香り付きのワックスを電気で温めて溶かすワックスメルトは、炎を使わずに部屋を香らせる製品です。目に見える煙が出なくても、蒸発した香料が空気中で反応すれば、新しい粒子が生まれることはあるのでしょうか。
2025年、Satya S. Patraらは、米国パデュー大学の実験住宅で、香り付きワックスを使ったときの空気を詳しく測定しました。研究の目的は、火を使わない製品でも非常に小さな粒子が生成するか、その成長や呼吸器への曝露がどの程度になるかを調べることでした。
住宅の中で、香料の蒸気と微粒子を同時に測る
研究チームは、機械換気を備えた実物大の実験住宅で、ワックスウォーマーを使いました。香り付き製品に加え、香料を入れていないワックスも比較しています。空気中の粒子は、直径約1.18~572.5ナノメートルの範囲を複数の装置で測定しました。1ナノメートルは100万分の1ミリメートルです。
同時に、香料として放出されるテルペン類などの揮発成分、オゾン、窒素酸化物なども追跡しました。さらに、外気を取り入れる量が、住宅の空気量に対して1時間に3.0回分と6.5回分になる2つの換気条件を比べています。これは換気の設定を管理した実験で、一般家庭のどの部屋でも同じ濃度になることを想定したものではありません。
香り成分が空気と反応し、粒子が生まれる
香り付きワックスを使ったすべての測定活動で、ごく小さな粒子が新たに生まれる現象が観察されました。ウォーマーをつけて数分すると、3ナノメートル未満の粒子が増え始めました。加熱を止めた後にも粒子が多い状態は続き、研究者は、空気中に残ったテルペン類が反応を続けたためだと解釈しています。
考えられる中心的な仕組みは、ワックスから出たテルペン類と室内のオゾンとの反応です。反応によって揮発しにくい物質ができると、分子が集まって粒子の核になり、さらに物質が加わって成長することがあります。ここで観察された粒子は、ワックスを燃やした煙ではなく、放出された成分が空気中で反応してできる二次的な粒子です。
この説明を支えるのが、無香料ワックスとの比較です。試した無香料ワックスでは、テルペン類の顕著な放出も、粒子の新たな生成・成長も見られず、粒子の分布は使用前の空気から大きく変わりませんでした。また、香り付きでは、テルペン類とオゾンの反応速度の推定値が、粒子の生成・成長の速さと対応していました。
ただし、生成した粒子のすべてが大きく育つわけではありません。3ナノメートルを超える成長が見られたのは、テルペン類の放出が多い一部の条件でした。成分の反応しやすさの違いも関係すると著者らは考えていますが、成長に関わる揮発しにくい物質そのものは測っておらず、反応生成物の詳細には未解明な部分が残ります。
換気を増やすと、粒子の大きさによって反応が違う
3種類の香り付きワックスを使った粒子生成時の比較では、3~100ナノメートルの粒子は、換気が少ない条件で多くなりました。中央値は空気1立方センチメートル当たり、3.0回分の換気で約4万9,000個、6.5回分で約2,700個でした。
一方、1.18~3ナノメートルというさらに小さな粒子の中央値は、それぞれ約140万個と230万個で、換気を増やして一律に減る結果ではありませんでした。著者らは、香料の濃度、粒子の成長、粒子同士がくっついて数が減る過程などの組み合わせを考察しています。
換気は、すでにある粒子を外へ出すだけでなく、室内の反応条件にも関わります。この実験から、換気を増やせばすべての大きさの粒子が同じ割合で減る、あるいは一定の換気量なら安全になる、と決めることはできません。
呼吸器に入る量は、測定値から推定した
研究チームは粒子の大きさと個数の測定値を使い、成人が呼吸したときに鼻や気管、肺などへ沈着する粒子数もモデルで推定しました。粒子が生成している間の1.18~100ナノメートル粒子では、呼吸器全体への沈着速度の中央値は、1分当たり約290億個となりました。実験前の背景空気に対する推定値より、約3桁高い水準です。
これは人の肺を検査して粒子を数えた結果ではありません。室内空気の測定値をモデルに入れた曝露の推計で、多くは上部の気道に沈着すると見積もられました。論文が呼吸器への負荷を問題にしているのは、こうした高い粒子数ベースの曝露が生じ得るためです。
著者らは、過去の研究で報告されたキャンドル、ガスこんろ、エンジンなどの粒子とも比較し、香り付きワックスから生じる粒子の個数濃度や沈着の推定値が、燃焼に伴う粒子と同じ程度になり得ると指摘しました。ただし、比べた研究では測定場所や対象の粒径範囲が異なります。粒子の数が近いことは、化学組成や毒性、病気のリスクが同じだという意味ではありません。
「火を使わない」だけでは、空気への影響は分からない
この研究は、症状や病気の発症を調べた臨床試験ではなく、できた粒子の毒性も直接試験していません。実験住宅のオゾンなどの条件や、ワックスの処方によって反応は変わるため、すべての製品・使用環境の健康リスクを一つにまとめることもできません。
それでも著者らは、燃焼がないことだけを根拠に、より安全な室内芳香法だとみなすのは十分ではないと論じています。実測された粒子の多さと呼吸器への沈着推定を踏まえ、放出成分の詳しい同定と、生成した粒子の毒性評価を次に進める必要があるという結論です。健康影響がまだ分からないことと、空気中で測定可能な変化が起きたことは、分けて受け止める必要があります。
まとめ
香り付きワックスを温めると、放出されたテルペン類と室内オゾンとの反応によって、ナノメートルサイズの粒子が生まれることが、この実験住宅で示されました。燃やさなくても、香りを放った後の空気中の反応が、粒子への曝露につながる場合があります。
研究が示した課題は、香り製品を評価するときに、製品から何が出るかだけでなく、その成分が室内で何に変わり、人がどの程度吸い込むかまで考えることです。今回の高い粒子数は、その詳しい評価を求める根拠になりますが、特定の病気の危険度や、燃焼製品との安全性の順位を決める答えではありません。
参考文献
Patra, S. S., Jiang, J., Liu, J., Steiner, G., Jung, N., & Boor, B. E.(2025). Flame-Free Candles Are Not Pollution-Free: Scented Wax Melts as a Significant Source of Atmospheric Nanoparticles. Environmental Science & Technology Letters, 12(2), 175–182. DOI: 10.1021/acs.estlett.4c00986 · 原著全文 · 著者公開の出版版PDF。
原著:© 2025 The Authors. Published by American Chemical Society. CC BY-NC-ND 4.0。研究は米国NSF、パデュー大学、ASHRAEの助成を受けています。著者Gerhard Steinerは、測定装置を手がけるGRIMM Aerosol Technikの従業員で、関連する金銭的利益相反を申告しています。


