初めて出会う香りを覚えるとき、短い名前が付いていると、頭の中で整理しやすそうに思えます。では、名前に意味がなくても、その響きが母語に近ければ、分類の学習を助けるのでしょうか。
Yaxiong Caoらが2025年に発表した研究は、この問いを中国語と英語を使う人たちで調べました。香りに言葉を添える効果と、その言葉が慣れ親しんだ言語らしく聞こえる効果を、分けて確かめようとした研究です。
本当の名前ではなく、意味のない「仮の名前」を使う
参加者は、中国語を母語とし、英語にも高い習熟度を持つ80人。主に中国の大学で英語を専攻する学生を募集し、事前の匂いの弁別検査などを通過した人を、無作為に20人ずつ四つの群へ分けました。
三つの群には、それぞれ中国語らしい、英語らしい、ジョージア語らしい響きの「疑似語」を聞かせました。疑似語とは、その言語の音の組み合わせに沿って作った、意味を持たない新しい語です。全員、ジョージア語にはなじみがありませんでした。残る群は、言葉を添えずに匂いだけで学習しました。
「バラ」「バナナ」のような、すでに意味を知っている名前を教えた実験ではありません。何の匂いかを示す画像や、本来の名前も提示していません。
自然な似方ではなく、課題の中で組み合わせを学ぶ
実験には18種類の匂いを使い、三つずつ六組にしました。各試行では、二つの匂いA・Bを嗅いだ後、基準になる匂いXを嗅ぎ、「Xにより似ているのはAかBか」を選びます。言葉がある群は、各匂いの前に、対応する疑似語の録音を聞きました。
大切なのは、正解が匂いの本来の似方で決まっていなかった点です。AとXを組にするか、BとXを組にするかは、研究側があらかじめ割り当てました。参加者は、画面に出る正誤のフィードバックを手がかりに、その課題での組み合わせを覚えていきます。
1日に24試行、4日間で計96試行を練習しました。匂いと疑似語の組み合わせは、毎回完全に一定ではない設定です。練習後のテストでは、全員が言葉を聞かずに回答しました。仮の名前を手がかりに練習することで、匂いだけになっても分類を保てるかを見るためです。
分類は学べたが、名前の上乗せ効果は明確ではない
正答率は、どの群も初日の約44~48%から上がりました。最終テストの平均は、言葉なし群が約68%、中国語風の群が約68%、英語風の群が約69%、ジョージア語風の群が約77%でした。
数字だけを見ると、最もなじみのない響きを聞いた群が高くなっています。しかし、群による改善の差は統計的に明確ではありませんでした。学習が進む曲線を比べても、言葉を添えた各群と、言葉なし群の違いは明確ではありませんでした。
別の統計手法でも、多くの組み合わせは「差がない」側を中程度に支持しました。ただし、ジョージア語風の群と言葉なし群の比較は、差があるとも、ないとも決めにくい結果です。したがって、慣れない言語の響きが優れていたと断定することも、言葉は絶対に役立たないと結論することもできません。
名前が助けになるには、何が必要なのか
著者らは、今回、言葉の利点が明確にならなかった理由をいくつか考えています。一つは、匂いと仮の名前の対応が毎回一貫していなかったことです。安定した結びつきができにくくなり、名前を付ける効果が弱まった可能性があります。
また、匂いだけを覚えるより、意味のない語と匂いの両方を処理するほうが、初めは負担になったかもしれません。なじみのある響きは、既存の単語や文字を連想させ、新しい匂いとの対応づけをかえって複雑にする、という説明も提案しています。
これらは未検証の仮説です。ジョージア語風の群の数字が高かった理由が、余計な連想の少なさや注意の向け方だったかは、今回の結果だけでは分かりません。
対象は1群20人と小さく、小さな効果を捉えきれない可能性があります。また、4日間の人工的な分類課題なので、意味を知る香りの名前を使う場面や、長期的な記憶へそのまま広げることはできません。原著には、方法に示された人数と一部の個人別改善率などに記載の不整合もあり、細かな割合には留保が必要です。
まとめ
今回の参加者は、言葉があってもなくても、課題で決められた匂いの分類を学びました。一方、仮の名前を付けることや、母語に近い響きにすることが、明確な追加の助けになるとは示されませんでした。
著者らが重視するのは、名前が感覚を助けるかどうかを、言葉の有無だけで考えないことです。名前と匂いがどれくらい安定して結びつくか、意味があるか、どんな経験を持つ人が使うか。そうした条件を具体的に変えて調べることが、香りの学習に言葉を生かす仕組みの理解につながります。
参考文献
Cao, Y., Majid, A., & Vanek, N. (2025). Not all verbal labels grease the wheels of odor categories. Language and Cognition, 17, e33, 1–24. DOI: 10.1017/langcog.2025.1(原著全文)。
原著:© The Author(s), 2025、Cambridge University Press刊、CC BY 4.0。


