赤ワインを口にしたときの「渋い」は、口が乾く感じ、ざらつき、なめらかさなど、いくつもの感覚を含みます。これらは、タンニンなどの成分だけで決まるのでしょうか。それとも、一緒に感じる香りによっても印象が変わるのでしょうか。
2020年、Elisabetta Pittariらは、イタリアの赤ワイン74点と、それぞれから香りを取り除いた試料を比べました。知りたかったのは、香りが口内の感覚にどう関わるか、そして香りの有無によって、化学成分と感覚評価の結びつきが変わるかということです。ワインの口当たりを、成分分析からどこまで予測できるかにも関わる研究でした。
74点の赤ワインと、香りを除いた対応試料
研究に用いたのは、サンジョヴェーゼやネッビオーロ、コルヴィーナなど10品種の単一品種赤ワイン74点です。いずれも2016年に醸造され、マロラクティック発酵や樽熟成の前に採取されています。市販の熟成済みワイン全般を比べた試験ではありません。
研究者は、低温での超音波処理と減圧蒸発を組み合わせて香りを取り除き、水と食品用エタノールを加えて、元の重量とアルコール度数に戻しました。鼻をクリップで塞ぐ方法ではなく、この処理を選んだのは、普段の試飲に近い呼吸条件で評価してもらうためです。
評価者は、ワインの官能評価経験がある22~49歳の14人で、男性7人、女性7人でした。香りの表現と、渋さに関する7項目、甘味・酸味・苦味の3項目を、基準となる試料を使って訓練しています。
元のワイン74点と脱香した74点を各2回、延べ296試料として15回のセッションに分けて評価しました。試料には番号を付け、参加者にはその正体を知らせず、提示順を無作為化しています。296は評価した試料の延べ数であり、異なるワインの種類数ではありません。
香りを除くと、苦味や一部の渋さが強まった
74点をまとめた解析では、口内の感覚10項目のうち7項目で、香りのある試料と脱香した試料に有意な差がありました。香りを除くと、荒々しい渋さなど一部の強い口内感覚と苦味が強まり、甘味やベルベットのようななめらかさは弱まりました。
ただし、「香りがあると渋さがすべて弱まる」という結果ではありません。渋さを代表する感覚の一つである口の乾き、粉っぽさ、そして酸味には、全体として有意な差が見られませんでした。香りが関わったのは、口当たりのどの側面を評価するかによって異なります。
品種ごとの違いもありました。たとえば、青い植物のような香りが特徴的だったコルヴィーナでは、脱香すると「未熟な感じ」の渋さが弱まりました。一方、ネッビオーロ、サンジョヴェーゼ、アリアニコでは、同じ項目が脱香後に強まりました。香りが一方向に作用するとは限らないことが分かります。
「未熟」「複雑」という言葉には、香りも含まれる
この研究を理解するうえで大切なのが、評価に使った言葉の定義です。「複雑さ」に当たる項目は、穏やかな渋さ、酸味、口から鼻へ抜ける香りが調和した感覚として使われました。「未熟な感じ」は、渋さ、酸味、青い香りが不調和にまとまった感覚です。
どちらも最初から香りを含む複合的な表現なので、香りを取り除いて変わることには、言葉の成り立ちも関わります。純粋な触感を一つだけ測っているわけではありません。この点は限界でもあり、普段のワインの感想が複数の感覚をまとめた言葉であることを示す部分でもあります。
香りの種類と口内感覚との相関を調べると、スパイス様の香りと複雑さ、乾燥果実の香りと乾く感じ、植物様の香りと未熟な感じに、弱いながら有意な関係がありました。コルヴィーナの結果なども合わせ、著者らは、香りから呼び起こされる印象が特定の口当たりに関わる可能性を考えています。
ただし、これは香りの成分を一つずつ添加して確かめた結果ではありません。ワインには多くの成分が共存し、相関だけでは原因を絞れません。著者らも、具体的な香りと渋さの組み合わせは、追加の実験で確かめる必要があるとしています。
成分と口当たりの関係も、香りで見え方が変わる
研究者は、総フェノール、プロアントシアニジン、糖、エタノール、酸度なども測定し、官能評価との関係を調べました。プロアントシアニジンは、ワインの渋さに関わるタンニン類の一群です。
全体として、脱香した試料では、成分量と感覚評価の相関が強まる例が多くなりました。プロアントシアニジンと、口が乾く感じとの相関は、脱香後には0.70程度になりました。糖と甘味の相関も、元のワインでは約0.10だったのに対し、脱香後は約0.60になっています。
この結果は、香りを除いた方が「本当の味」を測れるという意味ではありません。実際のワインでは、口に触れる成分と香りが合わさったものを味わいます。著者らの論点は、ある成分が口当たりをどれほど予測できるかを調べるときにも、香りとの相互作用を考えないと、その成分の働きが見えにくくなるということです。
一方、「未熟な感じ」は、脱香後にはポリフェノール関連の測定値との有意な相関がありませんでした。著者らは、この感覚がタンニンの量だけに対応する尺度ではなく、酸味や香りを含む複数の感覚のまとまりであるという解釈を示しています。
脱香して比べる方法にも限界がある
脱香処理の効果は機器分析で確認され、一部試料の見た目にも有意な違いは検出されませんでした。研究者は、低い処理温度や先行研究を根拠に、元のワインを代表する試料ができたと考えています。
それでも、超音波処理、蒸発、再構成を行っている以上、香り以外の性質が完全に同じだったと断言はできません。鼻を塞ぐ方法などとの比較も、今後の課題として挙げられています。また、今回の評価は訓練された14人によるもので、一般の飲み手の好みや購入行動を直接調べたものではありません。
まとめ
赤ワインの渋さは、乾きやなめらかさなど、いくつもの側面からできています。この研究では、香りを取り除くと、その一部と甘味・苦味が変わり、変化の向きは項目やワインによって異なりました。
香りは、口当たりの評価だけでなく、成分量から感覚を予測するときの関係にも関わっていました。著者らが示したのは、渋さを一つの強弱で済ませず、どの感覚を指しているのかを分け、その感覚と香りがどう組み合わさるかまで調べることが、赤ワインの品質を理解する助けになるということです。
参考文献
Pittari, E., Moio, L., Arapitsas, P., Curioni, A., Gerbi, V., Parpinello, G. P., Ugliano, M., & Piombino, P.(2020). Exploring Olfactory–Oral Cross-Modal Interactions through Sensory and Chemical Characteristics of Italian Red Wines. Foods, 9(11), 1530. DOI: 10.3390/foods9111530 · 原著全文。
原著:© 2020 the authors. Licensee MDPI, Basel, Switzerland. CC BY 4.0。研究は一部、イタリアMIURのPRIN 2015助成を受けています。著者らは利益相反なしと申告しています。


