす時間のニュアンスを取り入れた名前です。中国語名の「光与光」とともに、穏やかな寄り添いを表しています。

ベルガモット、ビターオレンジフラワー、カルダモン、ミントに、ラベンダー、オレンジフラワー、ナツメグを合わせ、ベチバー、ウッディノート、タイムへつなぐ構成です。温もりという題材を、バニラやアンバーだけに頼らず、花、香草、木の組み合わせで考えられる作品として注目できます。I Preferの甘さを含む土台と比べ、ラベンダーやベチバーを中心に確かめたい人の候補です。

Sonder|過去を手放す気持ちを、香辛料と木へ

ソンダーは、すれ違う他人にもそれぞれの物語があると気づくことを表す言葉です。中国語名の「笑忘录」はミラン・クンデラの小説題に重なり、作品では過去に感謝しながら、新しく始めるために手放すことを扱っています。

レモン、コリアンダー、ルバーブ、ジンジャーに、ルバーブの根、陳皮、クローブ、シナモン、ペッパーを重ね、ベチバー、バーチ、シダーウッド、パチョリ、サンダルウッド、ムスクへつなぎます。複数の香辛料と木を組み合わせる構成は、茶や花を軸にした作品とは別の入口になります。

Gezelligheidと比べるなら、同じ木や香草を含む香水でも、ラベンダーと花を中心に見るか、陳皮やクローブ、シナモンを中心に見るかが違います。静かな名前の印象だけで穏やかな香りと決めつけず、香辛料の表現を確かめたい一本です。

FlippedとPalpitate — 心が動く、二つの方向

フリップドの「某某」は、名前を口にするだけで胸が高鳴る相手を思わせます。グレープフルーツ、ルバーブ、カシス、キューカンバーに、ミント、オレンジフラワー、イリス、ピンクペッパーを合わせ、オークモス、ベチバー、パチョリ、シダーウッドへつなぎます。果実とグリーンの要素を含む構成から、恋の高揚感を考える香りです。

一方、パルピテイトの「涉过深海而来」は、相手の心にある深い海を渡るという物語です。シトラス、ベルガモット、バジル、ビターオレンジの葉に、海水、オーキッド、スズラン、ジャスミンを重ね、シダーウッド、ジュニパーベリー、ムスク、アンバーグリスで支えます。心が弾む瞬間と、相手の内面へ近づく過程。同じ愛でも、果実とグリーンを見たいのか、海を思わせる要素と花を見たいのかで、試す方向が分かれます。

ちなみに、コーヒーの香りは容器の形にも

To DefineのUTOPIAは、コーヒーを題材にした室内用の香りのシリーズです。着想は香調だけにとどまりません。容器の形には、ハンドドリップの漏斗とカップを組み合わせた姿が取り入れられています。暗い色の木の台座や銀色の仕上げ、変化する文字の形も、その世界を伝えるための要素です。

一つの題材を、香り、形、文字へ展開する。香水のボトルで見てきた考えは、ここにも続いています。シュー・ビンスーは、顧客と製品の間に共感を作る難しさについて、率直な言葉も残しています。

「困難に対しても、私たちはわくわくします。」

— シュー・ビンスー

To Defineに惹かれる理由は、詩的な名前の美しさだけではありません。その言葉をどう香りにし、どう持てる形へ変えるのかを考え続けていることです。まず気になる題材を選び、次に、その題材を表す素材の組み合わせを見る。そうすると、自分の物語と重なる一本を探す楽しみが生まれます。

日本での取り扱い

日本ではU NOSE SHOPとNOSE SHOPオンラインで展開され、オンラインの発売は2026年5月29日です。紹介したLove Actually Collectionの7作品は、いずれも50mLのオードパルファムで、掲載価格は24,200円(税込)。取扱店での試香や現在の在庫を確認しながら、題材と香りの両方から選べます。

参考文献